Merzbow Works

Rainbow Electronics (Alchemy:1991)

Tramsformed from about 21 hours tapes for 14 fragments.
Raw material tapes were recorded in 1987-90
Including live at V2(23/9/89),Diogenes(3/10/89),Heaven's door(22/6/90) & Gig Hall(12/6/90)

Mixed at ZSF produkt studio,Tokyo,27-28/8/90
All decomposed by Masami Akita
Production ZSF Produkt 1990

 サブタイトルは"Works all cut-up from works"。クレジットによれば、四拠点でのライブ音源と87〜90年に作られた音素材を混ぜ合わせた作品。
 初期のテープ・コラージュを思わせる、どこかほのぼのしたムードを感じた。おれだけか、そんなこと考えるの。

 ライブ会場は東京のヘブンズ・ドアしか知らない。あとはどこだろ。当時のライブ音源全てを集めたのかは分からない。が、比較的活発にライブやってたのが伺える。

 "グッド・アルケミー・シリーズ"の一環としてリリースされた。ブックレットにインキャパシタンツのT.美川が文章を寄せている。
 アルケミーの社長、JOJO広重のコンセプトは「純粋にノイズをやっている連中をシリーズものにして出す」だという。
 他にどんなアルバムをリリースしたのか・・・。不勉強で、調べ切れていない。

 ジャケットは12ページに及ぶブックレット形式。クレヨンの殴り書きをコラージュにしたような抽象画が続き、さほど意味があるとは思えない。ガジェットとしての迫力はあるが。
 CD盤面もクレジットめいたものは無く、簡素なつくり。徹頭徹尾"ノイズ"へ、すがすがしくこだわった。ざらついたオブジェの迫力だ。
 ファウストの影響ありと秋田は自己分析するが、ファウストを未聴なため比較出来ず。ごめん。

 アルバム一枚、一曲ぶっ通し。聴くのに体力が必要。なにせ、さまざまなノイズが延々と続くんだから。
 ただしさまざまな音世界を一時に味わえる意味では、お得な作品。ここまでのメルツバウの、ベスト盤として聴くのも面白そう。
 不思議なのは、けだるげなムードがわずかに漂うこと。テンションあげて70分一本勝負って、メルツバウには可能なはず。

<全曲紹介>

1.  (73:21)

 アナログでノイズを、当時のメルツバウは作っていた。冒頭から豪快な機械の咆哮がうねり、細切れのサイレンみたいなハーシュと混ざる。
 エレクトロのでこぼこが出来、すぱっと音が切り替わった。幾度もの場面転換が、テープを繋いでる箇所か。

 スタジオ・テイクとライブ録音の区別はできず。ストーリーがあるのか分からなかった。
 ごちゃ混ぜにノイズ群を繋ぐことで、大きな流れを作ってる様子。
 いくつものノイズが混ざっているが、比較的すっきりとしたつくり。ピーク・レベルを振り切るような強引さはない。
 ノービートでノイズが貫く。

 5:12で明らかに流れは寸断され、テープ・コラージュの断続がしばし流れる。
 混沌とした樽をガシャメシャにかき回すかのごとく。
 クロスフェイドでなく、あくまでカットアップ。いさぎよく断片を繋ぐ。 左右のチャンネルを飛び交うノイズは、素材自身か編集によるものか、はたしてどちらだ。
 
 のちにコラボで行うような、複数素材の並行活用は行わない。あくまで個々の素材を大切に扱い、繋ぐ。
 録音にあたっての機材は細かく書かれていない。が、エフェクターによるエレクトロ・ノイズのほかに、メタル・パーカッションらしき箇所もわずかに伺える。

 すでにヒップホップが市民権を得ていた頃。秋田昌美はDJ的な意識をもって繋いでいたのか。
 左右のチャンネルをせわしなく飛びかうノイズの寸断は、スクラッチをミキサーで飛ばす手法を連想した。

 低音から高音までふんだんにノイズが喚く。ノイズ行為そのものでなく、音色にこだわっていそう。じっと聴いていると、メルツバウ流のグルーヴに乗せられてスリルを覚えた。
 ハーシュ・ノイズでありながら、カットアップを重ねてゆとりを作る。
 めちゃめちゃなテープ編集で、聴き手へジェットコースター的な混乱を強いず、手持ち素材を丁寧に紹介してる。
 複数のパルスが飛び交う17分前後では、ポリリズムっぽい瞬間もあった。

 素材を片端からメドレーで繋ぐため、退屈しない。たまにコミカルな音があるものの、基本は突き進むハーシュ。爽快さが前面に出る。
 たまに音像がこもる部分もあるが、なぜだろう。ライブ音源かな。
 マスタリングはきっちりなされてるが、あんがいダイナミクスは大きい。 
 25分辺り、奥行きをがっと効かせて前後させるノイズは、ほんのりホラー風味も。
 メタル・パーカッションがうごめき、不穏なムードを漂わす。こもり気味なのが惜しい。
 この音素材はライブだろうか。気にいった素材らしく、かなり長く使った。

 33分を過ぎた頃から、生ドラムの演奏もハーシュの奥で聴こえた。叩いてるのは秋田自身だろう。
 中途半端にビートが爛れ、ノイズに埋もれた。ランダムな連打ながら、パーカッションとしてあおったりしない。
 相当に音世界が変貌するが・・・素材そのものをミックス、クロスフェイドさせてる気もしてきた。

 42分を回って、再び豪快なハーシュが全面に飛び出した。こもった音に聴こえるのは、もしかしたらぼくの耳がやられかけているのかもしれない。
 ヌケがよくなったのは44分を経過して。太い地鳴りとハム音が重なる。すうっと流れる甲高い音が、ハウリングみたいできれいだ。
 長尺作品を意識してか、メリハリのある構成にしてる。音響派のミュージシャンなら、単調さを恐れないはず。このドラマティックさを意識した点に、メルツバウのポップ性が見え隠れする。
 
 50分経過。またしてもノイズは一旦矛を収め、奥へこもってミニマルな要素に興味を示した。
 しかし一分足らずで、明確なビートのノイズへ。のちにメルツバウは明らかにビートを意識した作品をいくつも残すが、その片鱗にできるかもしれない。
 アナログ機材のためか、意図的なのか、サンプル・ループのような持続性はない。似たようなノイズが続いても、表情は常に変わってる。

 肉声をいじったような唸りが2〜3度。さらに変調させ、エコーの響きだけを強調。
 プロペラ音に紛れて、幾度も形を変えて登場する。この瞬間が好き。もっと膨らませて、一曲を作って欲しかった。

 あとはエンディングまで一気に進む。迫りくるフィルターのイズの連発は凄く不安をあおられた。個人的に逆ツボなノイズなのかも。
 カットアップを多用し、豪腕で前へ前へ進んだ。

 ノイズのロープがよじられ、一本にまとめられ中央にそびえたつ。幅広いフロアの、つるつるすべる床。ノイズに近づこうと、せわしなく足音が聞こえる。  
 真下へ、あるいは真上へ。鋭く貫き、穴を通す。噴出す水。ドリルの冷却か。
 横へもふくらみ、次第に輪郭がぼやけてく。ゆったりとうねる。素早いパルスが太く鳴る。
 ムードはゆったりと。背後に大きなパワーをうかがわせるも、表面はどっしり構えた。
 
 じわじわとフェイドアウトし、エレクトロな音世界に移り変わった。
 びりびり唸る低音。雰囲気はあくまでノービート。右チャンネルで唸るざらついたモーター音。

 唐突に音が止まった。はっきりと分かる、空白。
 疾走するモーター音が中央へ走ってくる。
 いくども繰り返す、空白。エンディングを控え、いつ終わるかとどきどきさせた。
 
 しかし、ノイズはしぶとく再開。
 くっきりしたハーシュが辺りを睥睨し・・・カットアウト。

  (2005.3記)

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