Merzbow Works

Puroland([OHM]:2002)

Recorded and mixed by Masami Akita at Bedroom Tokyo,2000-2001
Final mix on 26th october 2001

 カバーデザインはJazzkammerのLasseが担当。イラストをコンピュータでコラージュ処理したんだろうか。
 表ジャケではさまざまな蝶が乱舞する。裏ジャケにはひっそりとカエルが覗く。
 当時のメルツバウは動物愛護に強い興味を示していた。
 いくつか発表された"動物シリーズ"の一作、と位置付けられるだろう。

 もっとも音楽はテーマと別物。ハードなノイズがたんまり。
 ループが多い。単調とまでは言わないが、もう少し変貌がほしかった。
 ひたすら埋め尽くす曲と、隙間を生かした音作り。曲によってアレンジの強調具合が変わる。

 めずらしくカバーが2曲収録された。
 Led Zeppelinの'Celebration Day'、The Monkeesの'Pleasant Valley Sunday'。
 カバーも異例だが、選曲もすごく意外だ。
 残念ながらどちらもオリジナルを未聴で、聴き比べできてませんが・・・。
 ちなみにカバーの音像は、いわゆるメルツバウ印です。
 
 全4曲で50分弱と、比較的短めな作品に仕上げた。
 
(全曲紹介)

1.Pilgrimage to Puroland(13:15)

 ゆよん。とひょん。
 不安げにはずむ音から始まったトラックは、ギターのループへ引き継がれる。
 カラ明るい和音の執拗な繰り返しを、針金ギターで引き出す。

 この文脈で聴かされると、ハーシュっぽい音もエレキギターに聴こえるぞ。いや、素材は正真正銘のエレキギターかな。
 単一ノイズがサンプリングされ、ロングトーンでループ。

 ほんのりオリエンタル。ハーシュ国の雑踏を生録したかのよう。
 この国の動力機関は蒸気だろうか。
 火花をぱちぱち散らせ、リズミカルに沸き立つ。
 ピストンはしゃくりあげ、不規則なビートを打って消えた。

 ハードなノイズをドローン風に右上へ位置させ、メルツバウはくるくると表情を変える。
 決してひとつところに止まらぬバランス感覚がすばらしい。

 鋭いフィルターノイズが、全てを覆い尽くす。
 断片的にゆらぐ。ほころびを狙って、多方向に噴出した。
 みりみり。みりみり。
 ホワイトノイズに味付けした音が、ぶるぶるとスピーカーから滲む。
 よく聴けば複数のノイズをかみ合わせた音像だと分かるはず。
 
 冒頭の物語性ある構成とはがらりと姿を変え、ここではストイックにノイズと向かい合う。
 音成分はループ。足元を不安定にしたまま、軽やかに舞った。

 水中へ潜る。粒のような排気球。
 とたんにノイズの多くがかき消される。

2.Pleasant valley monday(16:00)

 聴くときの音量によって、かなり印象が変わる。
 小さい音だとカーテン越しに聞こえ、ボリュームを上げると目の前いっぱいにハーシュが広がる。
 表面はざらつき、幾度も同じ部分が繰り返された。
 
 一転してさわやかなノイズのせせらぎ。インダストリアル・ノイズがじわっと減衰し、骨格だけを残す。
 すっかり一面の清流。

 しかし牧歌的な世界が続くわけもない。
 骨格だけの真っ白な世界へ唐突に転換し、中央では不定形の金属物が関節部分をひっきりなしに鳴らした。

 鳥の声。ハーシュの風やつぶやきの奥で、鳥の声。
 かなりループ多用の音像だが、表面でひとつふたつ変化するノイズで単調さを隠す。

 そして風景は抽象化し、揺らぎに翻弄された。
 背景もない。地面もない。
 鳥の声が、いや、ノイズこそが自分の存在位置を確認できる手段。
 突き詰めて聴くと怖い。内面世界に引きずり込まれるかのよう。

 カットバックの映画を連想した。かなり爽快なひとときが多い。
 とはいえ構成物質は電子ノイズだから、完全にリラックスして寛ぐには耳の切り替えが必要かも。

3.Celebration day(11:00)

 一面に広がる高音を生かした鉄板ノイズ。ギターを模してるのか。
 同じようなループだが、タイミングがそれぞれ微妙に違う。リアルタイムで変調させてはいないみたい。
 たぶん長めのサンプルを、ループさせていると思う。

 力強い風切り音が膨らみ、平らなループの世界に奥行きを出す。
 ごおっ、ごおっと唸るノイズもループ仕様だが、こちらはいくぶん肉感的。

 複数の音素が重なり、複雑な響きを生んだ。
 でかい音で吹き飛ばされる圧力を味わうのもいいが、小さな音でも聴いてみよう。実に味わい深い。

 中盤で鉄板ノイズはいったん身を引く。
 より鋭角な噴出が主役になった。猛烈な水流。
 一穴を穿ち、いちめんの霧となって視界を覆う。

 白っぽい空気が広がった。
 ランダムさは控えめで、常にどこかループの意識が残る。
 まっすぐな意思であいまいさを振りほどき、一心に前へ進んだ。

 ノイズの噴水。後ろでループが繰り返される。
 くるくる丸まり・・・一気に水中へ潜った。
 いくぶん当たりは柔らかいが、それでも注入する勢いは衰えない。

 収斂しさらなる一穴に向かって幾度もアタックした。
 一瞬、力が強まった。
 
 突然の脱力。
 方向を失い力なく数度噴出して、そのまま消えてしまった。

4.War frog(8:55)

 まずはうっそうと茂ったジャングルの描写。
 ループ鳥がさえずり、虫がざわめく。ノイズ獣もなにやら低く唸ってる。

 視界は暗め。日差しがジャングルにさえぎられているようだ。
 ゆっくりと世界は前へ進む。
 わずかに蒸気エンジンが動く音が聴こえるだろ。

 進むにつれぐいぐい世界が白くなる。雪国へ一気に突入したか。
 プチプチ言うデジノイズは、意図的かもしれない。
 ノイズ獣の唸りは、この世界ではモーターの呻きに聴こえた。

 幾層かのホワイト・ノイズが畳み掛け、スピードを増す。
 いったん裏返して、ノーエコーになる瞬間が刺激的だ。

 この曲ではあんがいころころ音像が変化する。
 メルツバウ得意の多層構造はあるが、低音成分が控えめな分だけ明るく聴こえた。

 どんどん後ろへ過ぎ去るフィルター・ノイズは、スピード感覚がかなり気持ちいい。
 後半部分はスキーみたい。耳元を次々に風が吹き抜けた。

 エンディングはループのサイクルが短くなり、不安感をあおるようにエコーが増す。
 そしてカットアウト。

  (2003.10記)

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