Merzbow Works

Psychorazer(首吊りテープス:1997)

All composed and performed by Masami Akita
Recorded and Mixed at ZSF Produkt studio,Tokyo
Final Mixed on Dec 25 1997

Instruments:EMS VCS3,EMS synthi"A",Moog Rogue,Metal Devices,Theremin,Noise Electronix etc.

 日本のレーベルから発表された。ライナーがインキャパシタンツの美川俊治。ジャケットのイラストは丸尾末広。第二次大戦の戦艦とゼロ戦かな?に、ヌードを織り交ぜた、退廃的なニュアンスに仕上げた。
 アルバムを聴くと、このジャケットは本盤の音像を見事に映像化してる。

 肉体性とエレクトロニクスをきっちり融合し、かつドラマティックにまとめた。メルツバウのアレンジ技を見せ付けた傑作。アナログ機材が主体か。
 
 (3)ではビートを強調した作品も。肉体性と打ち込みの双方を見せ付けた。
 あくまで後付けの屁理屈だが。このあとのメルツバウが志向するサウンドの助走であり、この時点の音楽と見事意に融合させた一枚、とも言える。

 いずれにせよリズムとハーシュ・ノイズの混在を昇華させた(3)は、抜群の仕上がり。35分の長尺が嬉しくなる一曲。

<全曲紹介>

1.Psycorazer (17:45)

 しょっぱなから全開のパワー・ノイズが炸裂する。
 耳を澄ますと甲高い音や鈍く唸る低音など、複数がミックスされてて嬉しい。
 爆音はゆったりと風景を変えた。シンプルな場面でも多彩さを秘めた構成は、さすがメルツバウ。すばらしい。

 幾本もの鋭い尖塔がめまぐるしく宙を突く。猛回転とひらめくレーザーの帯は、らせん状に塔を削った。
 根本構造はパワー・ハーシュだが、アナログな揺らぎが常に存在し、スリルいっぱい。

 常にノイズが一点を向いている。上空から、進行方向、真下に。あちこち視点は変わってしまう。そこまで音像が変化していなくとも。
 ビートを強烈に意識させるものはない。しいて言うなら、さまざまな電子音が激しく振動するさまくらい。
 波形の周期はまちまち。高速に上下しつつ、同期をなかなか取らぬ。
 
 ホワイトノイズっぽく埋め尽くされる一方で、奥に隠れたノイズもあり。
 たとえばスピーカー右下くらい。軽やかにひらめく鉄の輝きがキュートだ。
 
 スペイシーな世界は不思議と連想しない。脳裏に浮かぶのは、薄曇りの寂れた摩天楼。そんないびつな風景がこの曲にふさわしい。
 かつては威容を誇った都市から次々に人が去ってしまい、それでも往年の高層ビルは寂しく幾本も建ち続ける。
 夕闇がまだらに照らすのは、うっすら外壁にへばりついた汚れ。それを幾本ものレーザーが虚しく磨き上げる。そんな光景のイメージ。

 12分半くらいで唐突に、野太いシンセがひらめいた。
 しかしパワーノイズの太帯が、引きちぎろうと精一杯画面を埋め尽くす。

 エンディングはフェイドアウト気味に。パワーノイズが炸裂したテンションのまま、じわりじわりとボリュームを下げてゆく。
 ラスト間際で聴ける、低音部分を削除したハーシュの奔流がすがすがしい。

 最後は、情け容赦ないカットアウト。

2.Sugamo rising sun gus station (0:56)

 似たようなタイトルの曲がメルツバウで他にあった気がするが・・思い出せない。
 じわじわと鈍いノイズが地を這う。プロペラが高速回転のごとく。ばらばらと翼を広げ、白くなって消えた。わずか1分足らずのひととき。

3.Mangod (35:01)
 
 つんのめるビートのループ。余韻もしくは尻尾のようにノイズの切れ端がまとわり付いた。小気味よいビートはテクノ的に幅を広げじわじわ膨らんだ。録音は97年。後にメルツバウはマシン・ビートやラップトップ多用のノイズも志向するが、その萌芽といえるだろうか。
 リズムボックスをリアルタイムで操作なのか、ビートは次第にパターンを変え、折り重なった。高速連打の連なりが、ひとつの音色と化す。比較的ポップな仕上がり。
 ゆるやかな四拍子のグルーヴを感じた。

 おもむろに現れるハーシュの小粒な種子。リズムに転がされつつ、次第に力を蓄え存在感をあらわにしてゆく。
 リズムの音色を喰う。双方が一体化して、端々を千切れさせながら膨らんだ。
 中央に立つ、アナログ・シンセの響き。小刻みに関節を震わせた。

 冒頭のビートは濃縮され、もはやグルーヴの形骸のみ。さらに加速を続けた。
 全てを吹き飛ばす咆哮が鮮烈に炸裂した。
 時を、風景を、吹き飛ばす。

 しぶとく残るビート。ハーシュの豪腕が振り下ろされた。
 パイプ・ドラムみたいなユニークな響き。ハーシュを塗りつぶし、ランダムかつシャープに打った。
 音像はひとところに留まらず、切迫感あるシンセが覆いかぶさった。それでもパイプ・ドラムの響きはやまない。ほんのりアフリカンなポリリズミックの肌合いもある。
 すっきりと音像は整理された。ときたま瞬く電子ノイズの飾りをきっちり残して。

 ドラムは冒頭の電気ビートのごとく、加速した一連の流れに変わった。
 ハーシュの水が押し流してゆく。流体はくっきりと角を作り、スピードを増す。パイプ・ドラムが再び、明確な肉体性を持って煽った。
 さらにテンポを落とし、じわじわと。メルツバウのリズム・コントロールぶりがかっこいい。

 ハーシュも負けていない。いっきにスポット・ライトをさらった。
 素早い場面転換と彩りの違い。対比を見事にまとめたアレンジにぐいぐい惹かれる。
 めまぐるしく、しかし精妙に。メルツバウの丁寧さとパワフルな躍動感の持続が素晴らしい。
 
 ビートにもノイズにもこだわらない。しかし素材の羅列はせず、きっちりとストーリー性を意識した。
 続く余韻を素朴かつストレートに突きつけるさまに圧倒された。シンセの回転、連続するスローな4つ打ち。直前のビート感をあっというまに拭い去り、パワー・ハーシュの凄みで塗りつぶした。
 
 展開は終わらない。シンセの継続音でビートをやんわり匂わせ、あらたな加速を伺わす。
 空白の隙を作らず、次々と新しいノイズが。埋め尽くし、飽和した。大きな流れが、過ぎ去ってゆく。
 最期は痛快な振動で、フェイドアウト。めくるめく音楽絵巻。                                                (2006.11記)

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