Merzbow Works

Partikel (Cold Spring Records:2004)

Recorded March 2.004 in Villa Bohult Sweden and the bedroom Japan
All Music Masami Akita and Henrik Nordvargr Bjorkk using each others music as soundsources.
Mastered April 2.004 at studio Nar Mattaru by Sieqfried Meinertz.
 
 HENRIK NORDVARGR BJORKK(英語綴りでご容赦)とのコラボ盤。
 表ジャケではNordvargr名義だが、中クレジットで名前全てを表記した。
 NordvargrはMZ.412のメンバーで、ノルウェーのブラック・インダストリアル界では有名・・・らしい。不勉強にして詳細を知りませぬ。ごめん。

 メルツバウとのCDによるコラボは本盤が初めてのはず。イギリスのレーベルからリリースされた。メルツバウを追っかけてると、あまり見慣れないレーベルだ。

 ジャケットはデジパック形式。緑のまったくない岩肌を表1の写真とし、、他の面も動物の背骨や岩肌などの自然写真を使う。
 奏者の写真はまったくなし。それぞれのページに点字らしき黒点の連なりがある。どういう意味だろう。

 クレジットでは互いに音素材を交換とあるが、メルツバウよりもNordvargrが主導権を持ったアルバムに聴こえた。
 陰鬱なデジタル・アンビエントが醸し出す世界は、なかなかにスリリングだ。
 なお発売レーベル"Cold Spring"のオーナーは、メルツバウの提唱するアニマル・ライツに賛同し、なおかつヴェジタリアンだそう。その縁もあってリリースされたかな。

<全曲紹介>

1.Tardyon Storm (22:49)

 "Tardyon"の単語は手持ちの英和辞典では見つからず。"Tardy"でのろのろした、と言葉がある。"のろのろした嵐"・・・と訳してしまって良いものか。

 じわりと世界はうごめき始める。闇を這い、皮をめくるように。表面をてからせ、甲高く軽く吼えた。規則正しい音は地へのひきずりか。
 日が遮られ、からっと涼しいジャングルの描写が続く。鳥の声らしき電子音もいくつか。すでに夜は明けたか。

 いくつかの電子ノイズを飾りに添え、低音が鈍く響いた。
 冒頭部分はメルツバウにしてはおとなしすぎ。Nordvargrのセンスかな。

 ビートは特にない。淡々と繰り返す低音のループが、わずかにテンポを意識させた。あくまで世界はアンビエント。シンセのさまざまな音が彩りを添える。
 鳥の声と思わせながら、末尾では明らかな電子製だと明かす。電子音楽の強調かもしれないが、面白いセンスだった。

 6分経過。最後まで平穏だと油断した。
 シンセの鼓動がビートとなり、低音は航空機の風切りとなって空へ舞う。
 いくつかのざわめくノイズが複合ビートへ。シンセの音圧が高まる。

 高まる期待。細かな金属音が明確なアンサンブルを組み立てた。
 いったん世界が静かに収まる。テクノイズがクレッシェンドして、ごろごろと辺りを転がる。
 低音成分が空気を震わせる。カタルシスを提示せず、やみくもに黒煙の中でうろたえた。
 
 若干賑やかに中央で小競り合いが始まった。
 唸る低音。奥底の深みをひっさげて闇を包もうと。
 ぱちぱちはぜるノイズの存在にかまわず、力任せに。

 一旦、空気は白くなった。ほとんどがかき消され、ミニマル・ノイズと電気の風に。
 辺りをねっとり埋めるシンセが漂う。

 ときおり音色を変えるも、冷酷に刻むビート。
 シンセの白玉が、わずかに響きを揺らがせた。

 冒頭のダーク・アンビエントに世界観が似通った。しかし違うのは、どこか爽やかなところ。
 暴風が去った世界、という意味か。

 しかし静かには終わらせない。次なる嵐の予感を不穏に漂わす。
 
 面白いと思うが、メルツバウの作品を期待すると当て外れ。というより、音像を聴いても、ほとんど参加してなさそう。

 別にハーシュがないって意味じゃない。メルツバウにしては単調すぎる。冒頭の暗いサウンドスケープは、メルツバウの味もわずかに感じたが・・・。
 メルツバウとは切り離したアンビエント・ダーク・テクノと聴くべき曲だろう。

2.Kyoufu-O (25:39)

 いっきなりメルツバウ印のノイズ。「強風」と意味を引っ掛けたか。そもそもの邦題は「恐怖王」らしい。
 日本語タイトルだけあり、秋田が主導権とっていそう。

 低音パルスをひとつながりのリズムパターンとして、下地を作った。
 しばらくの間さほどの展開無しに、淡々と続く。
 ざらつき蠢く破片は、主役までたどりつきはしない。
 
 数分がたったころ。ざらつきのいくつかが、思い立って立ち上がった。
 空気をちりちり震わせ、細く小さな体をゆっくり膨らます。
 けれども世界を変えることは出来ない。

 変化が訪れたのは7分経過後。鋭い一本の線が、目前を横切った。
 横斜め方向に。ホワイトノイズ気味に空気を注ぐ。
 やがて消えても、冒頭のリズム・パターンは漂う。
 だがきらびやかな各種エレクトロ・ノイズが、意を決して登場、ついにリズム・パターンを追いやった。

 しぶとくリズムは復活しても、上モノも存在をやめない。拮抗しあった。

 13分経過。いきなり景色が勢い良く流れ、場面変換。探るかのごとく、なかなか移動は終わらぬ。
 業を煮やしたリズムが再び、ぐっと覗いた。踊らせるためでなく、間を持たせるためのように。

 のっそり壁を塗りたくるハーシュ・ノイズ。きめ細かな泡となって膨らんだ。
 けれども煮えきらず。もどかしい。

 最後の最後で、また鋭い電子ノイズ。先ほどと同じもの?サンプリングか。
 足元をじっくりぬらし、砂地の隙間を湿らせた。

 ハーシュのふりをしても・・・根本は静か目のノイズ。豪腕ノイズを期待したら、拍子抜けしますよ。

3.Tachyon paradox (7:39)

 古きよきSF映画を思わせる、電子ノイズが散発した。
 ミニマルな呟きがドローン音を背後に、じわじわと立ち上がる。
 賑やかなざわめきが主流か。ハーシュの予感はあくまで予感。みりみりと空気が震えた。

 アンビエントというには賑やか。チルアウトでなく、余韻が持続する。

 あえて主軸の音を置かない。しいて言うなら背後のドローンか。
 細切れに電子を撒いて、中央へ意識を集中させた。

 恐れる低音を最後に残し、幕を下ろす。   (2005.8記)

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