Merzbow Works

Process And Reality (2016:Cuneiform Records)

Composed By Masami Akita, Richard Pinhas, Tatsuya Yoshida
Drums - 吉田達也
Electronics [Noise Electronics] - 秋田昌美
Guitar, Guitar Synthesizer [Analog Synth Guitar] - Richard Pinhas
Mixed By Joe Talia

Recorded at Gok Sound studio, Tokyo, Japan.
Guitar overdubs at Heldon studio, Paris, France.
Mixed in Melbourne, Australia, December 2015.

 ドラムとギターのせめぎ合いに電子音が乗る構成。メルツバウ目当てだと拍子抜けのミックスだ。

 近年は何だか頻繁に来日の印象があるリシャール・ピナス。本盤は2015年に吉祥寺GOKで録音のセッションに、ピナスがパリでギターをオーバーダブしたスタジオ録音である。 トラックは4つに分かれており、それぞれに副題がついているが委細は不明。

 ピナスとメルツバウの共演は"Keio Line"(2009)までさかのぼる。吉田達也とは"Welcome In The Void"(2014)をきっかけに複数枚あり。よほど二人気に入ったらしい。
 二人の音楽性に寄り掛からず、あくまでピナスは共演者として二人を扱う。

 本盤はドラムとギターにエレクトロニクスの印象が強い。電子音はシンセのようなくっきりした音色や持続音が中心で、いくばくかは秋田の音かもしれないが、ほとんどはピナスのスタイルに思える。

 ドラムもひっきりなしに叩きのめすけれど、場面によってはサンプリングや編集のようにメカニカルな切りかえしもあり。
 吉田らしいスピーディな手数は奇妙に洗練され、整えられた。これってセッションのままかな。けっこうあちこち、編集が施されていそう。

 ギターをダビングとあるが、別にメロディアスなギターソロをピナスが足したわけではない。むしろ背後の残響のたっぷり効いたギターを、音像の埋め尽くしに加えたのかもと感じてしまう。

 ミックス担当はJoe Talia。豪メルボルン在住のドラマーでもある。ミックスはメルボルンで行われた。ピナスの立会いの下かは不明だが、全く無視して作ってはいないだろう。
 とはいえ音圧ものっぺりと平べったく、尖りや凸凹を抑えて平板かつ凡庸にまとまっている。

 あくまでピナスのアルバムであり、素材として吉田や秋田が参加っぽい仕上がりだ。特にメルツバウ目当てで聴くと、拍子抜け。「ノイズのどれがメルツバウだろう」と耳を澄ませる、本末転倒な立ち位置となる。

 ピナス目線で、むしろ変に思い入れせず聴けば、爽快で濃密なギター中心の電子音が充満するなか、骨太のドラムが暴れるさまが楽しめる。猛獣を押し込めたガラス瓶を外から眺めてるかのよう。
 メルツバウの怪物性が、なんともお行儀よくまとめられてしまった。

<全曲感想>

1 TVJ 00 (Intro) 3:14

 フェイドインのいきなりトップギアな爆裂セッションで始まる。とはいえ広がりあるピナスのエレクトロニクスとギター、吉田の奔放な乱打ドラムが目立ち、メルツバウの存在感は希薄だ。
 演奏は悪くないのだが、メルツバウ至上主義の視点で聴くともどかしい。
 
 パルス状にビートが突き刺さり、さらにアクセントでドラムはあちこちに引っ掛かりを作る。ドラムの多彩なテクニックを覆いかぶさる電子音のスケール感で包み、巨大なテントみたいな音像を作った。

 まさにお披露目でサワリもしくは見せ場のみを切り取ったかのような楽曲。

2 TVJ 33 (Core Track) 36:29

 アルバムを代表する大作のはずだが。あくまでピナスが主役で、キラキラと輝く音像と鈍く重たい残響が場面ごとに入れ替わる。吉田のドラムもひっきりなしに鳴るが、ときに妙な整いっぷりを見せた。サンプリングで貼り付けられてるかのよう。

 メルツバウの出番がなかなかわからない。24分過ぎに滲んできたハーシュ・ノイズやアナログ・シンセの太さが秋田の仕業か。なんとも煮え切らない。

 くどいようだが、ピナスのソロとして楽しむならば悪くない。スペイシーな電気仕掛けのサイケな風景が混沌の中で産まれ、曲のテンションは30分にわたって落ちない。
 ドラムが荒々しくかき混ぜる勇ましさは、楽曲にスリルを付与した。

 逆に言うとスリルに留まり、暴力的な破滅性や鋭さは見事に牙を抜かれた。ミックスが大人しすぎるんだ。
 音像の場面はくるくると変わり飽きさせない。単調な風景がゆっくり変貌し、アクセントで吉田のドラムが威勢よく空気を刻んだ。

3 TVJ 66 (Non-Sens) 12:10

 充満する電子音。音圧強めに沸き立つ音がメルツバウ、だろうか。・・・だろうか、と思う時点で、なんか違う。傍若無人に暴れず、ノイズは音像の一要素となった。
 とはいえピナスが高音で持続する音、それ以外はメルツバウのハーシュだと思う。
 手数多く埋め尽くすドラムも吉田っぽい勢いあり。本盤の中で、もっともセッションらしい楽曲だ。

 むしろ(2)はピナスもしくはミキサーの色があまりにも強く出すぎている。即興性が強いが、構築に注意が行きすぎ。どうせこのメンツで演奏ならば、本曲のようにとりとめなくとも勢いが溢れかえるほうが面白い。
 とはいえミックスはやはり、今一つ弾けない。上部に薄絹一枚かぶせて零れるのを防ぐかのよう。

 エレクトロノイズがしばし続いたあと、音色を歪ませたエレキギターが登場してロックに盛り上がる。軋むハーシュと軽やかな電子ノイズを背後に、ドラムが暴れる中でエレキギターはさりげなく存在を主張した。

4 TVJ 77 (Quiet Final) 10:33

 幻想的なシンセの蠢き。メルツバウでなくピナスの音か。くるくると螺旋を描き、ときおりピュッと突起物が出た。スペイシーだが拡散せず、ふうわりと浮かんで優美に舞った。
 吉田のドラムが急き立てるように現れる。スネアとシンバルを目まぐるしく叩き、複層のタイム感を作った。一瞬、吉田が4拍子を叩いたと思わせて、すかさず変拍子を挟む。とはいえ大きくはアクセントや連符を取り入れながらも、4拍子が基調だ。

 この曲もピナスと吉田の構図な作品。電子音のいくばくかはメルツバウかもしれないが、さほどノイズ寄りに向かわない。
 サウンド全体はむしろ抽象的ながら。                                                        
(2017/7:記)

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