Merzbow Works
Flutter/大友良英 New Jazz Quintet(2001:TZADIK)
メルツバウがこのアルバムに参加したのは意外だった。
大友良英との関係はあまり思いつかない。
1999年にオムニバスの"Turntable
solo"で大友が、メルツバウの曲をミックスしてるくらい?
以前は知らないが、本盤リリース後に大友良英 New Jazz
Quintetとメルツバウの共演ライブもないはず。たぶん。
もちろん以降のアルバムへ参加してるわけでもない。
メルツバウ・ファンの視点で見ると、これは一瞬だけの交錯。そんな印象を持っている。
大友良英 New Jazz
Quintet(以下、ONJQ)は大友が2000年頃に突如結成したユニット。グラウンド・ゼロが解散してからか。
当時のメンバーは他に、菊地成孔(sax)、津上健太(sax)、水谷浩章(b)、芳垣安洋(ds、tp)といった顔ぶれ。
このあと東京の地下ジャズ・シーンをぐいぐい牽引してゆく、そうそうたるメンバーばかり。
顔ぶれの豪華さは時がたつにつれ、さらに実感が間違いなく増す。
当時に大友良英へ持ってたイメージは、ノイズやアヴァン系のミュージシャン。
ターンテーブルとか自作ギターとかを操ると思ってた。
過去に菊地雅章との共演ライブを見たことあったが・・・。
バンド結成の意図がつかめず、最初は戸惑ったっけ。
ONJQの中身はまっとうなジャズ。
ドルフィーなどのカバーを織り込みつつ、退廃的な影のあるジャズをじわじわと聴かせる。
発信機を使ったり、多少これまで大友が行ってきた音楽との接点は残された。
けれどもあえて継続性を求める必要はない。あくまで本盤がスタートライン。
ここから大友はEmergency!への参加やDCPRGへの参加をはじめと、ぐいぐい独自のジャズ・ギターを聴かせていった。
本盤の録音は2000年2月。リリースまで紆余曲折あったらしく、一年後にジョン・ゾーンの主催するTZADIKから発表された。
当時ONJQのライブで「やっとリリースすることになりました」って大友のつぶやきを、なんとなく覚えてる。
メルツバウのゲスト参加は一曲だけ。
率直に言うと、メルツバウ・ファンとしてはあまり聴く必要のないアルバム。
最初に聞いたときは愕然とした。ここまで裏方に回ってしまうなんて。
最後に誤解ないよう、強調します。
ONJQの作品は傑作ぞろいなので、未聴の方はぜひ。
ぼくはこのバンドの作品だと、"ONJQ
LIVE"(2002/DIW)が格別好き。今のところね。
ONJQはこれを書いてる2003年10月現在、ちゃんと活動中だもの。
<曲目紹介>
3.Serene(7:32)
エリック・ドルフィーのカバー曲。
メルツバウは「秋田昌美」名義で、EMS
Synthesizerを演奏した。
ちなみにSachiko
Mもサイン波でゲスト参加。最初はどの音がメルツバウか、よくわからなかった。
そう、驚くべきことにメルツバウの音は極小でミックスされている。サウンド・エフェクトの域を脱していない。
これならメルツバウが演奏する必然性がまるでない。大友の多重録音と聴いても信じただろう。
ジョン・ゾーンあたりのアドバイスで「購買層の興味を引く」ために、とりあえず参加したとか・・・そんな事情があったのでは、と疑いたくなった。
この文章はメルツバウ至上主義の視点で書いてるため、不当に表現が厳しいことをお許しください。
何度も繰り返しますが、音楽自体は素晴らしいんです。本当に。ぼくはONJQのファンでもありますもの。
彼らのライブは極混みが常なので、ここ最近は(2003年10月現在)行くのサボってますな、もっとも。
曲は静かにクレッシェンドする。
エレキギターのフィードバックと、フラジオで軋むサックスたち。エレキベースがランダムに漂い、シンバルが細かく連打される。
浮遊する音が次第に高まって・・・。
テーマへ。
たぶん菊地のサックスがテーマのメロディ。津上がオブリかな。
ほんのりかすれ気味で、ロマンティックに旋律を奏でる。
フリーなアドリブへ。だれかがソロを取るって言うんじゃなく、そのまま冒頭の混沌へ逆戻り。
ただし芳垣のしっかりしたスネア・ロールが、立ち位置を意識させ続ける。
そして再びテーマへ。
ここまでで4分50秒経過している。
おそらくメルツバウの参加はここから。
後ろでひよひよ鳴っているシンセの音が、そうだろう。
音量は小さく、左右のスピーカーを軽やかにパンする。
6分前後でちょっぴりハーシュをイメージさせる、ランダムな音を出した。
しかし音色はキュートなシンセのまんま。小鳥のさえずりみたいなもの。
なぜ秋田昌美がこういう扱いのゲスト参加を了承したんだろう。本当に分からない・・・。
(2003.10記)