Merzbow Works

Offering (2004: Tantric Harmonies)

Recorded & mixed at Bedroom, Tokyo June 2003.
All Music by Masami Akita

 複数のノイズが同時進行し、次々に表情や音量バランスを変えて決して飽きさせない。

 久生十蘭"金狼"(1947)にインスパイアされた作品だそう。全2曲入りで00年設立なロシアのレーベルから505枚限定で発売された。

 ラップトップ時代のドラマティックさはそのままで、ハーシュ・ノイズに拘らない。特に(1)はほとんど喧しい部分が無く、ポップなエレクトロな趣きもある。もっとも、ボリュームをさほど上げていない場合。轟音だと印象は変わるが。
 (2)はハーシュ寄りだがリズミックさが強調された。後年の生ドラム導入に向け、ビート性を本盤は積極的に意識してる。

 "Merzbeat"(2002)あたりを皮切りに、メルツバウはジワジワとアプローチを変化させてきた。決して現状に満足も、立ち止まりもしない。

<全曲感想>

1. Deep Sea 20:11

 きらめくチラつきと広がりある静けさ。静寂ではなく緻密なノイズの散らばりによる奥行きで、寂し気な空間を表現した。
 次第にノイズの密度は高まっていく。電子音が繰り返され、波打つ周期が速まった。さらついた乾きと沸き立つ粒子。それぞれは次々に場面転換が行われる。がらりとではない。緩やかに、しかし確かな変化をつけて。

 次々に音の構成物質が変わり、密度も質感も変貌していく。
 おもむろに現れた低いパターンが、ベースのオスティナートながらリズミックな要素も含んだ。
 鋭い音色が一瞬閃き、鈍い別の色合いに沈む。音の重心やアングルが変わるような浮遊感あり。ぐいっと体が浮かび、中心を見つめながら俯瞰していく。

 スネアが二打とシンバルが一打のサンプリング・ループ。乾いたスネアはそのままに、シンバルの響きがじわっと鋭く変わっていく。
 リズムとミニマルなループが映像的に広がった。

 10分過ぎにするっと場面が変わる。重さを抜いて骨格だけ抜き出した。一分ほどして改めて低音や中身が戻される。このDJミックスめいた形はラップトップ・ノイズならでは。そして、しごくポップだ。

 シンセのように野太い響きが現れた。空間を押しつぶしてミッチリと膨らむ。しぶとくノイズは生き延び、灰色にざらつく空気が強調された。
 構成要素は変化を続ける。風景は立ち止まらない。鈍い響きがいつしか充満し、オスティナートを圧迫していった。じわっとフェイド・アウト。唐突気味に、幕。

2. The Light 27:36

 ぐっと性急に。広がりより中央で蠢く。一瞬停止し、賑やかに弾けた。中央で高速回転するモーター。繰り返して。
 ディレイのように背後で瞬時に繰り返し。だが少し残響は鈍く茶色い。
 ひとしきり繰り返し。いきなり派手にドラムが炸裂した。

 2小節のドラム・ループは後半二拍のシンバルがあとかぶせのよう。キメラなパターンが繰り返される。みちみち弾ける電子音が装飾を重ね、音色がいじられつつ芯を濃く太く膨らませた。

 わしゅわっしゅ。沸き立つノイズがループと絡み、一塊で転がった。リズミカルに、軽快に、汚れて。
 リズム・パターンは少しずらされた。パイプ叩くような鈍い響きも加わり、多層的なパターンに。ダンサブルさを強調する。メルツバウなのに。
 そう口を開こうとした瞬間、ハーシュが噴き出した。決めつけられないよう、用意周到だ。

 とはいえ本曲がリズム重視のビート・ノイズなのは明らか。インダストリアルの無機質さや強拍とは異なる、もっとダンサブルな意味合いで。
 ノイズの奔出は彩であり、色付けであり、味わい。強固なビート感は全くずれない。

 新たなノイズの登場。リズムに覆いかぶさり、違うアクセントをつけて譜割をいじった。
 やがてリズムが消えて、広がりあるノイズに。埋め尽くし潰す音ではなく、個々の音色が明瞭だ。デジタルならではの見通し良さが小気味よい。
 そのオスティナートが小節感を出して、現れたハーシュ・ノイズに力強く刷毛で擦られた。ざわめきもかすかに。

 ここでハーシュ・ノイズの存在感が跳ね上がった。本盤はずっとポップとも言えそうなドラマティックかつ見通し良く変化してた。
 いきなり噴出するフィルター・ノイズ。リズムのループもパッと現れ、上下をぶった切られてかぼそく輪郭だけに中身を剝がされた。

 影と表面。音色の成分が瞬時に変わり、音の印象が切り替わる。新たな乾いて鮮やかなノイズも、もしかしたら前に現れた音を極端にフィルター処理かもしれない。
 集団の構成員が最後に個々のモチーフを再現するかの如く、リズム・パターンも断続的に表れては消えていく。

 最後はハーシュな要素は脇へそっと置かれ、透徹な数音の響きが鈍くきらめく繰り返しが主眼とも思えた。
 ラスト1分で急に世界が乾燥し、細い砂が勢いよく流れた。どんどんと音色を変化させながら。じわっとスピードを落として終了。         
(2016/12:記)

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