Merzbow Works

New Takamagahara(1998:[OHM]Records)

All Composed & Performed by Masami Akita
Recorded & Mixed at ZSF produkt Dec`97 〜 Jan`98
Instrumentals:EMS,VCS,Synth'A',Theremin,
       Noise,Electronix,Tapes,Metals etc

 ノルウェーのレーベルから。たしか本レーベルでの初リリースにあたる盤のはず。
 ぼくが買ったのは、たぶんリイシュー盤。
 CGのイラストがどことなくにじみ、なんだかカラーコピーみたい。
 おもいきりサイケなジャケの映像は、秋田昌美本人による。
 本人のコメントによれば、シンセを本格的に使い宇宙をイメージした作品らしい。

 音像も変化は少なく、ひたすらスピーカーを埋め尽くすノイズが中心。しこたまサイケデックな音。
 瞬間の変化を楽しむのでなく、じわじわメタモルフォーゼする歪みを味わう盤か。

 フェイドアウトで消える曲は、もっと聴いていたくなる。
 けれどもし73分一本勝負でえんえん一曲が続いたら、きっと退屈するだろう。
 そのバランスを見極め、あえて一曲でCDを埋め尽くさず、3曲入れたところがメルツバウの良心であり、創作意欲だろう。
 
 刺激ではなく、濃密さを求めるときにお勧めな一枚。
 ただしテンション高い時に聴かないとつらいぞ。
 淡々と続くストイックさは、滅入ってる時だと心のへこみがますます加速します。

(各曲紹介)

1.The tapestry of lights
(14:57)

 冒頭は左チャンネルでバズ・ノイズが唸るのみ。「スピーカー壊れた?」とあわてたが、じんわりと震える電子音が右からも滲んだ。

 空虚さと緊張感が同居する音。
 小さめなボリュームだとハマる。羽音がぶんぶん唸り、部屋を埋め尽くした。

 風景の変換タイミングがすごく微妙だ。ぼやっとしてると、いつのまにか違う音色へ変化してる。
 しかし激しい沸騰はない。あくまで淡々と続ける振動。

 耳ざわりもさほど悪くないし、抽象彫刻のBGMにしたらぴったりでは。
 なるべく表面が滑らかで、素材が金属製。さらにシンプルな形状のやつ。

 そんな音だ。

 ラストは名残惜しそうにフェイドアウトする。

2.Red sea fruits(23:07)

 ほんのり悲壮なシンセの悲鳴から万華鏡が始まった。
 くるり、くるり。
 音像をじっくり時間かけて変化させる。
 発振器っぽい音を複数重ねているようだ。
 たまに吹き荒れる風切り音が、メルツバウっぽいかな。
 
 聴いてて雄大な気持ちになる。
 時間をすごく贅沢に使ってる気分だ。
 時間の制約をあえてはずした音に聴こえてならない。

 秋田昌美はすばらしくアイディア豊富なミュージシャンだと思う。
 これほど膨大なメルツバウ作品をリリースしながら、一曲たりとも同じ発想で作った作品がないんだから。
 その溢れるアイディアをあえて抑え、変貌を最小限にした曲と感じた。
 つまりひとつのアイディアをじっくり昇華させてる。

 単調だって意味じゃない。
 ぱっと聴いて変化なさそうな部分ですら、細かい音の粒が入れ替わり立ち代り表層でせめぎあう。

 あくまで全体像の話だ。
 やみくもに過激さを追求せず、一秒一秒をしゃぶり尽くすような空間がここにある。

 基調はエレクトロニクス・ドローン。しかし音の絨毯はまったく同じ模様を描かない。

 この曲も前曲同様、じんわりとフェイドアウトで終了。

3.Moonface(15:15)

 治療薬の副作用で、ぽこっと膨れてしまった顔をこう呼ぶはず。違う意味もあるのかな。
 本盤唯一、パワフルなノイズが溢れる曲。
 威勢良く耳ざわりな電子音が加速する。周辺が収斂、加速した。

 もっともしばらくたつと角が取れて馴染み、前2曲と同様の地平へ着地する。
 唯一の違いは、とんがった部分が完全には消えないとこ。
 ハーシュ・ノイズが自己主張を続ける。

 アルバムのこの位置で聞くから、だいぶこの曲の印象が変わってる。
 ぼくが小さめな音で聴いてること、前2曲のある意味で静けさを持った音を聴いた上で、この曲へたどり着いてること。
 アルバムの最初に持ってきたら、いわゆるメルツバウらしさがくっきり見えたろう。
 それをあえて拒否した曲順じゃないか。

 絨毯の上をギザギザの物体が転がる。底辺を傷つけるほど激しくないが、めまぐるしく転がる危なっかしさは常にある。
 多層的にノイズを重ね、高音部分が跳ね回る。

 最後に。この盤ってメルツバウにしては物足りないのかな?と誤解されたあなたへ。
 けっしてそんなことはありません。

 ボリュームを右へまわせばまわすほど、奥から新たなノイズ成分が登場し、好奇心を満足させます。
 あまりまわしすぎて近所迷惑にならないよう、お気をつけて・・・。

(03/2記)

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