Merzbow Works
Music For Man With No Name <Blackbean & Placenta . USA>
Cock
E.S.P.とのコラボ盤。初発は1994年に7インチ・シングルでアメリカのSelf
Abuseから出たらしい(未所有)。
1999年に500枚限定で、Blackbean &
Placentaレーベルから再発(ここはすでに倒産してる様子)された。
少女が銃を構えたジャケットもあるようだが、ぼくはジャケット無し盤を手に入れた。
当時の7インチ盤収録曲に、ボーナス新曲を加えたのがこれ。
Cock
E.S.P.はたぶんアメリカのノイズバンド。1984年まで歴史は遡れ、メタル・パーカッション・ノイズが根源だった様子。
膨大なリリースを誇ることが、HPのディスコグラフィーから伺える。写真を見る限り、今は3人組かな。
収録曲はヒューゴ・モンテネグロのカバーとあるが、この人は不勉強で知らない。すみません。
CD盤面には、ヌードのえげつない写真を使ってる。
ノイズ志向ながら、さほど過激さはない。轟音で聴いたら別かもしれないが、するっと楽しめた一枚。
実際に共演してるのかな。ジャケなしCDで、クレジット皆無がもどかしい。
(2)では、相互演奏してる様子も伝わるけれど。
メルツバウの作品としてみた場合、少々小粒なのは否めない。熱烈なファン向け・・・かな。
<全曲紹介>
1. The Good, The Bad & The Ugly (4:14)
ウエスタン音楽のテープ・コラージュから、ハーシュが乗っかる。タッチはメルツバウ調だ。
この時代だとすでにマックでノイズ処理してたはず。実際の聴感はパワー・ノイズ。ぐしゃぐしゃの電子音が並列処理し、同時に存在を主張する。
メルツバウの単独作品と推測する。Cock E.S.P.との共演って感じじゃない。あえてこじつけるなら、左チャンネルでふわふわ微かに鳴るシンセや、3:40あたりで右チャンネルの電子音が、メルツバウにしては珍しさを感じたくらいか。
4分と短めな作品だけに、起承転結にこだわらない。とにかくノイズをばら撒き、轟然と立ちはだかった。
最後はウエスタンのテープ音楽が再登場。唐突に消える。別にこれがなくても作品は成立したと思う・・・律儀だな。
2.The Ecstasy Of Gold (5:33)
フロアタムをゆったり叩くビートに、ネイティブ・アメリカン・ビートを連想した。
テープ・コラージュかループに加わり、ハーシュの叫びが加わる。
Cock
E.S.P.の単独作品か、もしくはハーシュをメルツバウがダビングしたか。
フロアタムのビートが通奏低音として残るため、けだるげな空気が漂い続ける。ハムノイズも停滞の強調に一役かってしまった。
ハーシュがここぞとばかりに吼えても、どんよりとしたムードを消し飛ばせない。なんとももどかしい作品だ。
唐突に音数が減り、とっさに戸惑った。やはり冒頭の同じ音世界が現れる。
カットアウトはどういう趣旨の演出だろう。フェイドアウト気味にあっけなく終わる。
(1)同様、終わり方があまりに中途半端では。
3.Aces High (18:15)
これが新曲だろう。
冒頭からメルツバウ印のハーシュが暴れる。ちょっと音がこもり気味か。
Cock
E.S.P.の存在を気にせずに、聴いたほうがよさそう。
単なるハーシュを越え、メロディの残骸を微かに伺わせたのが新鮮だ。テープを高回転させた音を素材に使ってるみたい。
フィルター音をループさせ、せわしなく前へ進む。
小節感は皆無ながら、かろうじてビートを意識させるのが、この当時のメルツバウらしい。
世界構造は強引に後ろへハーシュを押しやり、前面で電子音で遊ぶシーンも。物語性よりも、その場のアイディア一発で戯れるイメージが頭へ浮かぶ。
(1)で使ったようなウエスタン音楽の断片が顔を覗かせ、ノイズの底なし沼へうずもれた。
足掻くように現れては消えてゆく。
あくまでもメルツバウはウエスタン素材から離れずに、作品を成立させたいようだ。
ノイズの荒野は一筋縄でいかない。ただ、ちょっと盛り上がりに欠けるか。
登場するノイズはまったく停滞せず、次々に新たな表情を見せた。しかしあと一歩覇気が欲しい。
足場が消え、背後に闇を背負い、つっと宙に浮かぶ10分前後の音世界に、ぞくっときた。
しかし微かなウエスタンの残像が、実世界とのつながりを残してしまい、完全に異次元へ飛べない。惜しい。
これはぼくの好みの問題だ。12分あたりのムード・ウエスタンは、むしろ切なげな滅びを思わせて、いい雰囲気と思うもの。
14:45あたりで一旦音を整理した。太いシンセの音がメインになる。
やがて噴出したハーシュの音に埋もれ、変調してしまったが。
最後はパーカッシブなノイズの残像が、シンセを彩る。吹き出す電子音。
・・・寂しい余韻の終わりだなあ。 (2005.8記)