Merzbow Works

Niwatori: 13 Japanese Birds Pt. 10 (2009:Important records)

Recorded and mixed in Tokyo, August 2009 at Munemi House
Masami Akita - Music

 月間メルツバウ日本の鳥シリーズ、第10弾はニワトリ。ジャケットは鳥居の上からニワトリが見下ろすという、ひときわ非現実的でシュールな絵面が採用された。
 3曲に分かれているが、組曲形式の構成を取った。表題は"ニワトリ憑き"とオカルティックに取るか、"ニワトリの執念と動物愛護なファンタジー世界"と解釈するべきか。
 アイディア一発でアルバム一枚をまとめた感あり、生まれてから過密飼いで太陽を見ずに終わる鶏の悲しみをメルツバウ流に表現したような印象を受けた。

 本シリーズで通底するドラムとノイズの融合の視点では、録音順はいま一つ想像つかない。ノイズをベースで録音し、それを聴きながらドラムを録音。さらにアナログ・ノイズをオーバーダブしたような感じ。
 ドラムが先にしては一本調子だし、ノイズが先にしてはドラムとノイズが細かいところで譜割が合うような箇所もあるため。わかんないな、実際ののところは。

<収録曲>

1."Niwatori Obsession 1" 29:32

 組曲形式で3曲。まず(1)ではドローン的なノイズと、ドラムの炸裂。多層的な電子ノイズがそそり立つ。背後のノイズの揺らぎと合うように、離れるように、ドラムがせわしなく打ち鳴らされる。
 その一方で、フロントでさらに数本のギザギザしたノイズ。さまざまな音が複雑に並列進行する、メルツバウらしいオーケストレーションだ。

 ドラムはスネアの連打やシンバルを無秩序に使い分ける。ビート感は希薄だが、ノイズがループの幻想を誘発するのか、なんだか一定のグルーヴが常に漂う。
 さらに耳が慣れるにしたがって、どんどんボリュームを上げたくなる。平べったい電子音と、深みあるスネアの対比が耳へ心地よさと、単純にさらなる迫力を求めるから。

 基礎となるザラついた電子音が空気を埋め、ドラムがせわしなくかき回す。さらにアナログ的な野太くうねるノイズが暴れ、ひとときも休まず音楽は表情を変える。
 ぼくが聴いてる環境のせいなのか、あまり低音成分が強調無い。むしろ高音のしゃりしゃりした響きが、耳をくすぐる。強烈に。

 ドラム演奏が、肉体性を強調した。ノービートながらせわしない連打と乱打とシンバルを組み合わせた太鼓が、次なる展開を常に予想外へ向かわせる。
 テクニックとは違う次元で、猛烈な強打の連続が意外性を持たせた。
 テンションを保ち続けるのは難しそう。強靭なハーシュノイズの嵐で惑わされるが、ドラムだけだとけっこうノリに波がある。打音は軽やかだ。特にシンバルが綺麗だな。
 だが終盤にかけて、ドラムは加速してきた。電子音の低めな響きは、エレキギターのソロっぽい風合いだ。
 
 エンディングは結構唐突なカットアウト気味のフェイドアウト。

2."Niwatori Obsession 2" 18:19


 数本の花火が飛び交い、ドラムが疾走する冒頭。電子音の炸裂が一つのパーカッシブな譜割を作り、ドラムと対比する構造をとった。しだいにノイズは軋みはじめ、震えながら溢れる。そしてドラムは依然として乱打を続けた。
 新たに野太い電子音が、斜めから力強く空気を切り裂いた。

 前曲との共通点はドラムと電子音の対比。ドラムの音色は同じだが、電子音のほうは色味が変わり、ちょっと雰囲気が荒々しくなった。
 丸っこいアナログな音が、ぶくぶく浮かんでは沈む。ボリュームを一気に上下した。力押しな中で、こういうシンプルな効果も新鮮だ。
 そして粘ついたゴムのように、広がって消えた。ドラムは依然として、乱打が続く。

 次第にドラムが従となり、電子音の緩やかな暴れっぷりを前面に感じる。ドラムが猛然と疾走しながらも、どこか穏やかな空気を。慣れてきたのか。
 11分過ぎで、急にドラムの鳴りがドライに変化した気も。奇妙に小気味よい。 
 終盤で沸き立つ雰囲気が、聴きものだ。

 エンディングはやはり唐突に、ドラムが消えシンセだけで余韻。 

3."Niwatori Obsession 3" 14:48

 アルバムが進むにつれ曲が長く盛り上がるのとは、逆。それなりに長めの曲ながら、だんだん短くなっていくという。録音順なのか、録った後に並べたかは不明だが。でも録った順っぽいな。なんとなく。

 深い胴の響きはますます高まった。ドラムの音色は加工されている。手数もぐっと減った。回転数を落としてる?
 ノイズのほうも鋭角に貫き、ぎざぎざ空気を削った。ゆるやかなテンポは、本盤冒頭の突っ込み具合と別。けれどもドラムとノイズの音構造は変わらないし、複数の電子音がてんでに立ち並ぶ風景も似ている。ただしアルバムが進むにつれて、だんだん穏やかさと貫禄を増した。

 数分経ったところで、おもむろにテンポが上がっていく。ドラムの深い響きはそのままに。
 ツーペダルのバスドラ連続踏みと、軽やかに響くシンバル。そして時折、畳みかけたスネア。電子ノイズとノリを合わせるかのように、ドラムが続いた。だがシンバルの刻みはポリリズミックに鳴った。
 いっぽう、ノイズのうねりとドラムは周期を整えて、大きなグルーヴを作る。

 本曲が最も、本盤で寂しさを漂わす。冒頭の激しさから、終盤の諦念に。アルバムの印象は、重い。 

  (2016/4:記)

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