Merzbow Works
Noise Forest <Les disques du Soleil:1992>
日本のレーベルからリリースの、ノイズ・コンピレーション盤。
日野繭子(C.C.C.C.)はインタビューで本盤について語っている。
『秋田さんがいろんな日本でノイズをやってる人たちを繋げる役目をしてくれて。(中略)交流をどんどん持って、それが『ノイズ・フォレスト』っていうCDで初めて発表されたんです。それからまあ、ノイズがどんどん海外に出て行って、(後略)』("Eater Vo.6":1999:テレグラフ・ファクトリー)
彼女の発言を踏まえるならば、メルツバウが切っ掛けで本盤は生まれたことになる。
さらにジャパノイズと海外で認知をされるに至った、切っ掛けの一枚ともなるが・・・。
メルツバウのほかに、日本のノイズを代表する顔ぶれが多数加わった。C.C.C.C.、ソルマニア、ディスロケーション、モンド・ブリューナイツ、マゾンナ、暴力温泉芸者、インキャパシタンツ。
たとえばここに非常階段やAUBEなどを加えたら、初期日本ノイズの入門編に最適といえそう。本盤ではもちろん、そんな啓蒙意図など感じられない。
収録曲は全て書き下ろしだろうか?とにかく淡々とノイズが続く。
故意か偶然か、曲調のテイストはかなり近しい。
轟音ハーシュノイズがノービートでべったり濡れる。聴いてると、なんだか朦朧としてしまった。
だからたった一人、脱力ノイズな暴力温泉芸者が、妙に強調された。
アルバムの蓋を開けるのがメルツバウで、豪快に叩き閉めるのがインキャパシタンツ。
東西のノイズ王(インキャパは東京でもあるな)にサンドイッチされた、轟音の凄みがにじみ出る盤。
90年代前半の時代ゆえか、マスタリングが平板気味。なるべく大きな音で聴くべき。
(全曲紹介)
1.Travelling (11:44)
Masami Akita - All de mix
Recorded at ZSF
Produkt studio 11/07/91
ここではメルツバウのみ紹介します。
のっぺりした電子細密音の絨毯が広がる。奥までずっと伸びた世界。脇から次第に丸まり、中央へ収斂する。
当時の機材はアナログだったはず。テープ編集かな?ときおり挿入される揺らぎに、わずかにビートを感じた。複数のノイズが並行で走り、ポリリズミックなスリルを産み出す、独自の世界観だ。
あえて一歩立ち止まり、四方八方に火柱を立てた。きめ細かな火花が埋め尽くす。低く、唸る。
ハーシュノイズを基調とし、豪快に音像が変わった。ステレオ・ミックスを最大限利用。両チャンネルに別ノイズを飛ばしたり、中央に集めたり。いきなりハムノイズだけにブレイクし、とたんに超高音ノイズが舞った。ひとときも休まない。メルツバウの真骨頂が味わえる傑作だ。
設計図か譜面か、曲の構造をじっくり見たくなった。おそらく即興と思うが・・・。
気温が下がるようす。空気が白っぽくなり、いきなり時間が止まる。幾度も。
メルツバウが録音時に「日本ノイズの集大成」まで考えて無かったかもしれない。しかし本曲での構成は他作に比べても、異様にバラエティ豊かだ。無音でブレイク、ハーシュノイズのサンプリングみたいな音の挿入シーンまで飛び出した。
わずか12分弱の曲にしては、異様にサービスがいい。
激しく、しかし連続では吹き出せない。空白も。足場を固めよう。中央に伸びる、道へ向かって。
そして世界は野太くふくらみ、唐突に消える。
(2005.5記)