Merzbow Works
MAZK"SPL"(1998)
Masami Akita & Zbigniew
Karkowski
Recorded at icc/ntt studios tokyo 1997
Recording engineer
michinao onishi
Mastered by denis biakham
秋田昌美がポーランド出身のノイジシャン、ズビグニエフ・カルコウスキーと組んだユニットがMAZK。お互いの頭文字をあわせたバンド名だ。
単発でなく、継続した活動を水面下でやっている様子。秋田昌美のオフィシャルHPを見ても、特に言及は無いが・・・。
ノイズのコンピでカルコウスキーの名前はよく見るが、残念ながら彼の音楽性を、今は把握できてない。なのでMAZKとそれぞれのプロジェクトの色合い違いを明確に言及しづらい。いずれ、この項は書き直したい。
メルツバウの視点から見ると、MAZKでは時間の継続性に軸足を置いたプロジェクト、と感じた。くるくる音世界を変えず、じっくり睨みあってノイズを作っていく。
タイトルはジャケットによれば、"Sound pressure
level"の略。
本作は互いが一曲づつ持ち寄り、さらに共作を一曲。3曲編成だ。
とくに使用楽器などのクレジットは無い。ジャケットすらなく、CDサイズの紙一枚が、CDに敷かれたのみ。
東京のスタジオで録音とあるので、カルコウスキー来日の折に、すっと録音されたのか。
狙いや製作メモをインタビューした記事、読んでみたい。
盤を聴く限りでは、肩の力を抜いたコラボって気がする。
<全曲紹介>
1.Visible (10:56)
作曲名義は秋田とカルコウスキーの共作。ドローンのハムノイズやリピートする電子ノイズがカルコウスキーで、フェイドインするハーシュが秋田か。
ビートの感覚は特に無く、波のような繰り返しが一貫性を持たせる。無造作にさまざまな鋭い音が飛び出す。しかし世界が変わることはない。
予定調和なノイズが漂う。
時間を経るにつれ、足されるノイズは多くなる。自分のカードを次々切り合い、厚みを増す。しかし音像の奥では、重低音のドローンがずっと息を潜めて存在し続ける。
過激さは尻上りにあがる。しかしメルツバウの音楽に慣れた耳だと、たとえどんなに派手なノイズであっても、さらなる変化を求めてしまう。
本作では、あくまでも基調は統一された。
河の流れのように、ゆらりゆらり流れてく。時に急流があったとしても。 そして世界は唐突に切れる。
2.Tranparent (24:31)
飛行機の中から外を眺めるイメージだ。
にぶく空気を切り裂く音がじわじわと漂う。
軽やかな電子音とハムノイズ。みるみる音数が増え、賑やかに。あたりの明るさが増した。
てんでに自らのペースで呟き、各人の存在を自己確認する。収斂してベクトルをそろえた。
周辺状態は気体から液体へ。ずぶずぶと底へ潜ってく。霧のような泡が辺りをみっしり覆った。揺らぎが泡の密度をずらす。
がりがり軋む操作パネル。みるみる深度を増した。
やがて世界は別の場所へ移動する。くるくると色づいた窓の外の光景。らせん状に変化した。
コンセプトは1曲目と近いが、世界観の変化はこちらのほうが面白い。
しかしそれも7分程度で、ある程度落ち着いた。
気体状態に戻った周辺の唸りも、ばりばり戦慄いているが落ち着き気味。
呼吸する金属が安定を取り戻し、加速を始めた。
しばし同じ風景が続く。だが繰り返しだけで時間が終わるのを良しとしなかった。
クロスフェイドでより脈動速度が速い電子音が前へ出てくる。フィルター・ノイズを引き連れて。
すっと呼吸金属が消え去り、世界はスペイシーになる。
低音成分よりも高音が多い。奥行きがぐんと増し、懐深い世界となった。
中央へ向かい、いつのまにか収斂する。圧迫する空気の凄みがおごそかにせまった。
スピードは次第に落ち、ゼロ点へ迫っていく。ループのピッチが低くなり、ついに着地。
下降の響きはスピード・メーターを音で眺めてるようだ。
視点は外の世界へ。空気が張り詰め、静電気が当たり一面に飛び交う。
温度が下がり、漂うものが機械仕掛けに見えてきた。すべてが加工物なのか。
またもや穏やかな時間が過ぎていく。
ぽわっと点る、一つの輝き。照度を落とし、ハムノイズに主役を委ねる。
唐突に弾ける、ハーシュノイズ。きめ細かく空気をこすり、ゆらぎへ姿を変えた。
全てが音量を落とし、完全静寂へ。
かすかに響く風の音。ピッチを上げて・・・消えた。
3.Exposed (20:01)
カルコウスキーの作曲名義。実際にはメルツバウも参加していそう。
地の底から迫り来る。ロケット打ち上げのように、地鳴りとちりちり周辺の焼け焦げとが電子ノイズで轟いた。
次第に音は収斂するが、じわりじわりと真綿のように音は狭まってゆく。 サウンドのテイストはメルツバウに通じるものがあるけれど、絶対的にスリルに欠ける。ハーシュの文脈でいながら、ドローンの味わいが強い。
好みの問題だが、ぼくはもう少しスリルあるほうが好き。
瞬間を切り取ると、音像が次第に高音へシフトしてると分かる。スペイシー一辺倒でなく、ぐらぐら揺らぐ不安定さを演出するノイズは、センスいい。だけどいまいち退屈・・・。
同じところにとどまりはしないが、コアのアイディアを固定させ、周辺の表情のみがぐるりと視点や肌触りを変えてゆく。
エンディングに向け、ゆったり着地へ。すでに冒頭の強烈さは姿を消し、ミリミリと空気を震わす振動がメインのノイズに変わってる。
20分かけて、微かなメタモルフォーゼ。 (2006.1記)