Merzbow Works

MAZK"In real time"(2004:YTTERBIM)

Recorded in Venic,Italy and Frankfurt am Main,Germany.
Reedited and mastered at Compound studios,San Francisco

 ズビグニエフ・コワルスキーとのユニット、MAZK。じわじわと活動を続けているようだ。本作はイタリアのヴェニスとドイツのフランクフルトで録音された。ライブを編集したのだろうか。MAZKの活動は今ひとつ不明で、なおかつ録音年度もなく今ひとつ詳細が分からない。

 編集はサンフランシスコで行われた。秋田昌美とコワルスキー以外のスタッフのクレジットはない。サウンドの感触から、なんとなくコワルスキーが主導権を持ったように感じる。

 ただし前半と後半でがらりと音の表情が変わる。前半の静寂と後半のハーシュに。
 もしかしたら前半がコワルスキー、後半が秋田のリーダーシップを踏まえ、互いのコラボ作ではないだろうか。

 CD一枚に一曲。長尺の作品一枚で、現在のMAZKをあっけらかんと表現した。
 前半は少々単調だが、後半でがらがらとノイズが展開し、あっというまに時間が過ぎる。

<全曲紹介>

1.In real time(66:58)

 静かに、静かに。地面がかすかにゆれ、じわじわと膨らんでいく。大きく、広く、伸びるように。

 おもむろに、びいんと低音が一打ち。スイッチが入り、きめ細かなハーシュが左チャンネルから霧散した。
 始まりはあっけなく。進化はごく僅かなもの。次第に成分要素は増すが、静かに電子音が重なってゆく。

 かすかに空気が切り裂かれ、鈍い低音がむっくりと陣地を延ばす。
 ずばっとハーシュが炸裂するのは、経過11分ほどから。空気を丸め、毛羽立たせる。
 純粋に速度を上げ、回転数が増す。余分な装飾はない。かすかに低音を後ろに控えさせたのみ。
 するりと身を翻し、左右へ散った。分裂したノイズはわずか音程を下げて、線香花火のようにはじける。底から機種を上げ、新たなノイズが中央から飛んだ。

 ハーシュはいつの間にかエッジを削がれ、鋭さを増した。
 このあたりのすっきりした音像が、ズビグニエフ主導権に聴こえてならない。
 左右にパンしたり、新たなノイズが登場したり。目先を変えて単調さを避けてはいるものの、構成要素は少ない。一気にノイズが立ち上がるメルツバウ作品にくらべ、じらされているよう。

 過激さは控えめで、ノービートの電子ノイズがしばらく続く。ループを多用しているものの、ビート感はさっぱりだ。
 豪快にはじけるかと思いきや、すっと身を潜めてしまう。

 左チャンネルでがらがらとインダストリアル・ノイズっぽく聴こえるのは、何羽かの鳥の声を加工してるのでは。
 粒立つ砂塵が地面で僅かにたなびく。

 鳥の声っぽいノイズがどんどん純化し、遠く低いうなり音とともに残った。
 見通しよい広場でのひとこま。
 やがて鳴き声はピッチが落ちて、ごろごろと無機質の転がりにメタモルフォーゼした。
 いさぎよくホワイト・ノイズが霧となって広がる。しかし右チャンネルでの蠢きは姿を残す。
 
 ここで一気に広がる、左チャンネルでのきれいなキーボードの響きが快感だった。ミックスは小さめ。次第に右にも位相し、重力を切り取って浮かぶ。
 ハーシュで足元を埋めても落ち着かない。きれいなノイズに揺られてふらふらと。

 カットアップが幾度か、とたんに空気が切り裂かれた。
 みりみりと削られ、目前で垂直に埋め尽くす。次々と現れるハーシュの咆哮。
 このあたりの音色はメルツバウらしい。多層轟音な展開になった。
 しかしすぐさま舞台に紗幕が下りるのが、MAZKな故か。せっかく怒涛の展開なのに、どこか一枚防がれているようでもどかしい。しばらくたつと、前へ出てくるんだが。

 この時代のメルツバウはループを使用しているはずだが、あまり繰り返しの要素は無い。むしろアナログ時代に戻ったかのよう。ランダムに轟くのいづがスリリングだ。
 低音のざわめきと苛立たしげな打ち鳴らし。世界は混沌。ノイズの混沌。 
 やがてらせん状に収斂する。からっぽな低音でのサイレンが浮遊する。
 低音成分のみの脈動がかすかに奥で響いた。超高速マラカス・ノイズが激しさに彩りをつける。

 脈動はテンポを上げて風景を揺らす。矢継ぎ早にノイズが顔を出しては変容し、聴いていて飽きない。
 身をよじりながら旋回するノイズの太い響きは、ゴムを引き絞るよう。心地よく空気を震わせた。
 
 プラスティックな空虚さを持って、加速する。
 気のせいか、常に左チャンネルに軸足置いたミックスだ。
 ビート感は取り立ててないが、中央で脈動が周期をみるみる上げ、高速ビートらしき容貌をほんの少し覗かせた。

 ふいに世界は静寂にぬぐわれた。一つだけ残ったのが、右チャンネルの金属タワシな響き。しばし一人ぼっちで表面を輝かす。
 おもむろに低音が不穏な風を吹かして・・・つと消える。

 エコー成分排除から、強烈な深さを背負ったノイズへ。凄みを効かせ、立ち尽くす。これまでにないストイックさだ。
 緩慢なカットアップのごとく、過激さと静寂さが交互に登場。いくぶん静寂のほうが力は強そう。轟き方も、どこか遠慮がち。
 ぶわぶわ跳ねて透明で軟体な袋へ飲み込まれる。さやさやと繰り返されるのは、しばらく前にキッチリ脈動していた残滓か。

 構成要素は少ないが、矢継ぎばやにノイズが折り重なっては消えてゆく。
 チルアウトが必要な作品でもないが、実際にはこのあたりはチルの意味合いも。蠢くノイズのたゆたいで、まったくのリラックスを許すわけでもないが。
 
 床を覆うハムノイズ。目線は下へ向かい、スピーカーから侵食してきた。
 いくつかのエレクトロ・ノイズの距離も、なんだか聴きはじめから近まった。
 
 ひときわ轟音が轟いた。テープ・コラージュも使って最後のハーシュを決める。
 鐘が打ち鳴らされ、擦り切れたレコードのコラージュで田舎の祭り風景を演出。断続するノイズがかぶされ、切ない余韻を残しつつフェイドアウト・・・。
 一音、鋭いノイズを残して。 
  (2006.5記)

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