Merzbow Works
Monoakuma
(2018:Room40)
奥深いアナログ・ノイズの奔流が、底光りして広がった。
メルツバウこと秋田昌美が音源を残し始めた1978年を活動開始と位置付けた、活動40周年の記念盤。リリースしたレーベルRoom40の仕切りで、秋田自身はCD音源にあたりミックスなどはしていないようす。
Room40の活動拠点であるクイーンズランド州ブリスベンはInstitute Of Modern
Artで、メルツバウが2012年に行ったライブ音源を収録した。
40周年記念なのに、6年前の音源を使うあたりに違和感を感じるけれど。細かいことはいいんだよ。
音楽性だけでなく方針もメルツバウを尊重しており、本盤の収益は顔面腫瘍の被害で減少というタスマニアデビルの保護に使われる。ビーガンであり動物愛護の秋田と同種の思想が込められた。
サウンドは、一つのノイズを細かく厚く唸らせるメルツバウ流のオーケストレーション。ライブのためか、くるくると場面転換はせずじっくり一つの音像と向かい合った。
<全曲感想>
1 MONOAkuma 50:08
鈍く太いノイズが立ち上る。50分一本勝負で、トラックは切られていない。重たく広がり、なおかつきめ細かい。一つのノイズだが単調とは真逆。様々な周波数帯に拡大して、時に別のノイズも絡んでいった。
芯で鳴るノイズを軸に、ラップトップも使って音へフィルター加工や波形操作をしてるらしい。
ときおりエフェクタのつまみをひねるかの如く、ぐいっと力強く揺れる場面もあり。
ノイズは途切れない。時に新たな音が加わって、複雑に音像を彩った。一人で演奏しながら、まさにオーケストラのようなふくよかさあり。複数のサンプリング・ノイズをばら撒いてはいないのに。
音はどちらかと言うと、重ため。高音はきつく尖らせず、のぼっと太い。
多様な周波数帯で漂う一方で、上下はスパッとフィルターで切ってる風にも感じた。録音のため、仕方ないのかも。ライブ会場ならば、もっと低周波や高周波による音圧や風切りも味わえたのでは。
主で鳴る音色の性質は変わらない。漆黒に吹きすさぶ細かく編まれた平たい闇。
そして形は常に変わり続けた。不定形で緩やかに、しかしスピード感は持ち続けて。緊張感を途切れさせず、ミニマルやドローンとは全く違うベクトル感を持った。
表情や質感はあまり変わらないのに、片時も同じところに居続けない。
風は掴むことも途切れることもない。時に強く深く、または鋭く広く吹き続けた。すっと途切れそうにクルリ舞い、鮮やかに浮かぶ。
30分あたり経過したところで、ぎゅっと音像が絞られた。低音のざらつきはそのままに、中央で激しい振動が。小刻みな本体がもともと持つ振動と、操作によるざわめきが混ざり合りあう。
電子音が自己主張を始めた。ライブの冒頭から明確な場面転換はないのに、じわじわと変化するメルツバウの見事な魔術の結実。
軋む音は明瞭に鳴り、強調される周波数帯域が変わった。冒頭から中盤までの低域寄りが、いくぶん高音志向に重心を変えた。
電子音へ音の波がかぶさり、洗う。霧笛の如く吼える低音の蠢きが彩りを添えた。
それもいつしか表情が変わる。立ち止まらず、混沌の中に溶けていく。
冒頭と似た吹き荒ぶ暴風の奔流に埋めこまれ、見事に世界は一回りした。
鋭く身をよじり、つんざく高音が溢れたあとで急速に収斂にて、幕。
メルツバウ流の多様な変化の醍醐味が味わえる、見事なライブ音源だ。(2019/4:記)