Merzbow Works

Metalvelodrome(Alchemy:1993)

All decomposed & perfomed by Masami Akita
Produced by Masami Akita for Alchemy Records
Mixed at ZSF Product studio,October 1993

All performed by cheap electronics & junk
No synthesizer & midi sampler

 副題は"Exposition of electro-Vivisection"。4枚組のボリューム。
 大作の多いメルツバウだが、やはりインパクトある量。
 全てが新録ではない。90年にワシントン、91年の韓国でのライブなども。いわば90〜93年の各種音源による編集盤の体裁だ。

 メインジャケットは皮を一枚剥いだような男の横顔。
 裏ジャケはバイブなどをばら撒いたオブジェの写真あり。中のピンナップは内臓っぽい写真をちりばめた。
 つまり猟奇的でグロテスクなイメージで統一されている。

 曲目もその手の単語が頻出。タイトルありきで曲を作ったか、それともあとでタイトルをつけるのか。
 メルツバウにインタビューを誰かしてくれないかな。
 本人は"金属電子メタル時期"の集大成として、音やジャケともに気にいった作品らしい。

 曲のクレジットに"Hustle Tokyo 4/4/93▽"と"DC/AC Washington27/9/90▼"の記載あるも、▽のマークがついた曲名はひとつもなし。(1993)とクレジットされた曲全てが、▽印の東京録音だろうか。
 ちなみに▽はReiko AとSeidoとともに作成、▼はReiko Aが参加してるとある。

 「シンセサイザーもMIDIもなし」のクレジットがすがすがしい。
 とびっきり力強いハーシュが暴れる、実に痛快な作品に仕上がった。
 4枚組でひととおり聴くには時間を要するが、ワイルドなメルツバウを楽しむにはぴったりの作品。
 
(全曲紹介)

Disc 1

1.Armless(9:20)

 硬質の歯軋りが初っ端から現れる。
 時にしゃくりあげつつ、豊富なニュアンスを表面に塗りたくった。
 パワフルで味わい深いノイズ作品だ。

 拡散せず、コアを内部に意識してる。周辺を取り込むか削ぎ落とすか。
 がぶりと噛み付き、耳をつんざく超高音が吹荒れる。

 中盤でいったんブレイクっぽい場面あり。
 電子嵐をバックに、メタルがせわしなく連打される。
 これはどうやって演奏してるんだろう。鉄板にコンタクトマイクつけて、その場でエフェクター加工かな。

 エンディングはエレクトロ・ハーシュ一本槍にもどる。
 豪腕で押し切らず、ときどきメリハリのつくアレンジのセンスがさすが。
 偶発性を多分に秘めた、一寸先が見えない危うさがかっこいい。

 オーラスは一声、長く咆えた。荒々しく叩きつけてカットアウト。

2.Retro(1:04)

 前曲から切れ目なく続く。
 モーター音を変調させたような、ひとところに留まらぬせわしなさあり。
 
 静寂との対比が素晴らしい。
 唸り。泡立ち。身を潜め、鋭く見張る。

3.G-Spot in odd meter(11:32)

 これまた前曲とメドレーで続く。(2)の静寂部分を抽出し、拡大した音像がイントロだ。
 高回転のエンジン音を模した電子音が鋭くハーシュの道を駆ける。
 わずかにざらついても、かまわず跳ばす。一直線に幾台もが過ぎ去った。

 ぞんぶんに駆けたのち、エンジン音はぶわりと膨らんだ。
 複数のノイズが並列して存在、縦方向に散らばる。

 爽快な聴感を持った作品。シンセじゃないとすると、こういうノイズはどうやって出していたんだろう。機材や録音方法の詳細を知りたいな。
 いくぶん構成はモヤケているが、音像はひとときも休まず変貌する。
 こういうアイディアたっぷりのところが、メルツバウの素晴らしさ。メタリックな咆哮がたんまり聞ける後半部分もかっこいい。
 
 エンディングはラスト数十秒。いきなり音が消え去り、じりじり唸るハムノイズが互いに顔を出す、クールな終わり方。

4.Morbid dick(3:59)

 「白鯨」をもじったタイトルだろう。
 前曲のフェイド・アウトにあわせ、フェイド・インで幕を開ける。
 じわじわと装置っぽいループから、高音が跳ね回る金属ノイズへ。
 がらがらと賑やかに転がり、唸る手前で甲高く笛のような音。

 展開は特に無いものの、端からすぐさま表情が変わる。
 泥流がさまざまに飲み込み、刻々と流れるさまが脳に浮かんだ。

5.Polycain type(4:12)

 曲間無しですぐさま始まる。
 咆哮と電子音。隙間無く塗りつぶし、分厚く迫る。

 個々の音は録音で潰れてるのか。
 いくつものハーシュが絡み合ってる気がするのに、むしろのっぺり粘つくカーテンが釣り下がる。
 
 収斂。絞られた。中央に集中し、突き抜けよと注げ。

6.Bluedelick(14:43)

 前曲から場面転換のごとく、唐突に曲間なしで繋がった。
 ノーリズムのハーシュは表面がささくれ、ゆるく鈍く沸く。
 畳み込む電子音に微妙なビートを感じた。

 カットアップ的な曲展開は、後のメルツバウを示唆する。
 轟音でおっかぶせず、むしろ表面処理の荒さを強調するこの曲は、緊張を煽り面白い。
 
どんより曇った原初の世界に広がる地平線。電子音という限りなく人為素材の音楽だが、素朴に広がる風景もイメージさせた。

 中盤からはドローンを提示した上で、高音同士の勢力争いもはじまった。
 しかし雄大な光景は維持されたまま。
 
 11分あたりで唐突に、ロングトーン一発に変化するアレンジが素晴らしい。
 前後の音像が混沌としてるだけに、効果的だった。
 そして同じテーマ(?)が14分手前で再登場。
 ぴりりりっ・・・と、わずかにほころびながら。

 エンディングはすぐさま怒涛に戻り、次の曲へ向け駆け抜ける。

7.Two for miles(19:22)

 ずっしり低音が唸る。かすかに微笑む高音。
 インダストリアル・ノイズよろしく、単調な響きが続く。繰り返しはあるが、ビートは希薄だ。ただただ回転するかのよう。

 数分たって、するりと滑るは鋼鉄製の波。
 それをかき分け、スピードを上げて沖へ向かう。
 風切音が高まった。視界が狭まるほどスピードが・・・。

 再びモチーフが冒頭に戻った。
 しかし今度はぐっと賑やか。白く柔らかい綿が絡みついて震える。

 6分20秒。がらりと風景が変わった。リバーブっぽい音像。
 ピントがボケたカメラでうっすらした情景を拾う。
 足元おぼつかず前へ。散発的に小さく破裂。
 しかしみるみる激しさを増し、揺れていく。

 もこもこした音像で、鋭さがやわらげられた。
 ここまでアルバム一枚、ずっと強烈な金属ノイズが続いただけに、ほっとするひとときだ。
 しかしピントぼやけてはいるが、あいかわらず音は激しいまま。ランダムなパルスが、不定期にリズムっぽく回転する。
 
 だがいつしかノイズにピントがあった。ゴロゴロと荒れ狂う電子音は、いくぶん音が潰れ気味で残念。ライブだったら細部まで聴き取れ・・・ムリか。轟音でまったくわからなさそう。
 すみずみまでメルツバウの音楽を理解できるのは、秋田昌美ただ一人なのかもしれない。
 少なくともこの当時は。ライブでも録音物でも、全ての構成物を聴き取るなんて、簡単にできるもんか。

 エンディングまぎわで、構成物が整理されて平面が見えてきた。
 かなり力強さが増した。
 荒れる波頭を蹴立て、前へ進む。船体にぶつかり、破裂する波たち。
 
 長距離でも難なく、旅を続けられるだろう。

 最後は猛然と盛り上がり、唐突に切り落とされた。

Disk 2

1.Neon worms(11:15)

 電気製のオヤジが一息つく。
 じわじわフェイドインで侵蝕し、またたくまに埋め尽くした。
 無秩序にハミング。煮えきらぬノイズがてんでに破裂する。

 メタル・ノイズをサンプリングみたい。でも電子ノイズと取り混ぜられ、あいまいさが増す。
 まったくのノーリズム。わずかに空いた隙間へ、これでもかとノイズが注がれた。

 慌しくせめぎあうさまがコミカルだ。
 一通り録音したあと、テープ編集してるように聴こえる。それほど瞬間の情報量が多い。
 しかしメルツバウがそういう録音方法とるかなぁ。まったくの一発録りな可能性も。どっちだろう。
 いちど炸裂したあとは、ほぼテンションは落ちない。ときたまふっと、息継ぎのようにレベルが変わるくらいか。
 起承転結何するものぞ、と初手から猛烈に疾走する。痛快だ。

 9分半のあたり。サイレンみたいな音像が左右チャンネルを駆け抜け、群集のどよめきが浮かぶ。その瞬間がスリリングで好き。
 エンディングはブレイクが数度織り込まれた。
 エレキギターのフィードバックみたいなノイズが繰り返し自己主張し、唐突にカットアウト。

 録音は1992年。おそらく本盤のための新録。

2.Traveling(11:51)

 電気製の空飛ぶ絨毯が頭に浮かんだ。
 空気を揺らめかせ、ゆったり前へ進む。

 この曲の初出は"Noise Forest"なるCDらしい。レーベルは"Les disques Du Soleil "。フランス盤かな?
 淡々とたゆたうループをホワイト・ノイズが塗りつぶす。耳をつんざく電子音が数本、突き立った。

 一瞬の空白。
 慌てず秋田は再びノイズを復活させる。
 ハーシュではあるが、いまひとつ単調か。電子ノイズが乱立し、形を変えるさまは楽しめる。
 安易な轟音を求めず、耳をすませるべき作品だろう。

 4分半くらい。うなりに収斂し、拡散、収縮。この儀式を執り行い、軸足がスペイシーに変わる。
 唐突な空白を多用する、7分半あたりがこの曲でもっともスリリングだ。

 おそらくは録音レベルを丸ごとゼロにして、強制的な無音を挿入してる。
 静寂もハーシュとなりうる。大げさに言えば、その可能性を実証した作品。
 エンディング前のうねりと、終焉間近の響きも悪くない。
 そして誇らしげにカットアウトで幕を下ろす。

3.No.3(9:03)

 ゆっくりとパンする電子音。
 おもむろに中央でメタル・ノイズが蠢く。次第に破壊音は大きくなり、背景の電子音も歪んでいった。
 
 ふたつのうねりは静かに幕を下ろす。
 一瞬の空白。
 にぶいパーカッション風の音が鳴らされた。日本人らしい大太鼓のリズム。ぷかぷかっと一瞬聴こえるのは、まるで笛のようだ。

 断続的なノイズの噴出しがこの後も続くが、徹底的なカタルシスまでは到達しない。
 隙間を多くした作品で、ちょっと単調か。いまは小さい音で聴いてるからね。
 大音量だとまた印象違うんだろうな。

4.HGL made a race for the last brain(9:21)

 初出は"Altered states of consciousness"(U.P.D.006)らしい。不勉強でどういう盤なのか知らない。海外のコンピ盤かな?ご存知の方、ご教示頂けると幸いです。
 しょっぱなからみっしり詰まったハーシュノイズで揺らぐ。
 みっしり音を埋め、濃密な迫力。定位は中央よりで(モノラルではない)、野太い印象だ。

 メルツバウが得意とする多重ミックスで、それぞれが同時発生で暴れては消えてゆく。こういう曲が大好き。
 電子音やシンセが次々飛び出し、何をやってるかさっぱりわからない。

 2分くらいで一瞬ブレイク、再び炸裂。メリハリがかっこいいいな。

 どどどどどど。太いパルスが吼え、歪んだ音が殺到する。ボリュームを上げるほど、細かい音がわかって魅力が増えた。
 さりげなく漂うシンセの音もいいな。3分半過ぎくらいね。ほんのひと時、軽く鳴らすだけでやめてしまう贅沢な使い方だ。
 6分半くらいで聴こえる、サイケに脈動するリバーブの肌触りもいい。
 そしてドローンのような電子音。立て続けにホワイトノイズがカットイン。ブレイクを挟んで、一気にエンディングへ雪崩ゆく。

 9分あまりの時間を退屈させない。
 アイディアがたんまり詰まって、凝った作りだ。傑作。

5.Electric moon tum-til(4:59)

 ここから3曲は、7インチ盤"Red Drugs 93"音源の再発となる。手に入りにくい音源だけに、リイシューは嬉しい。

 泥道をジープが失踪する。ぬかるみを跳ね飛ばし、どんより曇った風景を切り裂きながら。
 不穏な香りの世界は、基本的にモノトーン。 
 重たい霧の中へ、まともにつっこんだ。雹かと思うほど粒が大きい。情け容赦なく降り注ぐ。若干スピードを落とし、着実に前進した。

 風がもろに進行を妨げる。エンジンは力強く唸った。
 一寸先も見えない。電子の闇。
 ライトが一筋、前を照らした。吹き飛ぶぬかるみ。

 パイプオルガンのような音が後ろでうっすら聴こえる。
 回転は心なしか甲高くなった。賑やかな振動。そして・・・フェイドアウト。

 ドラマティックで楽しい曲。

6.Pink surf nitro(1:27)

 これも多層ミックスが聴き応えあり。
 ちょっぴりコミカルに弦が鳴る。電子加工され、すぐに背後の音と融解してしまうが。

 一転してリバーブたんまりなメタル・パーカッションの音。たかだか1分半の曲なのに、ころころと音像が変わる。

7.Scum rider(1:56)

 前曲から切れ目なしで始まる。
 低音が不敵に笑い、ハーシュ・ノイズで唐突な塗りたくりをみせた。

 ストーリー性はなく、アイディア一発勝負か。
 各種のノイズが吼えるスリルがすばらしい小品。
 ラストはフェイドアウトしつつ、加速していく。もっと長尺で聴きたいな。

8.Hitchhike to kill(4:15)

 「殺しのヒッチハイク」と物騒なタイトル。本作のための書き下ろしか。
 曲は無節操なハーシュ・ノイズ。どの曲も似たような感じながら、明確に違う。
 ほんとうに秋田昌美のアイディア力はすごい。

 みっしり音は詰め込まれ、小さな音でも音圧がすごい。
 どんどん輪郭が先鋭化して、不安をあおる。たまに低音が唸ると、ほっとするなあ。
 ノーリズムのノイズは情け容赦なく前へ前へ進んでくる。押しとどめることは出来やしない。
 
 シンセの脈動。いったん音が丸くなる。ランダムに踊ってたノイズもいったんは真似をして、ころころ震えてみせた。

 唐突なカット・アウト。脈絡など、どこ吹く風だ。

Disk 3

1.Die fruchtbarkeit in der ehe/
  Another crash for high tide(46:30)

 ハーシュノイズは冒頭から提示されるが、テープ・コラージュ要素が強く、かなりとっつきやすい音楽だ。

 冒頭でトランペットによるファンファーレのサンプリングが、幾度も挿入された。
 シンバルっぽい音は、淡々と別ビートを刻む。実際には鉄板を叩く音かな?これが蹄鉄を表現してるのかも。
 本曲も93年の録音で、当時の新録音じゃないか。じっくり長尺のノイズが楽しめる一曲。
 始まって数分でがらりと音が一変する。しかし早回しの喋りは寸前のハイハットと、ほぼテンポが一緒。
 その後も性急なシンバルっぽいビートが形を変えて続く。ノービートを得意とする当時のメルツバウにしては、珍しい曲調ではないか。

 基調は「跳ねる」。手を変え品を変え、弾むビートが提示された。
 テープ・コラージュが場面転換に良く使われ、メリハリが多い。
 興味深いのは、6分後位に一旦、静寂が訪れるところ。なぜメルツバウはパワー・ノイズで押さずに、ここで一息ついたんだろう。

 続く場面でも、隙間はかなり多い。迷い・・・ではないと思う。
 11分辺りから、豪快なハーシュが登場した。
 カットアップが続く。けれど「リズム」の概念が常に存在。
 極短編イメージ・ビデオのメドレーの、サントラを聴いてる気分だ。
 
 あるがままに受け入れるべきかもしれない。しかしこの曲は、途中を編集でつまんで欲しかった。
 ノイズ作品としてよく出来たコラージュだと思うが、メルツバウにしては冗長さを感じる箇所もあり。聴き方によっては、しこたまポップだと思う。
 ビートへ執拗にこだわった作品。後年のループやビートへのこだわりをほのめかす一曲ととっても、面白そう。
 もし単一ビートが支配したら、ノイズ・ヒップホップとして成立したろう。そんな色気をまったく感じさせないところが、メルツバウだが。

 長尺でくるくる変わる風景に統一性は希薄。興味の赴くままにノイズを組み立てたのかもしれない。抽象的なノイズの地平から、台所用品を乱打するかのような日常性まで混在する。

2.Soul to soul(28:36)

 冒頭の空気はサウンドチェックっぽい。
 「テーブルの上にxxx」とかいう韓国語(?)と、「パフォーマンスが始まります。よければもっと近づいてください」という、女性の英語。

 おもむろにハーシュが賑やかにばら撒かれた。
 この曲はライブ音源。91年8月の韓国で開かれたイベント"The international natural fine art,exhibition of Kum-River"より。
 
 少々こもり気味ながら、パワフルなノイズ。情け容赦なく轟音を積み上げる。音そのものがレベルを振り切っているのか。高音や低音は物足りない。
 なぜならノイズが痛快だから。
 複数の極太な電気仕掛けの強風が吹き荒れる。
 注がれるハーシュに、周期性やビートはない。前方へ進む、強烈な意思を感じる。
 全てを飲み込み、流れる大河のように。濁流の奥に澄んだきらめきが見える。

 めまぐるしく表情が変わるライブだ。かなり力がこもっていそう。聴いててノイズに酩酊する。
 パルスが吼え、重低音がなぎ払い、唸りを上げる。
 凶暴なノイズが幾本も立ち並んだ。聴衆はどうメルツバウのノイズを受け止めたのか。

 エンディングは唐突に次の曲へ繋がる。完全収録版じゃないのかな?

3.〜 Blood sadist goes to nudist(0:31)

 録音クレジットなし。93年録音かな?
 人の声を加工した激しいノイズ。これは誰の声だろう。
 ぶくぶく水の中で溺れるような光景を作り出し、さっさと幕を下ろしてしまう。

Disk 4

 ディスク4は全て93年録音で占められた。メルツバウにとって、この盤は新作扱いなのかもしれない。

1.Metal man has hornet's whip (6:15)

 引っかいて飛び跳ねる。立ち止まってかきむしる。
 耳に引っかかる高音が真っ先に飛び出し、じわじわ低音が忍び寄った。
 鉄板を叩く音がかろやかに登場する。ループさせてるようにも聴こえるな。

 一転してうねる。左右で違うノイズがほとばしり、ポリリズムを作った。 
 進展はめまぐるしく、賑やかに盛り上がる。金属質のつんざきが耳を突き刺した。
 後半で流れる低音のループがビートをつくり、あんがいダンサブルな一曲。
 最後に一吼え、まったく違うノイズが登場して幕を下ろした。

2.Zero in the scream (5:17)

 地鳴り。遠くからスピードを落とした列車がやってきた。
 汽笛を鳴らし、傷ついた身体を揺らしつつ。
 傷から油が染み出したボディが、じりじりと目の前に迫ってきた。
 ピストンが動き、シリンダーを叩く。

 規則正しいビートはこの曲でも聴ける。いさぎよく振り落とす響きは、規則正しいがゆえに不安を加速させた。
 あんがい音要素は少なく、見晴らしのよいノイズだ。
 丁寧にここの音を配置した、絵画のよう。時が進むにつれ、若干混沌さが増すけれど。

 この曲も最後は、がらっと風景が変わったノイズで終わる。前曲よりはコーダの部分が長い。
 いっそコーダ部分も延々と聴きたかったが・・・なぜか唐突に切り落とされた。

3.Shanty tramp  (4:03)

 イントロは前曲と似ているが、若干音程が高い。

 熱湯が幾本も噴出した。沸き立つ状況をとどめもせず、散布するがまま。
 あまり派手な展開はなく、アイディア一発で終わらせる。本曲もノイズの構成がきっちりなされてる。
 前曲より奥行きが合って、なんだか落ち着く。

 やはりエンディングで別のノイズが登場。この解決方法が気に入ったのか。

4.Necrogrinder (24:53)

 中途半端な前曲のカットアウトに続き、曲が始まった。
 貫く。幾本も、鋭く。
 ノックっぽい音にハーシュがかぶさる。心なしかノックの音そのものも、次第に変調された。
 タイトルは「死体粉砕機」という意味だろう。メルツバウの造語じゃないのかな?ヤフーUSAで検索したら、いくつかこの言葉がヒットした。

 がりがりと削いで表面をざらつかせる。電子の吼え声が鈍くうごめく。
 ビート感は希薄で、ひとつながりのうねりを紡ぐかのよう。左右でノイズがきっちり分離し、混ざり合おうとしない。

 ノイズの貫きは続く。しかし次第に音像が平べったくなった。地面をざらつかせ、底光りする金属ノイズが突き進む。
 あくまでビートはない。高速変調させたメタル・パーカッションらしき音も絡むが、パターン化を拒んだ。
 左右チャンネルで別の動作をするノイズが、ときたまリンクして同時に鳴る。何気ないアレンジが楽しい。

 中盤からはいつのまにかシンセのような発振音が主体になる。切り替わりが自然だな。自在にノイズが操られてる。
 冒頭の削岩イメージも若干残るが、脳裏に浮かぶイメージは粉吹雪の舞う平原だ。じわっとパンして、ノイズが移動する。

 13分40秒過ぎ。唐突に強烈な発振音があたりをなぎ払った。

 ハーシュでのっぺりと埋めつくしたメルツバウは、そのまま淡々と空間を睥睨した。
 微妙に音色が変わるものの、根本の圧倒する音圧に変わりはない。
 容赦なくノイズが押し、埋める。轟音で聴いたら印象変わるかもしれないが、適度な音量だと表面のきらめきがじわじわ変わるさまも楽しめる。

 そもそもノイズはまったく停滞しない。せわしなくうねり荒れ狂う。したがって単調になる余地は皆無だ。
 エンディングまでパワー・ノイズを堪能できる。
 25分あまりの時間を飽きないよう、ドラマティックな構成も意識した作品。どこまでが偶発で、どこまでが編集だろう。

 最後は息を整えるかのごとく、轟音のうごめきが揺らぐ。カットアウトは唐突に。

5.Smelly brain (8:35)

 4枚組の幕を下ろすのは、なんだか擬似ノスタルジーを刺激されるポップな作品。

 前曲のあと、無音をじっくり挟んでフェイド・インで始まった。この余韻がかっこいいな。
 オルガン・・・いや、軍隊ラッパを波形変調だろうか。やけにのどかな音がメロディらしきものを奏で、右チャンネルでは重厚なタイプライターのサンプリングが響く。
 窓の外からノイズ列車の音が聴こえる。
 どのノイズ要素をとっても、耳馴染みの生活音は使ってない。だけど妙に和むんだ。不思議。

 5分くらいで一旦、音圧がぐっと増え、抽象度も高まった。
 それまでの音はほぼ全て消し去り、単一の電子音を深いダイナミクスでそよがせ、不安をあおった。
 ハーシュも登場。しかし控えめ。

 エンディングで冒頭の音像が復活する。明確に軍楽ラッパが起床のテーマを吹く。幾度も。
 わずかに音を錆び付かせ。カットアウト。しかし唐突さはない。
 前曲の轟音パワーとはうってかわり、コミカルな要素も含んでる。
 こういう幕の下ろしかたも、一息ついていいね。

  (2005.3記)

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