Merzbow Works

Noisemryo<The releasing eskimo/1994>

All noise craft & produced by Masami Akita
Recorded & Mixed at ZSF Produkt studio,Dec 1993-Feb 1994

 スウェーデンのレーベルからリリースされた。表ジャケはコラージュか。
 インナーの中身は抽象画で、Atechtonixなるユニット(?)が担当した。

 当時のメルツバウは自作のノイズマシンで作品を作ってたはず。
 しかし後年のPC仕立てにつながる、ループ感の萌芽を聴けて興味深い。
 鋭いハーシュを存分にばらまき、音に強烈な迫力を感じた。
 曲名は数字のみ。聴いた印象では、個々の曲想同士に関連はなさそう。

 裏写真は全裸の東洋人女性(やたら雰囲気が古臭い)と、裸体を覆い隠す無数の風船。
 インナーには副題で「性交雑音姿勢の精神分析研究」とある。
 性文化にも興味を示す秋田昌美だが、この副題は自らの指定か、レーベルが勝手に決めたのか?

 作品は無機質なハーシュノイズが延々と連なる。
 だが単調さはない。むしろ一瞬でがらりと音の風景が変わる場面がたびたびあり。
 テープ編集をかなりしていそう。
 怒涛の電子音に溺れまいと、聴くほうにもがむしゃらなパワーを要求する、刺激的な一枚。
 
<全曲紹介>

1.Part 1 (9:19)

 いきなりズシンと凶悪に噴出した。カットアップ風に暴れ倒す。
 うかつにボリュームを上げられない。
 
 ループは使ってないと思うが、幽かにビートがある。前のめりなノイズ。
 あふれる力を懸命に抑えてても、こぼれ出してしまう。

 次々に弾けるめまぐるしさがスリリング。多用なノイズが混在し、全貌はさっぱり聴き取れない。
 左右のチャンネルに別のノイズを配置してるみたい。
 左、右、中央のポジションをくっきり意識し、音が飛んだ。

 せわしなくパンしながらハーシュは突き進む。

 5分過ぎにいったんフェイドアウト。メリハリ付けたとこで、またもや激しくぶちまけた。
 落ち着きなくとっちらかる。
 
 よく聴くと同じノイズの繰り返しは、ぜんぜん使ってない。似たような音素材を入れ子にしてるのかも。
 秒単位で音が入れ替わり、新たな表情が産まれる。
 
 スリリングでパワフルな傑作。

2.Part 2 (25:24)

 轟音が脈動した。わずかな繰り返しはあるが、これは手作業だろうか。
 一面のばら撒きに翻弄される。
 後年のPC仕掛けとは違い、手で重ねているぶん情け容赦ない。

 さまざまなハーシュが一気に詰め込まれており、冒頭数分はイメージの変化なし。
 3分を回ったあたりで強引にパンでチャンネルを振り分け、より先鋭に肌触りを変えた。

 同じ音像に永住はしない。いつしかぐっと音を整理し、心棒に力を込めて中央で激しく回転する。
 飾りを全て巻き込み、ぱっと両チャンネルに別れた。
 
 左右で似通った音ながらも明確に違う。中央でクールに吠えるノイズ。
 すぐさま立ち位置が変わった。めまぐるしく左右のノイズが違う位置へすっ飛んだ。

 途中でまくし立てるノイズ男の会話っぽいシーンが楽しい。ユーモラスさはかけらもなく、やり込められへこんでしまうが。
 規則正しく打ち鳴らす電子ビートは、頭をハリセンで素早く叩かれているよう。
 中盤では音が整理されてるせいか、冒頭の抑圧から解放されてマヌケな発想が浮かんでしまった。

 ぎゅっと絞り、またノイズの乱打へ。
 役割は交代するが、どれかのノイズが繰り返され、インダストリアルっぽい光景もあった。
 
 奔流はやがて形を変え、濁流としてホワイトノイズに埋め尽くされる。
 かすかに違う音がミックスされ、一筋縄ではいかない。

 一方のノイズが高らかに吠え、追いかけていくつものノイズが唸りを上げた。
 冒頭とよく似た力技の混沌に世界が戻り、野太くたくましい流れが全てを連れ去る。

 ラストは甲高い電子音と、マシンガンみたいな打ち鳴らし。
 逃げ場を探すかのごとく周囲を黙らせた。切なく高らかに叫んでは、濁流へ身を浸す。
 噴出し、浴びせかけ、突き進む。一点を目指して。
 
 みるみるピュアに輝き、精錬されて奥へ。真っ赤に輝く中心が覗けた。
 体が削られ、仲間が削がれる。
 もうすぐだ。進む。

 甲高い電子ノイズが一閃。
 左右へ未練げに軋んで・・・消えた。

3.Part 3 (20:57)

 のっけから空気を塗りつぶすハーシュ。隙間を縫って鋭い電子音が踊る。
 メインは右チャンネル寄りで吼える、高速回転する鈍い音か。
 猛吹雪の中を着実にジリジリと前へ進む。

 地を低音が這い、金切り声でわめきたてる電子音をがっちり支えた。
 左右のチャンネルではきめ細かな砂塵を撒き散らし、中央で力強くがらがら突き抜ける。
 5〜6種類のノイズを同時に操ってるのかな?
 耳を澄ましても、全ての構成要素を聞き分ける自信がない。
 圧倒的に押し寄せるノイズだが、どこか爽快感あり。

 6分くらいでいったんノイズは整理される。
 高音が収斂し、中央で激しく脈動する低音。
 表面は綻び、左右チャンネルへ破片が飛び散らかった。
 みるみる温度が上がり、熱くなったノイズはずぶずぶと壁を貫いてゆく。
 そして始まる混沌。9分前後、奥のほうでぐるぐる鳴るモーター音がすごく刺激的だ。

 ノイズのテンションはぐいぐい上がり、カットアップ風に場面が切り替わった。
 この辺はテープ編集だろうか。リアルタイムで切り替えられる機材ならば、素晴らしい瞬発力だ。
 ノイズの中心をあいまいにして、どれもこれもが切っ先を鋭くそそり立つ。

 低音が広がる。床をびりびり震わせ侵食してきた。
 幾度も吼えるが、ビートもリズムもない。混沌のまま表面ががらがらと変化していく。
 左右のチャンネルを軽やかにパンするノイズ。こういう音像は、リアルタイムでミックスまで済ませてるんだろうか?知りたい。

 息抜きをほんの少し挟む。
 またもや電子音らが炸裂した。
 16分20秒あたり。がっと音が整理され、高らかにノイズが転がる瞬間がかっこいい。

 さまざまな電子音を使い分け、隅から隅まで刺激的なノイズをばら撒いた。
 最後の最後まで、新しい音色が飛び出す。
 力技な脈動もとうとう破綻させ、終焉を迎えた。エンディングはいさぎよいカットアウト。傑作だ。

4.Part 4 (2:53)

 何かの音楽をループさせてイントロに置き、すぐさまハーシュの嵐へ叩きつける。
 いきなりクライマックス。ハウリングのごとく、鋭く啼くノイズをふんだんに織り込んでいる。
 
 ハムノイズによる低音成分も忘れていない。
 冒頭のループだけが違和感あり。あれが無ければ、本盤の音を総括する曲になったろう。
 たとえば、この盤のCMソングとか。

 こういう盤がテレビやラジオから、ふんだんに流れる時代が来ないかな。
 そしたらもう少し、世界は面白くなると思うよ。

  (2004.12記)

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