Merzbow Works

Milanese Bestiality / Drunk On Decay (2016:Old Europa Cafe)

Recorded and Mixed At ZSF Produkt Studio
Moog, Effects by MA (on 1,2)

All Performed,Recorded and Mixed By GX Jupitter-Larsen (on 3,4)

 あまり喧しくなく、リズミックでスペイシーなシンセという当時にしてはけっこう珍しいメルツバウ。

 これは20年の時を経て再発された東西ノイズ勢のスプリット盤。
 The Hatersは79年に活動を始めた老舗なアメリカのノイジシャンだが、ぼくはほとんど聴いたことない。さまざまなリリースがあるけれど、詳しい活動はよく知らないのでここでは割愛する。

 大量ノイズって観点だと100枚限定で25枚のCD-RセットってBoxを"Limited Edition"(2004)リリースしたりもしてる。
 メルツバウとの絡みでは、"Merzbow & The Haters"(1987)、"Sniper"(1993)でコラボあり。本盤はそれに続く双方の名義が冠せられた盤となる。本盤はスプリットで、特に共演はしてないが。

 まず本盤のデータ関係から整理しよう。オリジナルは97年にイタリアでリリースされたスプリットのアナログ盤。A面がメルツバウでB面がHatersだった。470枚限定。
 メルツバウは自宅スタジオで97年の1月28日に録音。ミラノでの思い出がテーマ、とある。B面のHaters側は97年の録音とあるのみ。
 メルツバウ側は「Regel 7:29〜Anal Vatican 8:05〜Industrial Murder 1983 5:13」と3曲にトラック分けされていた。
 
 今回のCD再発は300枚限定で、それぞれ1曲づつボートラがあり。Merzbow側は(2)、Haters側は(4)が初出となる。

 このころのメルツバウはデジタルへ移行前。アナログ機材を使用し、生々しいノイズを盤ごとに志向してたころ。本盤ではムーグ・シンセを全面に投入した。ハーシュなざらつきを聴かせる場面もあるが、チープなリズム・ボックスも含め奇妙な聴きやすさがあり。
 むしろ未発表曲だった(2)のほうが、よりノイズっぽい。スカムな要素とスペイシーさを持ち合わせた、多様なメルツバウが味わえる。
 サウンド的にはあまり厚みはなく、チープな味わいだ。ボリュームをめちゃくちゃに上げたら、音圧が迫ってくるけれども。

 
<全曲感想> 

  Milanese Bestiality (20:53)
1.1 Regel
1.2 Anal Vatican
1.3 Industrial Murder

 組曲とは言えるが、ひとつながりの作品。場面転換があるだけ。冒頭は複数の電子音が揺らいで脈打つ。ダビングを重ね厚みと立体感を描いた。震える電子音たちが微妙なリズム感を産み、背後のじりじりいうドローンが隙間を埋める。
 ただし全体的にはすっきりした。ハーシュの轟音ではなく、シンセからのノイズのみでむしろスペイシーな要素が強い。

 轟音めいた響きはあるけれど、低音のウネリから高音の振動まで休むことなく音像が変わっていく。漆黒の闇で嵐に震える船の風景を連想した。大嵐に振り回されるほどではないが、休むことなく雨が降り注ぎ、波が船体を様々な方向と高低に揺らす。

 5分過ぎでは低音が明確な音程感を出す。上物でざらついた電子音が降るけれど、むしろ音像を埋め尽くさない。みっちりと隙間ないドラマ性を多用するメルツバウにしては、非常に簡素でわかりやすいノイズだ。不安定さをシンセの響きで空虚に描いた。

 ここまでが"Regal"。スパッと風景が変わり"Anal Vatican"に移る。明瞭な高い音が数音飛び交い、野太い響きが低く身をよじる。とてもくっきりと個々の音が響く電子音楽に変わった。このアプローチも珍しい。背後で細密な電子音は響くけれど、ハーシュな要素がかなり薄い。
 ポップ、とは言わない。けれども剛腕ノイズとは異なる。もっとゴムみたいな柔軟性あり。汚れたざらつきはあるが。
 終盤で畳みかけるドラムマシンの電子音は、シンバルの連打めいたチープな響きを出す。

 最後の"Industrial Murder 1983"は電子音の浮遊性が、ハーシュ寄りの蠢きで塗りつぶされた。一面の封鎖ではない。隙間を塗ってビートはしぶとく風景を貫く。前面に出る場面も。最後はあっけなく、音が消えて幕。 

2 Lysosome 5:11

 この曲のほうがノイズ寄り。フィルター・ノイズの脈動がポリリズミックに鳴った。リズムの乱打はハーシュで彩られ、テンポは一定さが無い。電気仕掛けの乱打が、頻繁に音色を変えながら噴出した。
 スピード、タイミング、音色、それぞれが微妙に異なるノイズが散乱して、すっきりした音。小刻みな変化が心地よい。やはりポップとは言わないけれど、同じ音が続かない、軋んだ万華鏡の面白さはあり。
 
 数分でビートが消え、もっと平べったい一面の響きに。ぐっと太さを増して震える。この辺のドラマティックさは、メルツバウっぽい。滑らかにハーシュに移る。
 しかしシンプルな構造は変わらず。DJ的なアプローチのカットアップが続く。
 だからこそ、そっけないとして当時はお蔵入りか。

3 Drunk On Decay (The "Toast To MB") 12:27
4 Drunk On Decay 1997 15:06

 3と4がHatersの音源で(4)が今回の初出。(3)はざらついたパワーノイズが泡立つ。音像はパワフルだが、ノイズそのものは今一つ地味な感じ。ときおりシンセめいた風切り音など、通り一片のハーシュではないけれど、今一つ盛り上がりに欠ける。単調だ。終盤でちょっと音色が変わるけど。

 (4)もきらめきが少し変わるが、基本はブヂブヂと滲みだす電気仕掛けのハーシュ。曇った風景と密度は良いが、メルツバウほどドラマティックなオーケストレーションの広がりがない。ただ、ノイズを浴びてる一元的な視野だ。

 インダストリアルなビートや無機質感よりも、もっとシンプルに金属質なノイズを志向した。ノイズの非日常や嫌な響きを提示するパンキッシュなアプローチで、楽器とは別次元の価値観で音色を楽しむ、という快楽性とは違う価値観のようだ。

 パフォーマンスとしてのノイズは、ぼくの好みではない。轟音の音圧、響き、奇妙な音色、なんでもいいがノイズそのものを楽しみたい。したがってHatersのアプローチは今一つ共感できない。アンチの破壊衝動や準拠枠解体ではなく、もっと素直にノイズそのものを楽しみたい。
               
(2017/1:記)

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