Merzbow Works

古舘徹夫"マクベス" (SSE:1993)

 古舘徹夫はノイジシャン・・・でいいのかな?
 元YBO2の北村昌士が主催するSSEレーベルからの2nd"マクベス"へ、メルツバウが参加している。

 これは多彩なゲストを招いた音響劇のようなアルバム。
 メルツバウゆかりのReiko・A、ほかにルインズの吉田達也、黒百合姉妹、クリストフ・シャルル、ベースの高橋ヨーカイ(高橋耀壊の名義)など。

 シェイクスピアの作品、マクベスを下敷きにした作品。
 ブックレットの冒頭に置かれた古舘の難解な小文を読むと、どうやら作品世界を植物になぞらえて構築したようだ。

 ジャケットは緑に統一。原生林を思わせるうっそうとした光景が映された。
 作品はテープコラージュとゲストのパフォーマンスを中心に組み立てた格好か。
 コラージュ部分はクラシカルだったり、抽象的だったり。
 
 サウンドスケープのように、淡々と音像が進む。
 奇妙な緊張感ある音だが、聴くほうも集中力が必要。

 しかし聴き所も多い。オーラスでのカッワーリー風独唱と古舘のギターノイズや、高橋ヨーカイとのベースの交錯はかなりスリリング。
 古舘のギターノイズも、寂しげな雰囲気が楽しめた。
 
 ぱっと聴いて印象に残るのは、吉田達也が参加した部分か。
 ローピッチのフロアタム(たぶん)かティンパニで、和太鼓っぽく猛烈なインダストリアル・ビートが鳴る。
 しかしこの部分は(1)が始まって15分位あと。トラック切られてないので、すっとキメ打ちで聴けないのが残念。

 CDを通して切られたトラックは3つ。それぞれを一幕に扱う。
 そしてトラックの中で二つ或いは六つへ、音世界が細分される。

 メルツバウの部分も、あくまで音世界のひとつとして聴くべきだろう。
 ノイズ好きにはかなり楽しめる作品。しかし二度三度聴き返すには、なんらかのテキストが欲しくなった。

 恥ずかしながらマクベスは未読であり、どう作品世界を料理したかはうまく書けない。
 いずれ読んだあと、もういちどじっくり聴き返してみよう。
 
 ここではメルツバウが参加したトラックのみを詳述する。

<作品紹介>

2.Scene 2.(5:18)

 参加した箇所はトラック2"Scene2"の冒頭部分。"Ross:Alas,poor country!Almost afraid to know itself!"と副題がついている。
 これ、たぶんせりふの抜書きだろうな。教養がないと、こういう時困る。

 録音は94年とあるのが謎。アルバム録音は"Recorded at "Studio Crane" and "After Beat" Tokyo in autumn of '93"とあるんだが。
 ぼくはこれ、リアルタイムで買ってないため、当時の時間軸は不明です。詳細ご存知の方、ご教示くださると嬉しいです。

 ともあれ本部分の録音は"This documental sound is recorded in Moskva on 4. Oct 1994"とある。
 モスクワでのライブ録音がベースということか。

 メルツバウは"tape work"とクレジットされ、古館のために作ったテープ素材の提供にとどまる。
 そのマルチ・トラック(?)を古舘がコラージュしたんだろう。

 スペイン語っぽい(これがロシア語?)演説と歓声のコラージュ。銃撃音と蠢く人の声。このとき、ロシアで何があったっけ?
 そこへ唐突に右チャンネルから、重苦しいハーシュがのしかかった。
 
 左チャンネルからも金属質のノイズ。かざりっけ皆無。
 濃雲の漆黒が両スピーカーから迫りくる。

 じわりと表情を変え、パルスの連打に。
 感情を全て消し、轟音ハーシュと電子パルスが交錯する。
 ここに古舘の意思はどのくらい加えられてるのか。全てメルツバウ製でもおかしくない。

 寸断。ハーシュ。寸断。

 一呼吸置いて、ざらりと表面を強調した凶悪な肌触りが、のた打ち回る。
 触れたとたんに血まみれになりそう。

 ハーシュはメルツバウにとって珍しい表現じゃない。が、"マクベス"の一環として聴くと、ひときわ無表情さに圧倒される。
 Reiko・Aの歌声を消し去り、ただただストイックにノイズを提示した。
 
 冷静に聴くとメルツバウの作品として物足りない。
 あくまでゲスト参加とすべきか。このブロック、丸ごとメルツバウが演奏してるようだけど。
 
 エンディングも未練なし。唐突にノイズは姿を消し、次のブロックへ移る。
 古館のひしゃげたギターのインプロへ。

  (2004.8記)

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