Merzbow Works

(no title)  <tigerbeat6 USA> (コウヘイ・マツナガとのスプリットCD)

all composed by masami akita
track based on mode de valeurs et d`intensite pour piano by Oliver Messiaen

recorded & mixed at the bedroom.Takinogawa 12 feb 2001
/ final mix on 13 feb 2001
track 2 & 3 recorded & mixed on 8 Aug 2001
 
 コウヘイ・マツナガとのスプリットCDは、3曲づつ分け合った。ジャケットの両面、それぞれを各自のクレジットに使う。喧しい前半3曲をメルツバウが担当。
 レーベルのページによると、コウヘイ・マツナガとメルツバウの付き合いは90年代後半へ遡るらしい。ミル・プラトーからリリースしたコウヘイのプロジェクトへゲストとして参加したもよう。

 コウヘイ・マツナガは大阪のノイジシャンらしいが、詳細不明。詳しい方、ご教示いただけると幸いです。
 本盤では静かなインダストリアル・ノイズを演奏してる。音響系に軸足置いたノイズだ。
 ノービートで漂う中、唐突にでかい音が突き刺さる。テープ・コラージュだろうか。ハーシュ一辺倒ではなく、リズムが現れても、どこかおとなしい。
 
 本盤では"the garden of the earthly delight"と銘打った3部作を提供した。それぞれ"左"、"中央"、"右"と題し、各10〜15分のノイズが続く。録音は2001年の7〜8月に自宅で行われた。

 一方のメルツバウはどの曲も自宅でさくっと仕上げたもの。一日でミックスまで終わらせた。(1曲目のみ、翌日にミックス完了)
 ある日の心象風景を切り取ったかのような、素朴な風景に仕上げた。習作のイメージすらも。

 動のメルツバウと静のコウヘイ・マツナガを基本イメージに、互いにひねったノイズを提供した。
 一曲くらい、完全な共演が合ってもよかった。短くてもいいから。
 小品のイメージあるが、エレクトロ・ノイズが好きな人なら買って損は無い。
 
 ここではメルツバウの作品のみ、感想を記します。

<各曲紹介>

1.nakasendow (12:36)

 断続的なハーシュと、空虚に響くピアノの対比に重たい低音がのしかかる。ループを前提に上物ノイズで広がりを出した。
 このピアノはメシアンのサンプリングらしい。 
 規則正しいビートが根底にあるが、ハーシュの炸裂が印象を混沌へ力づくでもっていく。

 この時期はループによるコンピュータ操作を推し進めた頃で、場面展開を織り込みながら、よりコントロールされたノイズになった。
 音色そのものへの思い入れも感じる。エッジをきゅっと立て、ざくざくと空気を刻んだ。
 冒頭のループは断片のみ残し、音色を変えて別要素としてもぐりこむ。
 
 数箇所ですぱっと切り替わる爽快さが肝心。もしかしたら複数音源を編集して繋いだのかもしれない。
 物語性はあまり感じず、むしろ音と戯れる優雅さが漂った。

 一つの音素材をねっちりいじらず、複数場面にまたがった作品のため、どこかあっけなさも覚えた。
 最後は静けさへ戻って空虚に風景を広げ、ハーシュの風が吹きぬけた。不穏に低音をまとって地を揺らす。

2.earth nazareth(11:46)

 ループを低音で存在させ、混沌に走るかと思わせて。いきなりリズミカルなドラム・ビートが現れる。"Merzbeat"の発表も同年。すでにメルツバウはコンピュータが最も得意とする、反復の妙味にはまっていたのかもしれない。

 6拍子かな?どこか割り切れない引っかかりあり。合間にハーシュのカットアップが挿入される演出。
 轟音部分ではループも使いながら、賑やかな炸裂を披露した。どこか突き抜けず内にこもった印象あるのは、部屋にてそこそこのボリュームで聴いてるためか。

 ループはポリリズミックに乱立するため、ダンサブルとは無縁。しかし混沌とも違う。多層インダストリアルながら、人工的な作為は常に残った。
 6分くらいで唐突に登場する、バイオリンのようなフレーズのサンプリングが綺麗だった。
 あくまでフレーズ・サンプリングだが、これこそ即興でうねうねと動かして欲しかった。
 波形編集で音色は微妙にいじられる。きゅうっと高音にピッチが上がる瞬間は快感だ。

 あらためてハーシュが爽快に空間を埋め尽くす。しかしリズムは常に何らかの形で存在する。影に日向にビートへこだわった作品。

3.sadow barbalian (10:07)

 鈍いうねりの低音がまわされる。スクラッチ・ノイズまであるが、なんらかのレコードからサンプリングしたんだろうか?
 アフリカン・ビートが蠢き、音色を変えて高音へ走る。シンプルなアレンジでリズムにこだわった作品。
 じわじわと音の表情が変貌する。スリリングまでは行かない。むしろもどかしさすらも。

 ハーシュが出ても、あくまで色づけ程度。中盤で金属の軋み音などが断片で現れる。すかすかな音作りがメルツバウにしては珍しい。

 ポップな色合いすらある小品。リズムはミドル・テンポ。どんつく。どんつく。
 最後の最後で強烈なノイズをばら撒き、残響を残して消える。
   (2005.6記)

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