Merzbow Works

Live at Molde International Jazz Festival(2001/Smalltown Supersound)

Recorded live in Molde Norway 2001.07.19
Mastered by Audum Strype at Strype Audio

 タイトルどおりノルウエーのジャズ・フェスティバルで行われた、ライブ録音を完全収録した一枚。
 本録音の二日前、7/17にもこの顔ぶれでライブをやったという。そちらは未リリース。音源残ってないかな。
 ライブを体験したM.I.Z.さんのレビューによれば、当日は観客へ耳栓を配ったとか。日本とはノイズに対する考え方が違うんだ。

 JazzkammerはJohn Hegre、Lasse Marhaugによるユニット。
 二人とメルツバウとの関連は、ぼくが知る限り1998年まで遡る。
 オスロで9/10にMerzbowはOrigami Replika(詳細は不明)とジョイントで、ライブを行った。
 前座を努めたのがJazzkammer。面子はJazzkammerの二人に、Helge Stenが加わった。
 当時のライブ写真が三人名義のCD、"The comfort of objects"のインナーに残されている。
 
 メルツバウがこのフェスに登場した切っ掛けはよくわからない。
 まさかメルツバウをジャズと捉えられてるわけじゃあるまい。

 録音は相当良好で、細かい部分まで聞き分けられて嬉しい。
 約40分に渡って行われたライブだが、トラックは3つに切られている。
 構成が一区切りついたところで切られ、上手い選択だ。
 頭から通して聴くことを強制しない選択は、高く評価する。誰のセンスだろう。

 ただし曲タイトルはなし。せっかくだからアレックス・エンパイアとの共演盤みたいに、タイトルつければいいのに。
 大まかに分けて内容は(1)がJazzkammer主体。(2)からメルツバウが登場する。 

 もっとも音の主導権はJazzkammerがかなり握っていそう。
 本盤の製作に当たっても、特にメルツバウのクレジットはない。
 イメージは大人しめのメルツバウだ。

<全曲紹介>

1.  (13:19)

 リズムボックスによる、テンポの速い鼓動が立ち上がった。一瞬の静寂から、すっと。
 わずかに電子音の呟きが、飾る。
 鼓動が延々と続く。ベース音も低く重なった。
 
 つっと一息。やがてさらに。電子ノイズが加わる。
 次第に賑やかになった。どこかコミカルな音。ここまではほとんどメルツバウの感触はなし。
 積極的なドラム・ビートが打ち込みで提示され、さまざまなビートがポリリズミックに跳ねた。

 7分を経過して、わずかに歪んだノイズが登場。これはメルツバウ?そのわりにえらくポップな音だ。
 音像は性急さを増し、ボリュームが上がる。切迫感を与えるが、低音部分が少ないため圧迫されない。

 電子のうねりがかなり面白い。不思議なグルーヴだ。

 10分50秒。ついにメルツバウが立ち上がった。
 エンジン音っぽいハーシュを提示する。
 他のノイズは整理され、マシン・ビートのみが響き渡った。

 きめ細かな電子音がぱあっと撒かれた。前のめりのリズムとあいまって、期待が高まる。
 いったん全てのノイズを収斂。ランダムなパルスが混沌を作った。

2.  (11:43)

 ノー・ビートの上で低音が泡立つ。低いハーシュはメルツバウだろう。
 ぱっと跳ね立つ、ジリジリしたノイズ。勢い良く膨らむ。
 当日は蛍光灯が多く飾られ、音楽に同期してちらついたらしい。
 この場面でもそうだったのかな。さぞかしきれいだったろう。

 メルツバウは低音をさりげなく配置し、音が甘くなるのを防いだ。
 軽やかなハーシュ。Jazzkammerの作るノイズと重なり、きれいなテクノイズ像を組み立てる。

 きらめくノイズはループで固定された。
 若干うねる箇所もあり。ミキサーでJazzkammerが、全体をいじっているのかも。
 構成要素にメルツバウの比重が若干高まった。
 ホワイトノイズや高音をメインで、ふんだんに爽快なノイズを散らす。
 
 7分前後でいったんブレイクし、メルツバウのソロっぽい瞬間が数十秒。まるで楽器のセッションみたい。
 メルツバウはかなり耳ざわり良いポップなノイズを選択してる。
 当時、日本で聴いた単独ライブとはだいぶ違うや。

 全体が一丸となって音を変調させ、大きく揺らいだ。
 
 おそらくメルツバウの出す極低音、Jazzkammerによる電子のうねり。
 その二つが空気を震わせ、緊迫させた。

 次第に、主導権がメルツバウへ移る。

 ノイズのエッジが鋭くなり、ストイックさを増した。

3.  (14:56)

 ざらつく表面を、力任せに破り捨てるかのごとく、メルツバウはハーシュを置いた。
 音数は少ない。テンポも穏やか。そうとう慎重に音を操ってるようだ。
 右チャンネルの風のようなノイズがJazzkammerかな。

 ビートはなにもない。粒立つ電子音をリズムの足がかりにしがみつきたくなった。
 メルツバウが徐々にベールを脱いだ。ハーシュが盛大に存在を主張し、空気を震わせる。
 複数のノイズを同時並行で出し、ミックスでバランスを取る。
 
 びいんと唸る太い音。後ろで鳴るループが補完する。
 ハーシュが吼え、Jazzkammerのノイズは寸断した。
 力強く変調して鳴く音色が、非常に面白い。

 Jazzkammerの趣味なのか、本ライブでは継続したノイズの変化を待たない。ばしばし寸断、切り刻まれた。
 初期メルツバウのテープ・ノイズを連想させる音だ。
 一貫したストーリー性は特にないので、すべて即興だと思うが・・・。

 7分辺りではノイズが一気に整理される。
 カタカタせわしないパルスの上で、低音があたりを睥睨した。
 
 音数は多くなったり少なくなったり。全体像が変わる。共演者にかまわずノイズを出すメルツバウらしくないな。
 ミキサー全部を、誰か一人が操っていたのかも。

 唐突に音は遮断され、アナログ盤の針音みたいな音が連続する。
 かすかに残る、ハーシュの残骸。左チャンネル奥で、緩やかにループする。

 ぶおっと一息、低音が浮かんだ。断続し、じわりとフェイドアウトする。エコーを引き連れて。

 ライブは終わった。数秒の空白。
 残念ながらこのCDへ、オーディエンス・ノイズは残されていない。したがって拍手も聴けない。
 当日は一呼吸置いて、拍手が沸き起こったという。

  (2005.1記)

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