Merzbow Works
Higanbana
(2007:Higanbana)
Masami Akita - noise electronics, computer, EMS Synthi A
Recorded and Mixed at Bedroom in Tokyo, October 2007.
音像はPCによる波形操作に加え、アナログ・シンセの躍動感が溢れた。
ポーランドのレーベル、Vivoから"Bloody
Sea"(2006),"Coma Berenices"(2007)に続くアルバム。PCだけでなくアナログ・シンセを多用して肉感性を模索している。
表題が「彼岸花」。各曲も「アマリリス(ヒガンバナ科)の群生」「黒光りする羽」(鴉をイメージ?)「終わりのない道」と並び、死もしくは天上界をイメージした。
しかしネガティブもしくは破滅的な意味合いではなかろう。
ノイズまみれながらメルツバウ流のアニマル・ライツを意識したパワフルさが内包されていると推測する。
金属質なノイズは、時に滑らかな残響をまとう。細かく緻密に音作りがなされた。
このアルバムは冒頭で長尺をガツンと聴かせ、二曲目以降はだんだんに分数が減っていく。
まるで物足りなさを感じさせ、不安を誘発するかのように。
<全曲感想>
1 Cluster Amaryllis 29:44
ビートが4つ打ちを明確に決めるうえで、ハーシュの奔流が溢れた。シンセの発振音とうねり、金属ノイズも加わって分厚くも複雑な音の壁が一瞬で立ち上る。それでも混沌に雪崩れず、個々の音は分離良い構造なのがこの時代のメルツバウの特徴だ。
アナログのにじみとは真逆、デジタルの冷徹な音作りを最大限利用した。
轟音かつノイズでありながら、オーケストレーションともいえる明瞭な組み立てが瞬発かつ即興的に表現する。
鋭い突出と鈍くうねる電子音が併存し、互いに絡み合う。どちらが主役と立ち位置を明確にしない。時に一方が弾け、他方がかぶさり、と次々に主役が変化した。
音数やバランスもパワー・ノイズ一辺倒ではない。ときに音数が減りメリハリをつける、ストーリー性を持たせた。
17分過ぎにすうっと透き通るようなエコーをかぶせた。このあとはしばらく、夢見心地な浮遊感たっぷりのノイズが広がる。この瞬間が特に聴きもの。
冒頭の濃密な世界観から、滑らかに幻想的な風景へ向かうあたりに「彼岸」のイメージがかさなった。
一気に音が引き、鉄砂な海岸の広がりへ。やがて鋭く薄板の波がせわしなく押し寄せ、ザクザクと軽快にあたりは踏みしめられる。
しかし風景はそれらを俯瞰して、中心から次第に遠ざかるかのようにスケール感を増した。
終盤はアナログ・シンセの脈動が前面に出て、生々しくもパワフルなイメージを強調。そして埋め尽くす細かな響きへ音像を変化させた。三々七拍子に通じるメタル・パーカッションが鳴り、一気に崩れてハーシュの壺でかき混ぜられる。
約30分と長尺ながら、目まぐるしく世界が変わって緊張感が途切れない。ミニマルと真逆、常に変化をし続けた。
2 Black Shiny
Feather 18:14
裏拍を意識させる静かな波形。けたたましく弾けるノービートなメタル・パーカッションの轟き。隙間を縫って細いノイズが現れ、たちまち太く膨らんだ。
波形は裏に隠れビート性は希薄になるが、スリリングなベクトル感は維持された。
音程や太さの違う電子音が威勢よく流れていく。音数のバランスだけでなく、ミックスで音像全体をグッと下げて、新たなきめ細かい炸裂にクロスフェイドした。
せせらぎにも似た清涼感を、メカニカルだがとても細かな表面に加工した金属音で表現する。頻繁に混ぜる尖った音色すらも、画一的にならない自然音を模しているかのよう。
風も吹く。水と、風。ノイズ世界は変化し続けた。飛翔する自発性よりも、流れ続ける世の理を連想する。
表層が崩れ、それぞれが混ざり合って力強いうねりを作り出した。新たな太い縄が埋め尽くされた網に絡み、空気を震わせる。その揺れすらも電子音をまとった。
それぞれのノイズが音程感を持ち、吹き荒ぶホワイト・ノイズめいた風景で各々の立ち位置やバランスを探っている。
美しく複雑で猛烈に回転して変化し続けるノイズ。
3 Path With No End 10:56
パルスとノイズのうねりが冒頭から現れ、絡み合った。(1)と(2)を足したような方向性だ。最初は画面を埋め尽くさず、比較的隙間の多いかっこう。
2分過ぎから尖った平べったくも細かなハーシュが加わり、音像を複雑にしていった。
野太いうねりも現れ、幾度も身をひるがえしては潜っていく。意外と密室感の高いサウンドだ。遮蔽物の無い屋外ではなく、民家の一室でそこら中にノイズが立ち上り混ざっていく。
ざらついた音の数々は、単一素材の連立ではない。それぞれが変貌をしていく。うねる低音が基本的に変わらず土台を支え、上物は奔放に揺れ崩れた。
次々に登場してはひとしきり喚き、消えていく。力強くも儚い物々たち。(2019/2:記)