Merzbow Works
Folio And Four Systems (2006:TZADIK)
アール・ブラウンは02年に70代で没したアメリカの現代作曲家。Wikiによれば"Open Form"と題した図形楽譜などで名を馳せ、アメリカ現代音楽界を活気づけた一人とある。本盤は生誕80歳記念に、さまざまなミュージシャンが彼の代表作の一つ、"Folio And Four Systems"を取り上げたトリビュート盤。
取り上げた本作はアール・ブラウンの公式Webに細かな解説あり。抽象的な図形楽譜集だ。実際の楽譜が、ライナーに掲載されたものか。コンセプトは図形楽譜の自由解釈。よってどれもが同じ演奏たりえない。とはいえアルバムを通じて、すこしコンセプト先行ゆえの堅苦しさはある。
ブラウンの解題がここに載っている。http://www.earle-brown.org/images/file/media/Folio%20and%20Four%20Systems%20Prefatory%20Note.pdf
作曲は54年、初演は電子音楽家のデヴィッド・チュードアが同年4月28人に、NYのCarl Fischer Concert Hallで行った。
さらに2年後、前衛舞踏家マース・カニンガムの公演"Galaxy"でも本曲が使われた。演奏はジョン・ケージとデヴィッド・チュードアのピアノ演奏とある。
収録は13曲で演奏者は以下の通り。冒頭はアール・ブラウンの自演だ。録音時期が記載無いが、いつの作品だろう。パーカッションで音程感を出し、トランペットが断続的に鳴る抽象作品。
他の楽曲もクラシックを意識したか、静謐でアンビエントなアプローチが多く、アルバム全体は比較的おとなしい。もっと極端なロックやジャズ的な解釈は、敢えて避けた。ビート感が希薄なため、よけいそう感じるのかも。
<楽曲紹介>
3.November 1952 (8:15)
Merzbow: Prepared Acoustic Guitar, Ring
Modulator, Computer, Synth 'A'
ここではメルツバウについてのみ、触れてみる。
アルバムの中で8分と長い時間をゆだねられた秋田昌美は、プリペアード・アコギ、リング・モジュレータ、コンピュータとSynth
'A'と、アナログ/デジタル双方の楽器を並べた。
この録音時期な06年はまだ、デジタル主体のメルツバウ。さぞかし派手なノイズを・・・と期待したが。むしろコラージュ風の構成だ。全体の音数やムードも静かなもの。
冒頭でぎりぎり軋み、雑音をはらんだ弦の響きが"プリペアード・アコギ"か。
きれいに場面転換し、奥深い闇の蠢きが電子楽器で表現され、ランダムなプリペアード・アコギが音を足す。厳かで密やかな風景だ。
終盤でシンセが唸り、ハーシュの断片やざらついた電子音が暴れるけれど。何とも大人しさが漂う。
しかし聴いてるうちに思ったが、これはミックスなりマスタリングの加工だろう。終盤はきっちりとハーシュの音も存在する。バランスを変えてピークを上げたら、ガツンと激しいノイズに仕上がったはず。
秋田昌美自身か、TZADIK側の判断かはわからない。とはいえ、せっかくメルツバウを起用ならばアルバム全体のバランスが崩れようとも、徹頭徹尾なノイズを聴きたかった。
異物かもしれない。だがその異形感含めてノイズであり、メルツバウだ。さらに、アルバム全体のトーンを敢えて合わせることが、自由なはずの図形楽譜のコンセプトに合致しとも言い難いのではないか。
(2016/4:記)