Merzbow Works

Electric Salad (Etherworld :1996)

All Composed & Realized by Masami Akita
All Compositions Published by ZSF Produkt

Masami Akita - Raw electronic and noise creation music
Masami Akita used EMS Synthesizer
Chant by Bara on track 2
Recorded & Mixed at ZSF Produkt studio,14&15 October 1995

Live noise concrete mix,
Completely no overdub,no editing

 個人的な思い入れから、書き始めたい。
 記憶に間違いなければ、本作が初めて聴いたメルツバウのアルバム。
 「ノイズってジャンルのなかで、日本ではメルツバウってミュージシャンがいるんだ」ってなにかで読み、早速買いに行ったはず。
 わくわくしながらCDのスイッチを入れる。たぶん97年頃のはず。
 で。あまりのわけわからず、打ちのめされたのを覚えてる。怯えすら覚えて、棚の奥へCDを仕舞いこんでいた。

 再びメルツバウに興味を持つのは1998年。ムック「NU」を読んでからのこと。TZADIK盤"1930"を聴き、あまりのかっこよさにぶっ飛んだ。
 そして当たるを幸い買いまくり・・・今に至る。思えば遠くへきたもんだ。

 ジャケの写真は鳥羽の国際秘宝館。秋田昌美が撮影した。キッチュな風景をロゴの中に挿入し、ポップなデザインに仕上げた。
 編集なし、ダビングなしってクレジットがザッパを連想する。

 ストーリー性を持たせ、バラエティに富んだ世界を見せた。メルツバウの作品では良く聴ける方法論だが、集中力を切らさぬアイディアの奔流が素晴らしい。
 この時期はメルツバウのリリースがひときわ活発になった頃。本人の中で創作衝動が溢れていたんだろうか。
 
 轟音と捻った静か目のノイズ世界が交互に現れる。それはカットアップのように唐突ではない。あくまでも表面が崩れ、次の世界へ踏み出すように。
 幾層にも折りたたまれた世界を突き進むかのように。
 編集無しでこういう世界をリアルタイムに作れるのか。

 70分みっちり詰め込まれた大作。あえて曲を分けず、60分一本勝負で責める緊張感を味わおう。集中力を切らさずに。
 
<全曲紹介>

1.Prologue(1:36)

 吹き荒ぶハーシュ。ごとごとと金属のうねりがうごめいた。真っ黒に塗りつぶされた濃霧を、かきわけ、かきわけ、進む。

2.Electric Salad(60:20)

 くるっと回転して抽象的な世界へ。右チャンネルではカタカタとスイッチが唸っては沈んでく。
 左からはべっとりと低音が染み出し、轟音ががんじがらめに縛られて暴れた。

 拘束を振り千切り、中央で轟然と背を伸ばす。悲鳴が融けてそそり立った。
 いつしか重心が軽くなり、ころころと転がる。メカニカルな規則性を意識させつつ、スピーディなノイズだ。弾力もって動きながら、収斂して中央で肌をぬめらせた。
 シンセの粒がキュートに踊った。高音ノイズが真上から突き刺すように見下ろす。幾本も。

 轟音一辺倒ではなく、対比させるように静かなノイズも織り込む。
 ゴムの表面をこするような捻り音が、さまざまな表情で現れた。大きさやサイズ、表面材質が違うような・・・そんな肌合い。
 
 決して立ち止まらないメルツバウの面目躍如。とにかくくるくると世界が変わる。
 ハーシュを基調ながら、腹にたまる低音は控えめ。むしろ高音を強調した。
 極端に音を左右へパンさせる以外は中央に音を集め、みっちりと集中させる。開放せず内へ内へ掘り進めた。
 ノービートだけでなく、パルス上のグルーヴも存在する。17分近辺では次第に加速して、シンセの音がぎゅりぎゅりとねじられた。
 迸るノイズは機関車の鼓動。単一音がふらり音程を変える一方で、周辺は霞んでく。

 様々な形の揺らぎが現れた。
 唐突に断ち切られ、メロドラマなサンプリングがテープ・コラージュされて歪んで震えた。
 秋田昌美の奔放な発想を音に変えて、ノイズの沼は沈んでいった。

 やがてキーボードらしき音とメタリック・パーカッションのセッションがフィルター・ノイズに埋められ、混沌と均された。
 シンセはメロディを意識せず、ただ音程の上下をめまぐるしく震わせて、音を紡ぐ。複数の音がてんでに存在を主張し、ポリリズミカルな音像となった。
 バンドのような統一性は無いのに、不思議と一体感はある。

 ハーシュのうねりが再び現れ、うねった。一定の速度で螺旋のように。
 スッと音像が整理され、シンプルなパルスに。だがそれも長くは続かない。すぐに轟音が滝となって濡れそぼつ。

 「XXX放送」と呟く女性の声が、めちゃめちゃに加工されて漂った。
 録音は90年代半ば。しかし受ける時代感はもっと古い。60〜70年代くらいか。ジャケットのイメージから受ける幻惑とは思うが。
 風船の表面をこするような音が、執拗に震えた。

 スペイシーな足の運びがランダムに鳴り、40分経過した。ここまで幾度場面が変わってきたろうか。アイディアの奔流に圧倒される。
 
 ぬっそりとテープ・コラージュが顔を出す。このメロディはクラシックだろう。複数の音源をノイズで汚し、テレビ・ドラマ(?)の言葉とミックスさせた。
 2ビートで呼吸する世界を素材にジャズへ向かい、ハーシュが乱暴に引っ掻き回す。
 
 静寂へ。シンセの林立が明確に提示された。
 隙間多い音使いで、ためらいがちに幾本かが噴出した。
 周辺がほこりにまみれ、鈍く響いてリズムへ進む。やがて思い切りスペイシーな世界へワープした。

 長かったノイズの旅も終わりに近づく。次第に静かに。シンセが幾つかとげとげしく鳴っても、根本はゆったりとノービートで漂った。
 インダストリアル・ビートが後ろから現れる。じわじわ近づいた。
 ぐうっと盛り上がり、リバーブをたんまり効かせて飛翔、去ってゆく。
 最後は唐突に音が切れた。
 
3.Metallic Fever Echo(10:03)

 這いずり回る金属の縄まみれな球体。泥をはね散らかし、高速回転する。
 散乱する周辺はシンセの布に包まれ、ふっくらこじんまりと収斂した。
 破裂へ向かわずに、あくまでも足元でどれだけ展開できるかにこだわった。
 表面がみるみるささくれ立ち、シンセを貫いて破片を散らばす。
 一方では先鋭化した破片がドリルのようにはじけ、足元ではノイズの泥濘がシンセの泡をまとって広がった。

 いつのまにか唸る低音が足元を漂っていた。
 ひとときも休まず変貌するが、展開よりも足掻きを表現しているかのよう。
 最後の力で鋼鉄の筋肉が振動し・・・唐突に切れた。 
  (2005.6記)

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