Merzbow Works

"Dust of dreams"(Thisco:2005)

All music by Masami Akita
Recorded and Mixed at bedroom Tokyo November 2004

 ポルトガルのレーベルからリリースされた一枚。この国からリリースされるのは珍しい。その後、何枚か発表されるが。
 明治あたりのさまざまな日本文化(?)関係をコラージュにあしらった。機械や狛犬などをそれぞれ薄い一色で塗り、不安定に重ねる。
 中ジャケは鳥居と神社を移した写真のネガを使用。

 めっきり動物愛護を作品テーマへ押し出していた当時のメルツバウだが、本作では抽象的なイメージを設定した。初期の暴力や性的なムードは希薄だ。

 ループを多用するトランス系の作品が多い。ハーシュさはじわじわと滲みでる。
 あらかじめ準備した、幾つかのループで一曲を構成。それらの音色とバランスを変えて一曲を成り立たせた。
 すなわちミキシングの妙味を追求したかのようなアレンジだ。

 新奇性や変貌のスリルには欠けても、全体像をデザインするセンスの妙味はたっぷり味わえる。より内省化したメルツバウを堪能する一枚。ハーシュ一辺倒ではなく、さらなる純化な地平を目指すかのよう。
 あっけらかんとリリースされたが、メルツバウの立ち位置確認に最適な一枚。
  
<全曲紹介>

1. 1339 (13:41)

 戦いを終え、そこかしこで小さな火が瞬く。荒涼とした大地を、視線が概観した。
 ふっと音が切り替わり、わずかなハーシュが埋め尽くした。砂煙を上げて上下に揺れながら疾走する何かか。多少、針音っぽいサンプリングも。

 吹き上げ、沈む。大きな紅蓮の炎が伸びたつ。あくまでも穏やかに。
 左右に、上下に揺れる。

 二つの音を繰り返す低音と、上で瞬く高音。透き通るフィルター・ノイズ。じわじわと空気を震わす中音域。アンサンブルが同一化し、ひとつの音隗として、ゆっくり回転した。ふと、比重が変わる。おもむろな膨張。回転数を落とし、鈍くきらめいた。 
 ときおり貫く轟音あっても、根本は変わらない。一つの彫像を嘗めまわすかのごとく、じっくり向かい合った。

 甲高く空気を絞る高音。妙に薄く広がった当初の音像が、最後のきらめきを残して漂った。
 激しさを漂わせて炸裂を計るが、根本的なパワー欠落を伺わせる。
 メルツバウにしては強烈さが物足りない。最後も力なくうなだれた。

2. Dust of dreams (37:15)

 パーカッションのサンプリングが穏やかに漂う。チベタンの香りをほんのり感じた。根拠は無い。
 しずしずノイズのカーテンが歩を進める。低音の各種飾りがみりみり震えた。
 サンプリングの音が、わずか力こもる。

 漂いと酩酊。表面の瞬きが前へ出て、パーカッションを薄める。しかし根本の響きは変わらない。
 パーカッションは波形をがらり変えて、乾いた音で確かに存在する。広がる甲高い響き。淡々と刻む電子音。

 ここは水中だろうか。圧力が鼓膜を押す。不安をあおり、足元の確かさが不安定になる。
 リズム・リフはキープされ続ける。空気の回転。 
 ふわりと着地。荒野へ戻った。軋む金属音が歪んだ。リズムは残響を取り去り、背後からかぶる。沈みながら前進。
 全てを押しのけたリズムは、いつのまにか残響をまとった。漂って表面をあいまいにする。ビートそのものはきっちり同一にして。

 みふぁそ、ふぁーみー。
 ひとつのメロディが、左右を漂う。ざらついた表面は水中のリズムを引きずり出した。だんだん活気が出てくる。
 空気が沸き水泡がたくさん飛んだ。透き通って奥へと流れ込む。

 メロディはまだ残っている。水流は一方向を明確に定めた。
 リズムは復活する。トタン屋根を賑やかに叩く雨音として。
 中央へ、内へ、奥へ、ノイズは身を丸細くして滑って行った。

 すぱっとカット・アウト。静寂。
 しかし曲は終らない。

 リバーブどっぷりな場所で、幾つかの打音。やがてモーターが回転し、存在は力をつける。いくつものビートが応援でしがみついた。
 羽は回転し、唸りを増す。
 リズムはリバーブ控えめ。線を細くして、表面をきつく磨いた。
 
 唐突にリズムが遮断され、よりタイトなテクノ・ビートがふってきた。
 すぐさまオリジナル・ビートの残骸がかぶさるも、この瞬間の空虚なスリルはかっこよかった。

 うなりは復活。装飾を剥ぎ取られ、すっかりみすぼらしくなって身体を震わせる。
 その代わり、いつのまにか耳との距離感は縮まった。にじり寄る。
 羽の回転も虚飾を除いて登場。フルメンバーが顔をそろえた。しかしノイジーな加工を取ってしまい、こじんまりとハーシュを震わせる。

 メルツバウの舞台裏を見るかのよう。これはこれで、刺激的だ。
 きらめきが鈍い響きを従え、舞う。後には閑散とした砂塵。
 おぼつかなげに中央で立ち位置を探す。スポットライトが当たった。 
 背後からアフリカンなビートがダンスを促す。ハーシュのスモークがステージを溶かした。
 じわじわとテンションが上がってきた。さあ、ステージの始まりだ。
 
 しょぼんと頭を垂れて、おずおずした風景に戻ってしまう。受けなかったのか。
 どんどんと拡散する各種ノイズ。中央は甲高く回転するエネルギー体。
 うつろな響きでパーカッションだけが、せわしなく響いた。
 各種ノイズが、周辺で花を添える。そして、ホワイト・ノイズの幕が下りる。

3. 0716 (7:18)

 いきなり吹き出るハーシュ。本作で唯一、力強さを感じる曲。
 のっぺりと平面を突き上げ、力押しで前進する。軋轢と火花が飛び散り、金属製の咆哮も。しかし前進は止まらない。
 
 いったん足を止め、力を溜める。ドリルのように強引に貫いた。空気が切り裂かれ、風が強く舞う。奥では鈍いインダストリアル・ノイズがじわじわと。
 空虚な中間点を挟み、振動が猛烈に提示された。全体をわしづかみにシェイクする。全てが収斂し、わずかな軋みを内包して飛翔した。

 いきなり音がまとまって消える。もう少し長尺で聴いてみたかった。 (2006.10記)

一覧へ

表紙へ