Merzbow Works
Duo CD 8
Recorded at Studio Penta, Otsuka, Tokyo
本盤収録の多くの音源が収録された大塚の貸しスタジオ、ペンタでの録音。本盤は収録時間の都合か、録音順には並んでいない。CD
6の(1)と同じ日の録音で、こちらのほうが先に演奏された。本ボックスの録音クレジットから見ると、この年は月1〜2回程度スタジオに入り音源を録音のようだ。マメに実験を重ねている。
全体的にこの日は、妙にテンションが低い。試行錯誤をそのまま音盤化な感じだ。
<全曲感想>
1."1 May 1988 A" (46:16)
鋭角で金属質なエレキギターのデュオ。主軸は、ブライトながら痩せ細った音色。アルペジオ風とランダムな単音かきむしりが交錯する。若干は音楽的だが、注意深く構造を外すかのよう。
脇が右チャンネルで細く鋭く歪んだギターが暴れる。根拠は無いが、こちらが秋田昌美ではないか。ノーリズム、ノーフレーズなところから。
やがて主軸のギターもかきむしりに変化。たっぷりとリバーブをかぶせた。依然として右チャンネルのギターと音量バランスが変わらぬところが面白い。役割分担は固定し、サイドの無秩序さも変わらず、主と鳴る音像だけが変化した。
次第に加速してシンプルな音に。一瞬、アンプの唸りが鳴ったけれどすぐに消えた。主軸ギターはフィルター処理した残響強調の音に。
音楽的には馴染まないが、弾きっぱなしでなく間をときおり持つ展開へ。再び金属質な音色の単音かきむしりに戻った。
このあたり、ノイズの音色が主眼でなく即興パフォーマンスに軸足置いてるように聴こえてならない。音色を連続的にコントロールへはさほど拘らず、即興的に音楽からどこまで乖離できるか、を狙ってるかのよう。
右ギターの音量も上がった。かろうじて小指の爪先一本で音楽文脈を残す主軸ギターと、ノイズ主体の右ギターの無秩序なバトルが始まる。
11分過ぎ、フレーズをループさせて両方から相互に猛然と襲い掛かる2本のエレキギターがスリリングだ。持続と混沌が並列した。
すっとループを消して、そのまま混沌ギターが2本暴れ続ける。聴いてる感じ、編集を施してる感じは無い。ここまでの展開はおそらくリアルタイムの一発録りだ。アイディアは持続させず、次々に試す様子が伺える。
じわりと二人のタイム感がずれて行き、対話形式風に。ビートや小節感は右ギターに無いが、主ギターは若干のフレーズ性あるため、こういう乖離が生じる。
埋め尽くさぬノイズの連続は、簡素な印象。さらに本音源は生々しさがそのまま残った。17分半過ぎ。右ギターが音を止め、主ギターも消える。カチカチとエフェクターをいじるような音。
フレーズの断片、フィードバック・ノイズ。迷うように音が揺れ、消える。一瞬、エフェクターなのか鋭いノイズが立ち上った。それも消え、静寂とノイズの断片へ。アンプのハム音が盛大に響いた。
迷い、もしくは余韻。聴き手のテンションによりどうともとれる。実際は迷いと思うけど。
2分ほど同様の淡々とした極小音が続いたあと、右ギターが剛腕に吼えた。フィードバック・ノイズを軽くまいて。煽られるように主ギターも潰した音色で応える。ノイズ一辺倒でなく、たまにピックで弦をはじく。それが主ギターのこだわりか。右ギターはノイズだけを存分に煽る。ギターじゃないのかな、もしかして。やたら重たい打音まで飛び出した。
唸りを上げじわじわスピードを上げる主ギター。叫びめいた右からのノイズが頼もしく空気を押す。右は暴れ切らず、主ギターは今一つ煮え切らない。この冷めた躊躇いが本曲の基本トーンになっている。だから11分過ぎのようなアグレッシブなテンションが、ぐっと耳を惹いた。
またもや主ギターと右ノイズの乱雑な対話に。主ギターはサンプリング・フレーズを叩いてるかのよう。次第に混沌さを増した。右ノイズは出しっぱなしにせず、ときおり音を止めて音像へメリハリを付けた。ただ、全体のノイズ量が少ないため、25〜30分あたりの空気は寂し気な色をまとうことがしばしば。
右ノイズは自分のノイズとフィードバックを混ぜた色合い。31分あたりから存在感を増す。主ギターが音色を変えてギターの面影を消し、ざくざくと電子音に似たノイズの交換な場面も。やがてパーカッシブな響きに。過激に行かず、どこか垂れ下がってしまう。ポリリズミックに鳴ったりもするのだが。
そのまま二人のランダムな掛け合いが続き、唐突なエンディングへ。総じてこの楽曲は、迷いをあちこちに漂わす。
2."Duo
1988 Penta Part 3" (18:45)
ギターとノイズマシン、かな。構造は全曲と似ているが、こちらのほうはいくぶんざらついた音質だ。エンジンが軋むような幅広い音域のノイズへ、上下のフィルターかけた音色になっている。録音日の明記は無いが、(1)と同じ日の3つ目の録音、だろうか。
音数は少なく、過激に走りもせず。助走がじわじわと持続した。6分ほどたってもテンションは変わらない。これは(1)曲とマスタリングで音量レベルが異なることも関係してる。
あえて(2)はぐっと音量を上げて聴いてほしい。潰れた音色ながらグツグツ煮えるノイズを二人で醸してる気もする。それでもテンションが奇妙にまったりは変わらないが。
中盤でスペイシーになったり、音量バランス変わったり工夫はあるけれど。
分厚いカーテン越しにノイズを聴いてる気分。ボリュームを思い切り上げないと、この曲は楽しみづらい。
(2016/8:記)