Merzbow Works
Duo CD 7
Recorded at Studio Penta, Otsuka, Tokyo
大塚の貸しスタジオ、ペンタでの録音。長尺2本を収めた。本作は物語性を投影できる展開を伺わせ、メルツバウらしい複雑なノイズだ。決して力技一発のハーシュではない。
ドラマティックさと即興の勢い、双方が詰まっている。ノイズによるオーケストレーションの志向がデュオでも実現した。
1."16 April 1989 Part 1" (46:42)
セッションの途中からいきなり始まる。工事現場みたいな音と、背後で静かに鳴るパーカッション。かき消すように新たな振動が重なった。抽象的で様々な音が積まれていくノイズだ。デュオかもしれないが、奏者の人数はあまり意識させない。
冒頭こそ具象っぽいノイズだが、シンセが鳴るあたりから一気に世界は抽象的かつうっすらスペイシーな趣を見せた。
脈動とノービートなノイズのきらめき。タイム感が危うくなり、奇妙な浮遊性を醸し出す。低音がすっと消え浮上する重心の軽さもあり。
エレキギターが断続的に鳴る。音の出入りは鋭角で、まるでテープ編集だ。あくまでノイズマシンとギターは捉え、音が浮かんでは消える。
軋む音も引っ掛かりながら展開し、無秩序な即興性が逆に、ミニマルさを排したドラマを感じさせて面白い。リズムや構成に明確なルールは無い。だからこそひとつながりの物語を聴いてるかのよう。滅びゆく恐竜の哀愁を、なんとなく脳裏にイメージした。
途中からドラムも加わりギターとデュオ体制に。だが背後に金属質のドローンは鳴り響き、シンプルな二極構造にはならない。
音像が無秩序なゆえに、意味性をあえて付与もしない。聴いてて想像をいろいろ膨らませられる。
しかしこういう作品スタイルこそメルツバウの真骨頂だ。ロックなスタイルの非常階段やインキャパシタンツとの明確なベクトルの違いを感じる。
時間をかけずいきなり別世界へ聴き手を誘い。ドラムとギターの明確な演奏構造へ変化しても、冒頭の異世界感をうっすら残してる。演奏が続いても幻想的なノイズの一環として、同じ地平で聴ける。良い作品だ。
さらにドラムがふっと消え、ギターと電気ノイズの雲が濃くなった。うなりをあげてミリミリと破片を飛び散らせながら、ノイズが高まっていく。奔出するきめ細かい塵と、激しく噴き出す霧。
複雑な音がすっと消え、一つのハウリングめいた高らかなノイズに収斂する。そのメリハリも素晴らしい。
そこでノイズは終わらず。ぐっと一気に低音へ突き進む。タイムにして25分あたり。この辺りだとデュオって実感はない。一人のミュージシャンがノイズ出してるかのよう。
一本調子でなく、うねりながら緩やかに上下する。力強く、たくましく。
太い一本がさらに枝分かれした。複雑によじれる数本の綱が絡みあう。
このひと時こそが、本作品の聴きどころ。圧巻だ。
さまざまな機械仕掛けの咆哮が浮かんでは消え、漂ってはたたずむ。ビートをまとわず、ゆるやかなノイズそのものの振動で揺れながら。
音色こそ涼しいが、力任せではない。突き立ち、震え、沈んでいく。
38分過ぎ、終盤でおもむろにドラムが再び現れた。一緒に鳴ってる電子音がよほど轟音なのか、ドラムの音はひしゃげ気味でどこか力無い。
太鼓はリズムではなく、思うままの乱打。テンポもビートも無く、なんとなく鳴っては、間を置く。
人の声を加工したような電子音がたなびいた。ドラムが寂し気に響く。轟音もゆるやかにうねった。
集中力の欠けたセッション、と取りたくない。ひいき倒しかもしれないが、退廃的なノイズ世界を描いた、と解釈したい。
そして冒頭と同じように、無造作に曲は終わる。唐突なカットアウト気味で。
2."16 April 1989 Part 2"
(25:18)
重たい引きずるノイズが生々しく立ち上る。ドラムとギターの変調か。リズムが畳みかけ、ノービートのディストーションが揺れ、立ち上り、崩れる。響く金属質な音で短いエイトビート。すぐに壊れ、ランダムな連打に変わった。
最初こそ複雑な音塊に感じたが、次第にシンプルなデュオであると、耳が整理されてくる。たった二つだけの音ではない。けれどもドラムとディストーションの対比だ。うねりながら、広がっていく。
ドラムはときおり音色を変えながら、鳴った。テンポは刻まず、音を埋め尽くしもしない。むしろ強度ある金属質なノイズの陰で、空間の隙間を舞うようにドラムが鳴る。缶を叩いてるような音もあり。
ギターは低音をドローンで響かせ、ストロークを重ねた。あえてドラムとテンポをずらす。低音から一気に高音へ向かう、6分半前後の変貌がスリリングだ。
シンプルな構造ながら、緩やかに進行していく物語性とランダムなノイズの咆哮は、すっきりしている。10分前後のように、どこか考え込むような瞬間の隙が、ある意味アウトテイク的な危うさを感じさせる。
しかし次第に加速し混沌を広げるさまは、さすがか。ドラムが意外と大人しく、ギターが引っ張っていくような。たぶん秋田昌美がドラムと思うのだが。
音を出しっぱなしでなく、メリハリが本音源の特徴だ。スリルとは違う、試行錯誤な流れで。14分半過ぎ、ギターの間を付いてドラムが刻みを始めた。ギターがまとわりつき、緩やかなグルーヴを作る。メロディが希薄なだけで、このあたりの音像はロックにしてポップだ。一気に加速し、すぐさまスローに。わざと決まりや定型を外そうとする意図が伺える。
この音源は瞬間を切り取ると、隙間がある。けれども流れで聴くと、奇妙なほどに物語性を感じた。多少、隙はある。だが瑕疵でなく生々しい迷いのような。
終盤はザクザクと尖った空気をばらまいた。この曲も、エンディングは唐突な幕切れだ。
(2016/3:記)