Merzbow Works

Duo CD 5

Recorded at Tad Pole Studio, Kyodo, Tokyo

 録音は経堂の貸しスタジオ。録音年代の記載はないが、ノイズ作成の手腕は手慣れており、風格が漂う。みるみる変化するさまが、とてもカッコいい。
 テープ編集かは不明だが、どの楽曲もアイディアと構成が見事に並列しており、傑作ぞろいのセッションだ。
 演奏風景ではなく、別世界を連想させる音作りのメルツバウ流が、ここで結実している。当時、発表に至らなかったのが不思議な傑作。

<各曲紹介>

1."9 October Part 1" (29:26)

 鐘を叩く音と、エレクトロ・ノイズ。比較的左右に分離した音像だ。左の叩く音は途中で響きが変調する。カオス・パッドはなかった時代のはず、アナログ・シンセのつまみ変更だろうか。
 ミリミリと軋ませる風景は、決して力押しではない。鷹揚に構え、じわっとノイズを操る。風格と上では書いたが、むやみに構えずノイズと戯れる余裕を感じた。

 暴力性や非音楽ではなく、音色操作をノイズと捉える。そしてどんどん加工は過激に傾き、音はみるみる無機質に。そんな気持ちの変化を表現したような曲だ。
 ぐいぐいと音は凶悪になる。リズム性は皆無だしスピードもさほどないけれど、音色の変化が加速する切迫感を与えた。
 音数は少ないけれど、デュオのダイナミズムとも違う。バンドとして数人(実際には二人だが)が音を出し、一つの大きな潮流を作った。

 16分40秒あたりで、すっと音が切れるのはテープ編集か。一転してハウリングやフィードバック中心の高音強調なノイズへ、場面がガラリ変わる。
 一呼吸おいて、ぐっと派手に盛り上がるさまも潔く素敵だ。

 野太い響きが加速する。空気を隅々まで埋め尽くした。細かなノイズの積み重ねが、厚みと高さを作り上げた。

2."9 October Part 2" (11:17)


 唐突な始まりは、前曲と切れ目なしかのよう。連続する電子音が雄大な風景を作った。ときおり跳ねる涼やかな音と、軽み帯びた打擲の音色をアクセントに。
 前曲がいくばくか現実音との関連性を伺わせたが、本楽曲はあっという間に独自の世界観を提示した。奏者の肉体性を消した、見事なノイズ作品だ。楽想のイメージが別空間へ誘う。

 ハードコアな世界へ安易に寄りかからず、電子音のはじける刺激と鋭さのみで世界を描く。酩酊感あふれるはじけっぷりが、きれいだ。
 終盤はメタリックな打音に戻る。11分の中で、ストーリー性持った作品へ仕上げた。

3."9 October Part 3" (20:11)

 金属製の三味線ふうに、和風要素と電気仕掛けの鋭さを持つ音がイントロ。すぐさまフィードバックの嵐が背後を塗り、ザラついた空気を演出した。前曲とは一転、明確な二極構造を持ったアレンジで幕を開ける。

 ここでは音を塗りつぶさず、すっきり風通し良い空間で数本の軋みが、歪んだ響きを轟かせた。ハムノイズのざわめきが轟音の様子を描く。
 フィードバックが鋭く貫く。一本だけでなく、数本が並列し天を突いた。偶発的なサウンドかもしれないが、ストーリー性持った展開がメルツバウらしい仕上がりだと思う。

 埋め尽くす風景は密度濃く、空気を震わせた。小刻みな振動がいななく。次第に収斂して中央で火花散らしながら丸くまとまった。力を貯めて震え続ける。
 がらがらと硬質なうねりはエンジンのように脈動した。
(2016/2:記)

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