Merzbow Works
Duo CD 4
(1) Recorded at ZSF Produkt Studio, Tokyo
(2) Recorded at Studio Penta, Otsuka, Tokyo
録音時期を変えた2作品を収録した。(1)はCD3に続く作品、(2)は時期不明ながら同年のもの。後者は大塚の貸しスタジオ・チェーン店、ペンタで録音された。
音使い、録音環境、アイディア。それぞれの対比が興味深い。
(1)はまず40分以上ものノイズを作る集中力に注目だ。アイディア一発の即興で、若干ダレる箇所こそあれ、いわゆる音楽的なアプローチに寄り掛からない。
ハーシュ寄りのノイズに立ち続ける視点の固定力が聴きもの。特に右チャンネルのほうが顕著で、ほぼノイズの文脈を意識し続けてる。
逆に(2)はアイディア豊富ながら集中力に欠ける。ただしローファイな音質もあいまって、スリルはたっぷり。
<各曲紹介>
1."25 June 1988
A" (44:10)
本シリーズCD3の1曲目と同じ日の録音。ブルージーな展開のCD3と対照的に、こちらはノイズなアプローチだ。
ランダムなエレキギターの方向がくっきり左右に分かれた定位で始まる。ビートや旋律感は無いが、うねる上下で音程変化だけはじわじわ漂った。二人は同時演奏と思うが、特に対話や関連性は持たない。逆にあえて外そうともしていなさそう。
ただ無秩序に互いがノイズを出している。うっすらとフィードバック。音の粒立ちもはっきりしない抽象的な軋みが、ゆるやかな周期を持ち上下した。
特に左右の違いはないが、左は比較的メロディアスだ。コード的なストロークや単音のピッキングらしき風景もしばしば顔を出す。一転して、右は純粋ノイズ。メロディや展開をほとんど作らず、やみくもにハードな深淵にもぐりこんでいく。やはり右が秋田だろうか。
音域でいうと、意外と左側が高音。右側は低音中心の揺蕩いを使った。
12分過ぎで音像アプローチに変化あり、左はドローン的なふくらみを広げる。右はフレージングを使い、歯切れあるアタックと深い叩くような音を混ぜた。
冒頭のパワフルさは影を潜め、息継ぎのように穏やかな風景へ。
2分ほどでペースを変え、再びハードで歪んだノイズの海へ再沈降した。やはり対話はせず、てんでにノイズをばらまく。左チャンネルがエフェクターで歪ませ倒したノイズを選択、音域が低音強調のため暗雲が全体に立ち込める。
右チャンネルは速弾きやアーミング風の要素も混ぜ、ジミヘンやハードロック風のアプローチ。
しばらくすると左チャンネルも高音中心のブルージーな空気を選び、19分以降はしばしロックなノイズに変わった。左はクリーンなトーンならば断続的な旋律が見えるような音使いに。右は崩し歪みの抽象路線へ。
24分半でいったん終わりそうなムードになるが、二人ともあえてやめない。この長尺への執着はなんだろう。右は執拗にノイズを出す。背後のドローンと、前の軋みと。
逆に左は音を絞り出すかのよう。鶏の囀りみたいな畳みかけ。数十年後にメルツバウが動物愛護へ傾倒するさまを、ふと連想した。
28分ごろは、すっかり右の独壇場だ。思い出したかのように、左は音を重ねる。ぐっとリバーブを使って。順列組み合わせではないにせよ、エフェクターを使い分けアイディアを作ってるかのよう。
35分過ぎに右が断続的な音へ、左が長い譜割のノイズへ。対話やメリハリは意識しない構成だが、さすがに流れがにじみ出てきた。やはりセッションにならざるを得ないか、と思った瞬間に二人がすっと離れ、てんでなノイズへ。この音使いが興味深い。
そのまま盛り上がりは無くエンディングに向かう。最後は幾分、左のほうがアグレッシブになった。いきなりのカットアウト。これはテープ編集かな。
2."Duo 1988 Penta 2" (23:29)
ノイズともローファイともつかぬウネリから。エレキギター2本のノイズ。定位をぐっと中央に寄せ、混沌な世界を膨らませる。
ふたりともそろって、スペイシーな広がり中心のノイズ。フィードバックを利用か。録音のせいもあるようだが、細部が歪んだ。ボリュームを上げると、みりみり空気が軋む。テープへピーク・レベルのギリギリまで突っ込んだかのよう。逆にテープの歪みは少なそうだ。
4分あたりでいったん一息、5分で明確に切れる。だが間をおかず次のノイズへ。曲としてとらえず、即興でノイズを出し録りっぱなしか。
ここからシンセとギターの対話になる。6分半でテープ編集っぽいドロップが一瞬あり、再びノイズへ。雰囲気を出すためにあえて一つのトラックでリリースと思うが、CDでは組曲と捉え、いくつもトラック切るのも面白かったのでは。
12分ごろはメカニカルなノイズへ。複数の音が混ざっているが、録音のせいか分離悪い。金属をこすってるかのよう。迫力あるハーシュになりうるが、敢えて音質が雑駁で乱雑な雰囲気を醸し出した。
スピードが希薄だが、後年のメルツバウが多用する複層構造なノイズ好みの萌芽を、ここから聴き取りたい。
曲が進むほどに楽器使用の色が薄まり、金属ノイズにシフトした。この迫力を、当時の練習スタジオで出せたのか。
ノイズは出しっぱなしでなく、絞り出すように空白やダイナミズムのめりはりをつけた。ただし集中力に欠け、単調さとスリルのメリハリが激しい。23分強と、めちゃくちゃに長い曲ではないのだが。
でもラスト一分の迫りくる凄みは、胸を締め付けるスリルあり。テープ編集したら、もっと魅力がわかりやすくなる作品かもしれない。
(2016/2:記)