Merzbow Works
Duo CD 3
Recorded at ZSF Produkt Studio, Tokyo
本盤でも屈指の長尺なCDだが、その価値は有る。ZSFの自宅録音で、セッション一発とダビングまみれの双方を収録した。双方とも長尺でじっくりとインプロを聴かせる。特に(1)が秀逸。ブルージーに幕を開け、中盤は抽象的な世界へ。メルツバウの作品とは思えぬ聴きやすさだ。なおCD4では同日の別録音が聴ける。
(2)は混沌な世界を奔放に飛翔するアイディアの展開が楽しい。スタジオならではの複雑な音像は、次々にアイディアを投入して過剰な音を作りながら、やり過ぎないバランス感覚が聴きもの。
<各曲紹介>
1."25 June 1988" (41:09)
エレキギター二本で、がっつりブルーズなメルツバウ。これは面白い。右のブルージーなギターがおそらく水谷、左のノイズ寄りギターが秋田だろう。
探るようにゆったりしたフレーズで幕を開ける。リバーブとディレイ効かせて幻想的なムードを出した。爪弾く明確なフレーズを持った右のギターへ、断続的に左のギターが不定形で絡む。
ブルージーさはそのままに右のギターがうっすらと音色を歪ませ始めた。低音弦と高音弦で多層フレーズを作る。左もつられたように、音数少ないがブルーズ寄りのパターンへ。無秩序なジャム・セッションを聴いてるかのよう。
互いに寄り添いつつ、絡まない。曲をなるべく回避しつつ、ノイズに行かない。ぎりぎりのバランスを探った。
右が速弾き気味にフレーズを加速させると、左もがしがしと性急なパターンで応える。だが右がそのままテンション維持なのに、左はスッと下がり空白へ。数呼吸置いて、おもむろに残響効かせた響きのみで応答、幾音かを並べた。
逆に右は左のノイズにつられない。淡々とブルージーな旋律を並べた。
今フッと思ったが、これは同時録音かな?
右を先に録音し、聴きながら左を即興的にダビングして、ブルーズをノイズ化のアプローチ探りかもしれない。しかしそれだと秋田と水谷の二人がいる必要が無い。やはりセッションかなあ、これは。
CD4の1曲目と同時進行で互いに1chづつ録音して、あとで互いにダビング施したってパターンも面白そうだが。
曲は淡々と続く。右はブルーズを離れスケールを無作為に上下っぽいパターンへ。がっしり歪ませた左は、だんだん堂々とノイズ化に変化する。持続性や音圧を増し、右の存在感を侵食し始めた。この勢力争いの推移が、本曲の魅力だ。
12分辺りでいったん右が息切れ。パターンを消して一休み。おもむろにフレーズの爪弾きを始めた。
同時期に左も盛り上がりを鎮め、ゆっくりノイズを絞り出していく。メロディアスな右と静かなノイズの左。ノイズとメロディ、意味性と無秩序。互いが並列ながら関係しない。即興な二本の縄が捩られ、調和しない。対比がシュールで楽しい。
15分近辺には右が左につられ、ノイズの沼へ踏み込んできた。すっかり右もメロディが消え、剛腕な残響やフィードバック中心に。逆に左は右へ関与せず、淡々とノイズをばら撒く。
ノービートで無秩序な世界が広がった。
だが左右で性格に大きな違いがある。左は飽かずにノイズをばら撒く強度と執着がある。右は立ち位置があやふやだ。メロディを放棄しノイズに向かっても、まだメロディへの未練あり。ふわふわとノイズの奥底にメロディへ回帰するタイミングかアイディアを探る。
そんな二本の異なる立ち位置が、本作品に奥行を与えた。二面性の逡巡が融和でなく不安定に揺らぐ世界を見事に表現している。
24分前後で右はハードロック風文脈の速弾きに向かった。左は依然と硬質で金属的なノイズを漂わす。しかし音は右が主導権か。右の挙動に併せて左のノイズが音圧やテンションを操作して聴こえる。右に追随ではないが、右あっての左、みたいな恰好。
26分ごろに左が刻みをいれた。リズムを回避し、パターンもずらして。だが、リズミックだ。
29分過ぎ。アイディア切れか、右が再びノイズ寄りに。ディストーションを伸ばし、軋ませる。左は断続的に音を足す。ギターを感じさせぬノイズ・マシーンで。
だんだん二人の音に隙間が多くなってきた。流れ、と言う意味ではこのあたりがちょっと散漫か。35分のあたりで急に音が切り替わるのは編集かな?
左は集中力を切らさず、断続ノイズをリバーブまみれで絞り出す。ひよひよと笛みたいな響きはダビング?右はごくたまに音を足した。
唐突に右が炸裂。すぐに静まる。左右で笛っぽい響きの応酬に変わった。和風な風景だが、詫び寂とは無関係な空気だ。そのまま盛り上がりに欠け、フェイドアウト。ちょっと拍子抜け。
2."27 August 1988" (32:38)
たぶんエレキギター二本による即興。上記と同じく左右にくっきり音が分かれている。左が若干メロディアス、右がノイズ寄りか。左が水谷で右が秋田かな?
金属製の獣が咆哮しあってるかのよう。さらにダビングで左には野太いシンセの音も現れる。大きなうねりが冒頭は感じられた。旋律感は希薄だが、うっすらと音程を感じさせるノイズが続く。
左はギターとシンセの混淆、右はシンプルなノイズ。どちらかと言えば左のほうが派手だ。右はドローンを基調にざらついたノイズを混ぜ、左はギターノイズに加え、シンセやさらなるギターノイズを足す。
5分ほど立つと次第に盛り上がったのか、ぐっとノイズの厚みや強さが増した。その直後に一息つくのだが。なんというか、金属質な音が続くわりに肉感的な即興性あるノイズだ。機械仕掛けでなく、人力でアナログなノイズが並ぶためか。
7分半あたりでの、ユニゾン気味にわななくノイズの対話がスリリングだ。
この楽曲は(1)と比べて、全編でダビングを施した。さまざまなノイズが現れる。たぶん時間短縮の編集は施しておらず、時系列でじわじわと変化を楽しめる。
脂っこい二人の対話は、寄り添わず反発せず。極端に左右へ分けたミックスのため、中央がぽっかり空き、まさにデュオめいた響きだ。
特にストーリー性は無いものの、浮かんでは沈み盛り上がっては抑えるウネリは、いくぶん二人とも同じようなテンションだ。
20分辺りではノイズに埋まりながらも、左右で鐘のような響きが浮かんでは消える。轟音混沌の中ながら、わずかな詫び寂を感じた。騒音での静寂。芭蕉に言う「セミの声の静けさ」みたいな。
後半は音像に複雑さを増し、前半でのうねりとは違ったスケール大きいたゆたい。迫りくるキメ細かい風圧が刺激的だ。終盤は煌びやかでスペイシーな展開にて着地。
(2015/12:記)