Merzbow Works

Duo CD 2

Recorded at Studio Penta, Otsuka, Tokyo

 前盤の約一年後、88年6月の録音。スタジオペンタは都内各所に展開する、貸スタジオのチェーン店。そんな中で、こんなノイジーな録音がなされていたとは。絵面を想像すると面白い。

 スタジオ一発録りと思われ、ダビングは感じさせない。テープ編集は一か所あったが。
 音色は十分に混沌で、メルツバウらしい立ち止まらぬ変貌がぐいぐいと広がった。そうとうに音量上げた録音なのか、空気をジリジリ震わすアンプ・ノイズらしき音も聴こえる。

 (2)の演奏がスリリングで、ノイズ好きにお薦め。

<各曲紹介>

1."19 June 1988 Part 1" (23:42)

 豪快なリバーブの効いた音像。硬質なパーカッションの打音で幕を開けた。ハウリングが色を添える。ざらついた空気と、唸り音。アンプから外出しの部屋鳴りやアンプの滲みまで録音したか。

 エレキギターのエフェクタ加工な音色かもしれない。しだいにディストーション・ノイズが高まった。
 パーカッションが秋田、ギターが水谷と推測する。構造を作らず、パーカッションの無秩序な展開へエレキギターの轟音が重なる構図だ。パーカッションへリバーブとディストーションも書けてるのか、歪み響き振動する。そこへ新たに獰猛なギターのノイズが被さっていく。

 シンセに一人は楽器を持ち替えたか。電気仕掛けの抽象性が増した。余韻が繰り返されるのはディレイ効果ゆえか。実際の出音にアンプかなにかのノイズも混ざり、やんわりと音像は奥行深く複雑に響く。

 オーバーダブ無しの即興で、つぎつぎに音世界を展開させる段取りの良さにも注目だ。後からテープ編集の感じは聴こえない。ならば一つのノイズに拘泥せず、変化し続ける流動性が素晴らしい。

 前盤での特徴だったデュオのダイナミズムは、本盤だと希薄。複数の音は有るけれど、互いに収斂しあってノイズを創る。それでいて走ったり高まったりしない。淡々と積み上げ、空気を塗り替えた。

 11分過ぎに再びメタル・パーカッションの乱打が始まった。アンプ越しの音色は歪みひずみ軋む。フィルターノイズっぽい貫きは、ギターの咆哮だろうか。連続ではなく、絞り出すようにジワジワとノイズが滲んだ。

 前盤と全然違うな。ここではセッションめいた関係性も、すごく希薄だ。互いの音に反応せず、てんでに音を出す。それでいて、違和感はない。さらにリズムやオスティナートも注意深く避け、徹頭徹尾ノイズを追求した。

 エレキギターの高音を強調したノイズの蠢きがきれいだ。歪みはハーシュ風に空間を塗りつぶさず、じんわりと間を取りながら迫ってくる。強烈なリバーブの沼で揺れながら。
 暴力性は希薄で、巨体を扱いかねた蠢きっぽい。最後にドラム風にパーカッションが連続して鳴った。オイル缶でも持ち込んだか。ハイハットの刻みっぽいのも聴こえるな。
 最後の部分だけはセッション風に、二人のノイズが高まった。音で、塗りつぶす。じわりと、フェイドアウト。

2."19 June 1988 Part 2" (23:16)

 こちらは冒頭からいささかテンション高い。水谷のギター・ノイズと、ハーシュな秋田のノイズが対峙した。いわゆる典型的なハーシュで雪崩れる。それでも録音ゆえか、一幕目の前にあるようだ。べったりと空間を埋め尽くさず、どこか空気に余裕あり。
 
 力押しでなく4分くらいでいったん静かめに落ち着いた。これも編集の様子はうかがえないが、メリハリはきっちり出してドローンやミニマルな展開をメルツバウは選ばない。
 ギターとノイズマシンの構図は変わらない。互いに音程は出さず、掻き毟りか叩くような音をどんどんと繰り出した。
 8分過ぎからリバーブの効いた打音の残響に、ギターの鋭い超高音と笛めいた高音が絡み、なんともスリリングな世界を描いた。笛っぽいのはシンセかな?
 うねりがグイグイと回転しながら高まっていく。

 13分過ぎの高まり、進出する流れが魅力的だ。次々にノイズが注がれ、展開する。楽器の存在を感じさせぬ無機質なノイズの響きがかっこいい。
 14分50秒あたりでいきなり音が変わる。ここはテープ編集あり。

 それまでの盛り上がりをすべて排除し、隙間多い世界を作った。実際のノイズとハウリングが交錯し、入り乱れてるさまが美しい。複雑な奥行が幻想的だ。
 ざらついた金属質な軋みが、時に忙しなく鳴る。けれども埋め尽くさず、じっくりと空白も咀嚼した。いわば余裕綽々な豪快さ。
 最後まで絞り出すように、じわじわとノイズが幅広く展開した。スケールがこじんまりなのは、録音場所のゆえか。これまた、フェイドアウトで終了。

 ハーシュで押し切らない、この懐深さが斬新だ。      (2015/11:記)

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