Merzbow Works

Merzdub (Caminante Recordings:2006)

Jamie Saft : Vocals,guitar,bass,drums,organs,synthesizers,dubs
Masami Akita : Computer

Souce Material recorded at Bedroom ,Tokyo March 2005 by Masami Akita
Recorded and mixed at Framk Booth,Brooklyn,September- October 2005 by Jamie Saft
All song s produced and arranged by Jamie Saft
All songs written by Jamie Saft And Masami Akita

 唐突にリリースされた一枚。同レーベルからはメルツバウの"Live Magnetism",エリオット・シャープとの共演"Tranz"がリリースされた縁で本盤のリリースへ至った。
 メルツバウの名前を冠し、メルツバウが素材を提供はしている。しかし本盤の主役はあくまでジェイミー・サフトであり、メルツバウはあくまでバックアップに過ぎない。上記のクレジットが示すとおり。

 マスタリングまで含め、メルツバウは素材以外にかかわっていない。
 にもかかわらず、メルツバウの作品っぽいタイトル付けはちょっと違和感あり。

 サフトはNY拠点に活動するマルチ・プレイヤーでジョン・ゾーンらとも交流あるようだ。TZADIKからソロアルバムも複数リリース。奏者としてエレクトリック・マサダやゾーンの映画音楽、ソロ作品にも参加している。
 本盤ではプレイヤーというよりミキサー的な役割。その点では、サフトにとっても異色な作品なのかもしれない。

 メルツバウが本作のために書き下ろした素材を、サフトが縦横無尽に加工し、エレクトロニカな世界を作った。ビートを強調しても、どことなくシンフォニックな要素を残す。
 雄大さと突拍子も無いノイズを上手く混交させるセンスが、ユニークで興味深かった。
 メルツバウの作品として聴くには、サフトの色合いが強い。しかしメルツバウの素材あってこその、不穏な空気を醸したことは確かだ。
 とはいえなぜ、サフトがメルツバウとのコラボ形式を取ったか、ぴんとこない。サウンドを上手くまとめる才能から見て、わざわざメルツバウの素材を使わずとも、同様の音楽は作れたはず。
 あくまでメルツバウへ敬意を表してのことか。にしては、メルツバウのサウンドを解体しまくり、棘や牙や凄みを全て拭ってしまった印象が残る。

 メルツバウやサフトのキャリアを意識せず、ダブ風のノイズ加工作品と聴けば楽しめる一枚。

(全曲紹介)

1.Conquarer (9:13)

 一面に後ろを覆うノイズがメルツバウだろう。荒涼とした風景を描きつつ、戦場のような激しさを滲ませる。
 曲は淡々としたキーボードが金属質に響き、空虚な拡がりをかもす。加工されたボーカルがうめきながら言葉を連ね。低音のピアノ鍵盤が巧みに挿入される。

 小節感を希薄に、ベースとキーボードが絡む音像は面白い。展開はさほど無く、鍵盤のメロディがソロを取るのみ。欧州プログレなムードを醸す。 
 メルツバウのノイズは中間部で静まるが、やがて激しさを増した。根本でベール一枚かぶされた書き割りのようなもどかしさが残る。

 かもめの鳴き声めいた響きが、一瞬だけ左右のスピーカーでなった。あれはメルツバウの素材だろうか。

2.Beware Dub (9:16)

 リバーブをドシャメシャに効かせ、こもった音から。メタル・パーカッション・ノイズへ団子のような綿を絡めたよう。じきに小刻みなビートがかぶさった。
 ダブ加工されたハーシュが単発で挿入、DJスタイルで幻夢な炸裂を演出する。次第にハーシュ成分が深まり、同時にリバーブも。足元がみるみる不安定化し、左右に揺らぐ。
 ときおりギターのカッティングも。

 メルツバウのノイズはじりじりと広がる風景のようだ。主体はサフトの音世界へ置かれ、メルツバウは素材以上の存在感を示さない。
 あやふやなクラブ場面を、音楽で構築したセンスは評価する。
 後半はメルツバウのダブ・ノイズを主役にするが、炸裂はずっともどかしいまま。

 調子はずれなギターの電気加工が、唐突に登場しエンディングへ。

3.Skinning JLO (8:50)

 極低音がウーハーを震わせ、声と電子音の寸断が絡んで不穏な幕開け。ビートやパターンは匂わせず、スリリングに立ち上がった。じわじわとビートが交錯する。
 
 ボーカルが低くあおり、小さいビートの破裂。鳴き声をリボン・シンセ加工したようなフレーズをはさみ、よりくっきりした前のめりのビートへ雪崩れた。
 メルツバウのノイズは、おそらく全般を空しく塗りつぶす電子音。背後から覆いかぶさる。サフトは見事に自らの音楽を混ぜ合わせた。

 あまり展開無く、音へ身をゆだねるうちに時間が立ってしまう。テンションは右肩上がりに激しさを増した。重低音はいつの間にか姿を消し、猛烈な加速が全てを混沌へ丸めた。

4.Kantacky Fried Dub (6;36)

 唐突にホワイト・ノイズ。フィルターっぽい展開を残しつつ。サフトはメルツバウの素材へ上品にベールをかぶせ、むき出しの凄みは魅せない。

 しだいに音数が高まり、加速。かもめっぽいノイズが幾度も登場。本盤(1)で聴ける響きと似ている。メルツバウの素材は、極限られたもので、サフトはそれをいくつもの曲へ振り分けて作成したのかも。

 前半はサフトがミックスに注力し、かぶせた音はさほど無い。一面のハーシュが真っ白に拡がり、せわしないビートの骨格だけを左チャンネルに残す。大きく開口した右チャンネルは、風圧激しくノイズを噴出した。

 中盤でいったん休止し、リセット後に新たなハーシュ・ノイズへ。(3)を想起する重低音もかすかに。
 この曲はメルツバウをあっけらかんと操った。どこかポップな様子を残すのが面白かった。
 メルツバウの素材へエフェクトを少々馴染ませたくらいかもしれないが、秋田のサウンドとは違い、どこか凄みに欠ける。

5.Visions of Irie (6:43)

 唐突にレゲエ。猛烈なリバーブとダブがたちまち埋め尽くし、ボーカルは泡の彼方へ押し流される。無論もういちど前へ戻るが、ピッチは下がるわリバーブが轟くわと、散々に加工された。
 幻想レゲエの一要素で、僅かにメルツバウのノイズが使われる。比率的にフィルター・ノイズが一面に広がる瞬間はあるものの、さほどメルツバウが主張はしない。

6.Dangermix (7:44)

 再びミキサーとして。おそらくオリジナルは猛烈な噴出と推測するが、サフトはぐっと堪える音像を採用した。細かく素材をループさせ、溢れるパワーを希薄に抑えた。なんとももどかしいハーシュ・ノイズとなった。
 (1)や(4)で聴けるかもめ風の鳴き声も、幾度も登場した。

 手前に広がりあるフィルター・ノイズをミックスし、むき出しのハーシュを味合わせない"危険なミックス"と銘打ちながらも、上品な表情でまとめるセンスは、面白いとは思う。メルツバウを聴くには歯がゆいが。

 最後は静かなホワイト・ノイズがえんえん続いて幕。次第に鋭さを増し、耳朶をくすぐる。

7.Updub (10:48)

 鈍く低い地平に電子音。野太いシンセが牧歌的に響く。ただしテンポはぐっと落とされ、ランダム性を残し。シンセは初期テレビゲームのような野太さあり。裏拍でのんきなレゲエな要素も。
 気だるく、だらしなく。メルツバウのノイズは後ろのほうで、ぐっと僅かに蠢くのみ。
 中央でピッチをめちゃくちゃに下げた男の声。さらに左右で揺れるシンセ。あとはどすんと響くリバーブを纏ったパーカッションの残骸。
 サフトの色がぐっと前へ出た。あまり展開無く続くので、途中で飽きが来た。 
 終わりに、とうとつな低音が一鳴り。

8.Slow Down Furry Dub (12:15)

 サフトの色合いを強めた一曲。ひたひたと濡れた足元を軽やかな鈴の音が浮かんでは消える。都会の夕闇が似合いそう。映画の一場面を切り取ったかのよう。ピアノが涼やかに入り、ギターのカッティングも。
 おそらくメルツバウの音は、背後の雨音めいた音像だろう。ここではジャズっぽいインスト音楽が軽やかに奏でられ、ノイズは素材と化した。

 クールな音楽そのものは楽しめる。どこか調子はずれな歪みが、緊迫を増す。
 ソロ回しなどの展開は無く、背後のハーシュへクロス・フェイドしつつ時を経過さす。 
 ゆったりとしたテンポで、僅かに全体を歪ませながら奏でられる音楽は、単純にかっこいい。本曲が本盤のベスト。                                                 (2007.12記)

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