Merzbow Works

Dead Leaves (2008:Licht-ung)

Recorded and Mixed at Munemi House in January 2008.
Music By Masami Akita

 周波数でメロディを紡いだノイズ。
 ステッカー入りシルクスクリーンの木箱に入った100枚限定の盤もあり。17年5月現在、あと1つだけBandcampで購入が可能だった。

 日本語タイトルで"枯葉"と銘打たれた本盤、あからさまに表現はしないけれど、かすかにしっかりと楽曲の音列から四音を抜き出してノイズに混ぜた。音楽ファンとも知られる秋田昌美で、これまでもジャケットやノイズ・サンプリングでごくたまに過去のオマージュを作品に混ぜてきた。しかしスタンダードの"枯葉"ってのは、意外な選曲ではある。

 剛腕で塗りつぶすハーシュでなく、すっきり間を取り、合間に細かくノイズを差し込んでいくミックスと構造が本盤の特徴。パワー・ノイズとは違うベクトルながら、過激さと繊細さを同時に表現した。
 オーケストラ演奏のごとく、複数の音列を混ぜてノイズを組み立てるメルツバウならでは、そのうえで斬新で新機軸な一枚。 

<全曲感想>

1.Dead Leaves Part I 19:59


 滲み、充満するノイズ。きらきらと千切れ吹き荒ぶ。鈍い音は崩れながら進行し、周辺を辛く染めた。だが炸裂するつんざきは抑えめ。荒涼の残骸が骨格だけで蠢きながら、けっして空間を塗りつぶさない。
 緩やかに、危なっかしく。地平と高くそびえる三次元のノイズが広がった。

 かすかに漂う、か細い旋律。"枯葉"の数音を繰り返す、かのよう。
 
 メルツバウが意図的に"枯葉"を混ぜた気がしてならない。そっと、しかし執拗に同じ数音の音列が震え、飛んでいく。展開も自己主張もしない。ただ、ノイズに埋もれる音列として。
 
 そのままノイズは進行する。アナログ・シンセが沸き、金属質な響きと混ざる。さらに低音成分が増し、降り注ぐ細かい音列。その中に溶けそうながら"枯葉"モチーフも執拗に漂った。
 ハーシュの方法論を取りながら、決して喧しいだけの音像ではない。むしろ繊細で精密なノイズを丁寧に編み上げた。

 やがてノイズはザクザクと尖った音色が主軸となる。機械仕掛けの獣が穏やかに咆哮した。
 けれども音像はむやみに潰さない。むしろボリュームをどんどん上げたくなる。フィルターノイズが流れ続けるサウンドは、意外とこじんまり響いた。過激さを求めて、ボリュームを上げていった。

 大ボリュームでも本盤のノイズはまだ、どこか優しさを持つ。ガッと上げたボリュームの中で、ノイズはようやく隙間無く飛び交う。テンポの違うパターンとパルスが盛り上がり、沈んでも止むことはない。

2.Dead Leaves Part II 15:03

 一転してうなりを上げる激しい回転のさなかに放り込まれた。加速する推進機関は高速の回転とガシャガシャ唸るピストンかバーのような動きも聴きとれる。
 すべてPCで波形加工のノイズだろうか。アナログ的なダイナミズムがそこかしこに感じられた。
 唸る低音は明確なメロディを持たない。音程感をわずかに持ちながら、溢れ暴れる。硬質な機械だったはずが、いつしか柔軟なうねりと振幅まで連想に変わった。

 この曲では(1)で聴けた四音の音列は明確に現われない。むしろパワー・ハーシュ寄り。しかし寂しさと空虚さは前作から通底してる。激しいはずなのに、荒ぶるはずなのに。それでも音像はどこか切ない。
 まさにから回るようにノイズが揺れている。聴いていてこの無常観を憶えるのは無茶だろうか。

 うねりと唸りは激しいノイズを周辺に従えながら淡々と続く。テンポ感は希薄と言え、このループをリズムに解釈すれば、それなりに速いビートにも取れる。けれども聴いてる限り、リズミックさはとても希薄だ。
 無秩序に、埋め尽くしてもどこか危うい喪失感を楽曲に感じてしまう。

3.Dead Leaves Part III 22:18

 (2)の終盤、沸き立つ細かく尖ったブツブツが緩やかにフェイドアウトから切り落とされ、本曲につながる。音像のテンションや質感は似ている冒頭だが、ゴムのようにしぶといアナログ・シンセの低い響きがしたたかに現われた。
 残響を持つように鈍くうねる。

 ゆるやかなグルーヴ。本盤の中で最も力を持つ。わずかな寂しさは依然としてあるが。
 (1)で聴けた"枯葉"の音列は一音にそぎ落とされた。サイン波のように断片がノイズの中で漂う。まさにパート3。(1)と(2)の世界観が混ぜられた。

 実際の録音がどのような手順かは知らない。けれど(2)に続くベーシックな音を先に録音し、(1)に通じる単音のか細いノイズをあとからゆっくりダビングしたかのよう。
 それくらい二つの音像はテンションやムードが違う。ぱっと聴きではパワー・ハーシュ。でも細部は実に細かく、慎重に操りミックスされた。

 右チャンネルからおもむろにザクザク切り裂く鋭角で平板なノイズ。中央は回転と脈動を続ける野太い音色。フィルターノイズが斜めに飛び、空間を埋めた。さらにか細い単音の"枯葉"モチーフの断片が、ゆるやかに漂う。

 唸る大鉈が力強く切った。もっとも音像は途切れない。切り裂く音を包み、さらに激しくフィルターノイズが充満した。低音で脈打ちはそのままに。
 噴出する太い炸裂。背後に流れるノイズのせせらぎとは別タイミングで。

 多様な音列がよどみなく現れながら、どの音も小気味よく分裂してる。それでいてスピーカーで聴いてると、きれいに溶けて心地よくも猛烈なハーシュ・ノイズに仕上がった。
 ノイズは変貌し続ける。明確なストーリ性は頭に浮かばなかった。だが何らかの意思と、寂し気な横顔を匂わせて、鈍磨な低音から鋭利な高音まで幅広い周波数を手ごまにノイズを紡いでいく。
 最後はシュルシュルとフェイドアウトで終わった。

 本盤の三部作はパート3に最も時間を割かれた。メルツバウはしっかりとこのアイディアに向かい合い、繊細かつ穏やかにノイズで大胆な絵を描いている。     
(2017/5:記)

一覧へ

表紙へ