Merzbow Works
Collapse 12 Floors([OHM]Records)
all composed & performed by masami akita
used apple computer,theremin,noise electronix
final mix at bedroom 11 feb 99
ノルウェーのレーベルからリリース。
CD盤面にタイトルが、薄い文字でそっけなく刻まれる。最初に見たときはどっちが表か一瞬とまどった。
表題のテーマは浅草の"十二階"。
明治や大正時代に「高層建築」の代名詞とされ、関東大震災で壊れたという凌雲閣のこと。
もっともほかの2曲は"十二階"と無関係かな?
コンピュータを全面使用した編成では、初期にあたる一枚。
数年後に多用するリアルタイムな波形編集だけでなく、カットアップ手法も散見される。
ハーシュとシンセみたいにきらびやかな音が共存する音世界は、けっこうキュートだ。
迷い、というのは大げさか。なんとなく試行錯誤を感じた一枚。
(各曲紹介)
1. Wa 30.25(6:27)
冒頭から激しくつるべ打ち。
低音をループさせ、その上で甲高い音を操作する。だが低音も一定しない。ときに停止、ときにブレイク。
常に変化し、グルーヴを安住させない。
やつぎばやに複数ノイズが現れては消え、けっこうシンプルなイメージを受けた曲。
各種ノイズとたわむれてる風景をカットアップで見せるかのよう。
いうなればメルツバウ流の、ピンナップによるスライドショー。
タイトルの意味は謎です。
2.Kareha(16:53)
タイトルは「枯葉」だろう。有名なスタンダードは、たぶん無関係。単純にメルツバウのオリジナル曲のはず。
ごそごそ低音がうなり、コラージュ風に膨らむ。
崩れそうなイメージを枯葉に重ねたのか。
明確なメロディがひょこんと顔を出してびっくり。回転数を変えてすぐさまドローン・ノイズへ変容する。
低音がぶるぶる震えるパターンに変わった。
全体を通してあまり緊張感や唐突な変化はなく、じっくり探る感触だ。
ただしひとつのアイディアを追い込まず、あれこれさまざまな音像をもてあそぶ。
5分前後でネックレスをすり潰すような音が、ハーシュのカットアップの合間に繰り返された。
静かな音像とのギャップは、大音量で聴いたら映えるだろう。いまはそこまででかい音で聴いてませんが。
ラスト間際で聴こえる、タンゴのノイズ化が面白い。
破裂するハーシュを作成する過程のイメージが、何となく浮かんだ。
多重録音を得意とするメルツバウにしては珍しく、シンプルな奥行きの作品。
メルツバウのリハ風景を垣間見た気分になった。言葉は悪いが、あんがいとりとめないつくり。
3. Collapse 12 Floors, In Asakusa 1923(30:30)
タイトルから単純に連想するような、ひたすら破壊衝動を撒き散らした曲じゃない。
残骸をカメラでなめながら、破壊する瞬間の映像をカットアップで挿入するイメージ。
何種類か重ねられているが、やはり薄めの音像。エコーでふくらみを出した。
砂塵。ぱらぱら落ちる瓦礫。
しゅわしゅわとシンセっぽい音が、ときおり間をまぜて細く立ちのぼる。
平板なノイズがスピーカーを埋めた。
縦に流れる感じだ。聴き手を飛ばすのではなく、目の前に紗の壁がかかってるかのよう。
ブーストされた音がエコーで揺れる。空虚に寂しく鳴る。
ずしんっ、と響くのは壊れてしまった悲しみか。
この部分は、かなり音に隙間が多い。
鈍く吼えるシンセの音。低音でメロディを奏でる。メルツバウにしては珍しい。
ここから本編の始まり。その前はイントロってとこか。
右チャンネルが低音、左チャンネルが動きのあるノイズ。ギザギザの表面をなぞるように、じわじわ音が変化する。
切ないシンセのメロディが、不穏に顔を出した。
穏やかな音像に、断片的に激しいノイズが挿入される。
くっきりとしたカットアップ・・・とはいえぬ。
激しさと静けさの境目はあいまいだ。
過激さは控え、どこか遠慮を感じる。十二階へのレクイエムか。
轟音一辺倒でなく、小音量のミックスも巧みに混ぜ、音にメリハリつけるのが新しい。
ここに得意の多重録音が活躍してたら。とんでもない傑作になったろう。
一種類のノイズパターンをエコー処理や音量を変えて登場させ、ノイズの服を着せてゆくところなど、いかにも実験風景を作品にしたっぽい。実際のところはわからないが。
激しさと静けさの混在で最後まで続くが、さほど盛り上がりなし。
明治、大正と潜り抜けた十二階へどっぷり思い入れ、破壊を残念ながら聞いたら楽しめるだろうか。
ハーシュよりも音響が好きな人向きな音。
最後はだんだんペースをさげ、唐突にカットアウト。寂しく終わってしまう。
(03/2記)