Merzbow Works
Merzbuta (2005:Important)
All music by Masami Akita at bedroom May 2005
メルツ動物シリーズの一作。"Merzbeat"から表現手段のひとつとして明らかになった、リズミカルなビートものを本作でも集めた。
ダンサブルさを追求せず、連続する音パターンとして、ビートを扱ってる。その冷酷さを動物虐待のメッセージと重ねたか。
紙ジャケの表1はジェニー・秋田による、無機質でつるつるしたCG。豚が人間の骨を咥えてる。
中を開くと"動物の統治では豚でなく人を殺す"のメッセージ。
人間が最高位になりえない、と言うことか。横にラフな絵もあり。折り重なる人間ばらばら死体を豚がかじってる。あんまりリアルすぎてもインパクトが強すぎるか。この絵は秋田昌美自身のもの。
パルス・ビートを強調し、無機質さを前面に出した。カタルシスではなく、無力感を覚える。
PCをメインに作っていそうだが、サイトの宣伝文を見るとアナログ志向も盛り込んだ、とある。野太いシンセの音がそれかな?
全体的にはあっさりした響き。"Merzbeat"以降にリズミカルさへ慣れて、違和感もない。曲ごとにリズムへのアプローチを変えて、バリエーションを出した。
Track
4のキュートさが一番好きだ。
<全曲紹介>
1.track 1 (4:48)
リズミカルなエレクトロ・ビートに乗って、一本のノイズが身を軋ませ、くねらせる。リボン・シンセサイザーのように音程を変えるが、メロディ感覚は希薄。パルスの周期を変化させ淡々と動く。
べたりと足を床にすえ、腰が動かない。どんなにリズミカルでも。上からどんよりと空気が重くのしかかり、耳を淀ませる。
しだいに別のノイズ成分が加わる。破片のような電子音、後ろで蠢く軽い低音。しかし主役は中央でのノイズ。唐突にフェイド・アウトへ。
2.track 2 (7:43)
重心軽いインダストリアル・ビートが基本。しばし足場を微妙な変化で固めたあと、涼やかにホワイト・ノイズ風にメインの轟音が滑り込んだ。
後ろのビートは軽快に弾み、低音が微妙にグルーヴをつける。しかしホワイト・ノイズの圧勝だ。左右のチャンネルから側近ノイズをひきつれて、微粒子を降り注いだ。
いつしかビートも骨抜きにされ、シンセの厚みに紛れてサイケな無拍子へ誘われた。この部分は心地よい。
エンディングで再びビートが登場し、ハーシュと戯れる。でも、この展開は無くてもよかった。
3.track 3
(20:09)
今度はテクノなビートのアプローチ。ハーシュもリズム・ループの一要素にまとめ、せわしなくせまった。エレクトロ・ノイズは冒頭から存在を主張したりはしない。ランダムに息をつくさまは、手弾きかな?
しだいにノイズの比率が高まった。4拍子だがどこかつんのめりそうな、不安定なビートだ。
時間は長いが、さほど音楽に変化は無い。ただリズムと戯れ、進んでゆく。ハーシュの変化はあっても、目立たない。じわじわ溢れ揺らいでも、リズムが耳へ残ってしまう。
低音を搾り出し、ハーシュは存在を主張。しかし、なかなか主導権を取れない。
9分ほどたって、ようやく沸き立つホワイト・ノイズ。太いパルスのリズムはいまだ強靭に響くが、総力戦で上書きし覆うことを試みる。
いったんはノイズ戦力が勝ちを予感させたが・・・やはりシンセが中央で吼えてしまった。
ハーシュをスカートのようにまとい、ビートは身を回す。
唐突にノービートへ。シュプレヒコールのようなフィルター・ノイズが、中央のホワイト・ノイズに隠れて聴こえる。
規則正しいのに不安をあおる。みちみちと空間を埋め、ランダムな世界に。
シュプレヒコールはいつのまにか、呟きに変わった。
活き活きと溢れる高音を強調したエレクトロ・ノイズ。痛快に空気を震わせた。
高まる。音程をわずか上げて。飛び立つ。・・・ビートがもう一度、復活した。
ミックスはビートのほうが優勢。ずしん、ずしん。ランダムな低音の打ち下ろしが響く。崩れ落ちて、幕。
4.track 4 (14:30)
不穏な低音の蠢きと、かちかち揺らぐ硬質な音。こんどは音響系ノイズ・ビートのアプローチか。
4拍子だが、裏拍へびしばし引っかかる。ダンサブルさでは、本曲がもっとも鋭い。
ハーシュ・ノイズがそこかしこで漏れ出るが、いっそこのリズム・パターンだけでも良かった。このパターンは秋田の打ち込みだろう。トラックメイカーとしても秀逸さを見せた。
3分ほどたっぷりリズムを味あわせ、満を持してホワイト・ノイズが降りてくる。前曲のようなビートとのせめぎあいは無く、あくまで風景を飾るように広がった。
淡々と続くため、若干弛緩する。ほとんど明確な展開無い。リズムを強調した弊害か。
ノイズ側へ耳を傾けたら、ホワイト・ノイズや強いフィルター・ノイズが動いているが。
けれどもビートと低音だけは、なんの影響も受けず同じことを繰り返す。継続反復の面白さも理解はするが、メルツバウを聴くときはまったく別のベクトルのため、違和感がぬぐえない。
9分あたりで唐突に起こる、シンセのソロはもっと長尺で聴きたかった。 いつしかリズムと混ざり合い。純化されて前へ進む。
ラストですぱっとリズムだけ取り出し、あっさりと終る。
5.track 5 (2:59)
もっとも痛快さを味わえるトラック。メルツバウらしいかは別にして。四つ打ちテクノの方法論をとった。
ハーシュを彩りに低音で押しつぶし、やがてノイズがぐっと空気を広げる。
ダンス向けならば、この曲こそ長尺でやるべきだったろう。
ところが3分弱の小品。せせらわらうかのように、リズムと遊んであっさりと終る。
展開は無いに等しい。4つ打ちと耳をかきむしるハーシュの奔流が、いきなりカットアウトした。
このまま変化なくBGMとして思いっきり長尺でも聴いてみたい。メルツバウがそんなもの、作るとは考えづらいが。 (2005.6記)