Merzbow Works

Merzbuddha  (Important Records. 2005,UK)

All music by Masami Akita
Recorded and Mixed at Bedroom Sep-Oct 2004
Photo by Jenny Akita

 Importantレーベルとメルツバウの関係は"Amlux"に始まる。ビート強調の"Merzbeat","Merzbird"もここからリリースされた。
 かなり柔軟な発想を持ったレーベルみたい。秋田昌美はメルツバウのイメージをがらり変える作品を、本レーベルから次々リリースしてきた。

 自主製作でなく、世界各地のレーベルから次々にリリースする道を選んだメルツバウ。したがってリリース戦略は、相手任せの要素も強いだろう。
 レーベル・カラーとの折り合いも、今後の活動要因か。ふと、そんな埒も無い考えが浮かぶ。
 
 本盤は日本寺社風味かな。ジャケは大仏の頭へ載った鳩を大きくあしらった。
 紙の見開きジャケ中央には、畳の部屋に正座する秋田昌美の写真と、即身仏みたいなインド系坊主の石仏(?)写真がレイアウト。
 曲名は"マントラ"と題されたバリエーションが3曲収められただけ。

 日本人の感覚で言うと、非日本の味わい。総合オリエンタルな異国の香りが否めない。レーベルはもしかしたら、日本のつもりかもしれないが。
 秋田昌美はその辺、分かった上で作品を造ってるだろう。
 写真も含め、メルツバウ・サイドのデザインだと思う・・・が、コンセプトが先?それとも作品が成立した上での、後付けコンセプトだろうか。
 毎度のことながら、好奇心がうずく。きっちりインタビューされた記事を読んでみたい。

 作品はハーシュ一辺倒でなく、淡々と積み重なる映像的な瞬間が多い。
 内省的なノイズ作品だ。ボリュームを落として、しみじみ味わうのも良し。
 メルツバウの新境地となる一枚。俗世間からするりと体をそらした。

<全曲紹介>
1.Mantra 1
(21:42)

 ノイズ成分は多いが、タイトルより連想する"瞑想"要素が強い。
 冒頭は静かに風切り音と鳥の遠くで鳴く声がミックスされた、自然の風景を強調する。
 電子音が加わるが、世界はまだ生身の空気を漂う。むしろボリュームが上がり、より存在を主張した。

 おもむろに載る、低音のリフ。ごろりと波打つパターンは、感情を排除し淡々と繰り返し。
 奥へ、奥へ。
 拡散ではない。余剰を取り去り、いくばくかのノイズ成分でトンネルの壁をざらつかせた。
 
 ベースのリフで継続さを強調しながらも、上モノはいがいにめまぐるしく変わる。
 立ち位置が危うくなり、聴いてる世界の輪郭がぼやけた。
 暴力的なノイズが無い。ボリュームによってかなり印象が変わった。

 小さい音だと、単調で眠りを誘う。
 しかしわずか大きくすると、情報量が一気に増えた。
 危うさをあおり、中心へぐいぐいひきずるスリルはかなりのもの。メルツバウを聴いて、ストイックさを感じることは多い。たしなめられる気分になることもしばしば。

 しかし本作はこれまでになく、聴き手の不安をあおる。特異な求心力にしびれた。
 ぎりぎりと音は収斂し、余分な空想を狭める。周りのノイズが様々に揺れ、ハーシュの要素が強まってすら、ストイックに音は感覚を吸い込む。

 厳しく痛めつける轟音は無い。なのに空気はぐっと重たく沈む。奥深さをつつましく表現して。
 ならば轟音で聴いたら、印象は・・・?ごめん、まだ試してない。
 
 最後の最後で低音が消え、洗い流すようなしたたりがとめどなく降り注いだ。

2.Mantra 2 (16:52)

 きめ細かなさざめきにベースのループが乗る。勢いに押されたか、微かにさざめきが途切れるよう。奥からまっすぐな光がきらめいた。
 メルツバウに宗教性を求める気はさらさらない。しかしこの音像は、シチュエーションによっては神々しさを産めるかも。

 せわしなく叩きこむ小さな連打。次第に音を重ね、不安定で呪術的な世界の輪郭をはっきりさせる。
 明確なリズムがありながら、ダンサブルさとは無縁なのはなぜ。

 黒光りする唸りが、中央で吼えた。鋭くまっすぐに光が貫く。
 エネルギーが収斂した。細く中央でくるくると舞う。
 
 あくまでベースのループは生かし、上部がじわじわ変わる。メルツバウにしては、音数が少なめ。
 切っ先で中央へ穴をうがつ。奥で漂う電子音は、僧たちの読経を模したか。
 最後は中央でくるくる転がった。

 とても映像的なノイズ。これをBGMにした映像を見てみたい。
 轟音でねじ伏せる要素は皆無だ。あくまでも自らの音楽をあっけらかんとさらけ出した。

3.Mantra 3 (21:01)

 穏やかな脈動で幕があく。次第に音の数がふえていくが、透徹した空気は変わらない。低音の響きは淡々とループし、頭の中で数々の蟲が蠢く。
 鋭く、まっすぐに、煩雑さをそぎ落とし。
 ここでメルツバウは、淡々とノイズで耳を貫く。轟音でも耳ざわりな響きでもなく、まっすぐな信念で。
 聴き手へ寄りかかる甘さは欠片も無い。聴きやすいのに、取り付く島無く進む。唯一、低音ループが足がかりか。

 時間経過は意味を持たない。ひとつ、またひとつ。ノイズが現れて次のノイズへ場所を譲る。
 このスリルにはまると、すさまじく面白い曲だ。
 
 10分あたりではアナログ盤の針飛びのごとく、いつまでも同じ音像が繰り返された。思わずCDをチェックしてしまう。壊れてないかって。
 
 コンセプトを仮想し論じることは可能だろう。しかし音楽そのものの存在感を前にし、虚しさのみがつのる。
 ループをさらに進めた、全体の執拗な繰り返し。輪廻の概念を持ち出したくは無い。その必要もない。
 わずか数秒の全体像が呆れるほど繰り返され、やがて電子ノイズがオーバーダブされたときには、安堵すら覚えた。

 さほど盛り上がり無く、穏やかに音が流れる。爆音で聴いたら、印象変わるかもしれない。
 しかし一般家庭で聴く音量だと・・・怖いぜ。このストイックさは。

 エンディングも力尽きたかのごとく、唐突に手仕舞いされた。   (2006.1記)

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