Merzbow Works
Become The Discovered,
Not The Discoverer
(2019:RareNoise Records)
Drums
- Balázs Pándi
Electronics, Guitar - 秋田昌美
Vocals, Guitar, Bass,
Electronics, Sounds [More Decorous Than Duty] - 灰野敬二
Recorded on 18th of
February 2018, @ la Cave 38 Recording Studio.
安定感あるインプロ・セッション。メルツバウのノイズがギターのようだ。2010年からメルツバウとの共演盤を多数リリースする、バラズ・パンディによるアルバム。
本盤は灰野敬二も加えて猛然たるインプロを聴かせた。パンディは乱打系のドラムだが、変拍子よりもエイトビートを基調に手数多く打ち鳴らすイメージがある。そこを小節感に縛られない、メルツバウや灰野の手練手管との不調和具合が聴きものだ。
録音は18年2月18日。パリのスタジオLa Cave 38で行われた。
このトリオでは"迷惑をかけない無防備 = An
Untroublesome Defencelessness"(2016)ぶりの音盤となる。
各曲20分弱のアナログ2枚組で音源は構成された。
三者三様の音使いだが、馴染んだユニットゆえの安定感がある。最後に灰野が場をさらった感あり。メルツバウの音が相対的にミックスされ、アンサンブルの一員扱いされてるのが不満だ。
灰野に分がある。セッション的にメルツバウは対峙しており、どうしてもこじんまり感が出てしまった。
<各曲感想>
1 Become The Discovered, Not The Discoverer (Part I) 16:09
(1)は前置き無しにいきなりトップギア。立ち上がり部分をカットしているのかもしれない。
ランダムにパンディがドラムを乱打し、メルツバウはノイズをぶわりと飽和させた。灰野は太いエレキギターで、大きく空気を切る。ドラムのビートと合わせず大づかみに。
三者三様のうねりが、鷹揚に吹く。ベテラン二人の佇まいと、パンディの構わぬ荒ぶり具合が特徴だ。
そして灰野とメルツバウもじわじわと加速する。呼吸を敢えて合わせないままに。加速しては緩め、またグイっとアクセルを踏む。停滞や低速までは下げず、テンションは途切らせない。
しかしうねりの幅が大きく、スピード感があやふやになっていく。パンディのドラムを手掛かりにして加速と感じているが、灰野とメルツバウだけならばむしろ緩やかなのかもしれない。
灰野のエレキギターが左、メルツバウのハーシュ・ノイズが右。メルツバウが比較的小さめにミックスされている。灰野もメロディを奏でるわけはなく、歪み倒したギターで吼えるために、パンディの中央に据えたドラムをもとに両翼から定義されない轟音が降り注ぐ。そのさまが心地よい。
エンディングは綺麗に絞られて、幕。
2
Become The Discovered, Not The Discoverer (Part II) 19:27
ここでも探り合いなしに盛り上がる。フェイドインのように三者が音を出し合い、高め合った。構造は(1)と同じ。左右に灰野とメルツバウが分かれて、エレキギターとノイズがそそり立つ。
前曲もそうだが、灰野はボイスを使わずエレキギターだけで相対した。メルツバウと武器を同じにするスタンスか。
途中で明確に三人が音を沈め、場面転換を図る。
パンディはテンポを揺らし、メルツバウは音色の太さを変えて高音に比重をかけた。灰野はロングトーンと間を操る。
ドラムの軽快だが重心の低いドラムが煽り、再び空気はノイズで充満する。灰野が低音、メルツバウが高音域を受け持ったまま。しかしボリュームを上げると、二人の音成分は複雑玄妙で、空気には隙間が無い。綺麗に周波数帯域を分けたミックスとわかる。
灰野がザクザクと刻み、メルツバウがギターを速弾きするように、畳みかける瞬間が勇ましくも美しい。デジタルな周波数変換ではなく、アナログのぶつかり合いだ。
轟音で音圧を浴びると、激しい奔流に感じる。音量を絞ると、ごく丁寧なふるまいの優美さも滲んだ。
この曲ではパンディの乱打もいくぶん落ち着きを持って聴こえる。ぼくがこの音源を聴き進めて、音世界に耳馴染んだだけではない。パンディも緩急を敢えてこの曲では意識していると思う。
ここではまだ続きがあるように、急速に音量が絞られて終わった。
3 I Want To Learn
To Feel Everything In Each Single Breath (Part I) 18:04
(3)はエレキギターをエフェクターでオクターブ下げてるのか、ベースのような低音域で灰野が首をもたげた。弦を爪弾き、フレーズを奏でる。ときおりザラリと音表面が震えた。
メルツバウは軋むノイズで応える。まさにエレキギターを奏でるかのように。この音域を絞るような音使いがカッコいい。
パンディはハイハットを組み合わせて、テンポを重たくキープして重厚さを鈍く太く彩った。
疾走や高速に向かわず、ある種ブルージーにしばらく進行した。いったん音像は明確に収束する。
再び灰野は低音の爪弾きで現れ、探るようにパンディがシンバルで応えた。メルツバウは静寂を保つ。やがて小さく、細かく回転するような電子音を加えてきた。
それぞれが無闇に音を轟かせず、じわじわとせめぎ合う。途中はパンディが一歩引き、灰野とメルツバウの対峙もクローズアップさせた。
おもむろにドラムが軽快に鳴らす。不穏な空気はジワジワとテンションを上げた。灰野は歪みを控えた爪弾きで、メルツバウは高らかなノイズを。
そこへ新たな電子音が現れた。これは灰野だろうか。右チャンネルの音もすかさず呼応して、どんどん飛翔する。けたたましいドラムでパンディは後押し。淡々と、ドラムをたたき続ける。
左チャンネルでは低音をドローンで続けたまま、Air Synthのような風切るノイズが吹き荒れた。
ちょうど一区切りついたところで、スパッと曲は終了。
4 I Want To Learn To
Feel Everything In Each Single Breath (Part II) 19:08
(3)と同様に、肉感的なセッションめいた面持ちあり。こちらは最初から前のめりだけれど。
前半2曲の"Become The
Discovered"が充満と飽和だとしたら、後半2曲の"I Want To Learn To Feel Everything In Each Single
Breath"は対話と間を生かしたインプロだ。
ドラムがテンポを提示して、灰野とメルツバウがてんでに音を出す。こちらも灰野はAir
Synthのような電子音が中心。メルツバウの音と絡みあい、時々どちらがどちらの音か分からなくなることも。
パンディがドラムを続けているが、うねる灰野の周期にテンポ感があいまいになる。メルツバウは音を鳴らし続けた。
本盤はパンディ側がミックスを担当しており、メルツバウの響きがどうしてもこじんまりになるのがもどかしい。三人のバランスを意識したミックスで、メルツバウの過剰さや迫力が減じてしまってる。メルツバウのファンとしては、秋田昌美はアンサンブルの一員でなく主役として轟いて欲しい。
ドラムが手を止め、メルツバウも静まった。灰野がぐわりと歪みを提示して、残響とともに膨らます。
この一瞬が轟音ながら崇高に揺れて、シンバルの斬り込みとメルツバウの再開がドラマティックに演出された。
巧まざるして、この音源の最大の聴きものがこの瞬間。10分を経過したころ。したたかな物語性が圧巻だ。
灰野がメロディアスに歪んだシンフォニックな音を提示して、雄大に世界を加速させる。この瞬間は、灰野が主役だ。そのまま、溶けるように幕。 (2019/9:記)