Merzbow Works
Music for bondage performance(Extreme:1991)
All tracks composed and performed by Masami Akita,(R.B.A.)
緊美研(緊縛美研究会か?)のため、89〜91年に録音された「縛り撮影およびビデオのサントラ」の再構成盤。文字通りSMの中でも縛りに特化した活動らしい。
緊美研で検索してみたが、もし濡木痴夢男が主宰する研究会と同一ならば、2006年現在も活動しているようだ。
縛り撮影がテーマからして、さほど大量の観客が同席していたとは考えづらい。にもかかわらず、これだけ凝った作品を提供する、当時のメルツバウののめりこみ方がすごい。
本盤のライナーでは緊縛の写真のほか、15態の縛り絵、日本語/英語での「日米縄交遊録」なる文も載っている。この文章も秋田昌美によるものかな。
フェティッシュ、エロスにこだわっていた当時の秋田昌美らしい手間だ。
製作クレジットの横にある"R.B.A."とは、ジャケットに表記された"Right
brain audile"の略だろうか。約すと"右脳運動型"になるの?この辺は、良く分からない。通販などのサイトによっては、"Right brain
audile"をアルバム・タイトルとして認識してるようだ。
サウンドはテープ・コラージュを取り入れつつ、リバーブたんまりに録音した、抽象的な音楽。一発録音だろうか。電子音にも聴こえるが、具体音を多用しているようだ。
ハーシュな要素は控えめで、今聴くとかなり耳なじみがいい。アンビエントとまでは言わないが、静かめの音楽構成になっている。
縛りのバックで、どの程度の音量で流されたかは分からない。しかしスリルある音楽が場を盛り上げたには違いない。
音数は少ないが、迫りくる迫力で背筋に心地よい緊張が産まれる。メルツバウのイメージとはかなりかけ離れているが、そうとうな傑作。
<全曲紹介>
1. Hara-Kiri Video 'Lost Paradise' Theme(1991) for Asako(3:05)
バスドラの静かな打音に載って、鼓のような音、さらにモーター音のような響きが左右をゆったりパンする。ジリジリと唸る音。
タイトルの"あさこ"はモデル名か。切腹ビデオとはどういう内容だろう。"テーマ"といいつつ、明確なメロディはない。
鼓とバスドラの組み合わせによる、音のイメージを"テーマ"と呼んだのか。
日本情緒をかすかに秘めた、象徴性を持った素晴らしいノイズ。
最後はバックトラックが消え、フィルターノイズのみが身体を蠢かした。
2. Seishi Seppuku
Kei(1989) :Made for female prisoner in bondage & seppuku Japanese
style(10:47)
B & D performance by Ruka
Mikami in Homo Fixas studio,Yotsuya
最終曲と同様の四谷にあるスタジオで収録されたらしい。さらに深い意味が込められるのかもしれないが、門外漢には良く分からない。
高めの音質で震えるドローン・ノイズ。これが次第に音程を変えて高まる。メタル・パーカッションがじゃりん、と輝いた。
ざりざりと表面を鮫肌のまま進む。底光りする刃の上を渡るがごとく。
高音部だけを取り出し、収斂する凄みが聴き応えある。これはテープ・コラージュでなく、一発録音だろうか。
スペイシーさと混沌を行き来し、モヤがかった空間が朦朧とゆらめいた。
3. Ropes In
Tears(1990):Made for bondage & pipe in western style
(6:54)
B & D performance by Satomi Fuji in Kannon
studio,Shinjuku
前曲と似たテイストで始まるが、鉄琴をグリサンドしたような音像が重なる。深いリバーブは空気のゆらぎすら表現するようだ。
ガムランからの影響を、強引にこじつけることが出来るかもしれない。
エコーそのものの余韻を宙に撒き、静寂をノイズに位置づけた。中盤から鐘の音もランダムにかぶせる。余韻をたっぷり響かせて。
鐘自身の余韻とリバーブとが溶け合い、おそろしくサイケな空間を作った。
後半部分の空気の圧力が、とても心地よい。シンセを使っているのだろうか?
エンディングにかけて、太さを狭めて収斂する。
4. Aimei Nawa
(1989):Made for office girl in bondage in Yokohama
(12:08)
B & D performance by Youri Sunahara
ゴムの表面をこするような音、きらびやかなシンセ風の音色、幾つかの音が絡み合って中央で丸まる。テープの回転を早くしているのかも。
リバーブの感触はあるが、それよりも加速する質感のほうが優先した。
ゆったりとメタル・パーカッションによるビートの提示。ひしゃげた音で、重量感は控えめだ。
じわじわと音が増え、表面が複雑によぎる。ハーシュを予感させるノイズも奥で騒ぐが、すっきりした位置づけ。前へ出てくることも無い。
あくまで中央奥で、不気味にさまざまな電子ノイズが睨みを効かす。
パワーを奥底に秘め、ぎらつくエネルギーをたぎらせる。丸ごと音質を変えているのか、次第に全体像が重たく沈んだ。金物の軋みが歯軋りとなる。
速度は見る見る落ちて、低音の丸まりと軋みがごろりと転がった。超高音のささやきは、時折姿を見せる。
終焉間際では低音へ軸足をシフトさせ、回転するさまを高音金属質ノイズで表現した。
5. 'Lost Paradise' Fire Scene (0:43)
ころころと鈴の音。幾つかをミックスし、あっけなくカットアウト。
おそらく激しい縛りの部分に使われたと推測するが、熱さを感じさせない、逆接的に涼しげなサウンド。
6. Bondage Performance At Homo Fixas (1989&1990)(26:17)
リバーブたんまりのテープ・コラージュか。細部は塗りつぶされ、響きのみが残る。駅を出発するがごとく、ベルが鳴る。いくつも、淡々と。
中央の規則正しい唸りは、モーターの回転か。次第に別の音が速度を増した。
咆哮めいてはいても、どこかコミカル。残像のみで凶悪さを控えたためか。
すっと音が変わった。水中へ軽く潜る。空気の泡をこぼれさせて。軽やかなシンセの数音が、幾度も繰り返された。ループされるパターンはあっても、ダンサブルさとは無縁。どんよりと足元は融け、展開を躊躇う。
数頭の犬の鳴き声。もっと大型獣らしき唸りも。後に動物愛護へ傾倒するメルツバウの歴史を踏まえて考えるのは穿ちすぎと分かっている。しかし当時から無意識化では、動物の鳴き声を素材として意識していたんだ。
どんどん音世界は変わる。低音のうなりはそのままに、オーケストラ・ヒットなどを加えたコラージュに舞台は変わった。
回転数を変え、空白を織り込んで。ぺちゃぺちゃと咀嚼。さらに加速するテープ・ノイズ。逆回転で歌謡曲を流してるのか。
幕がふっと降り、針金弦による琴の演奏へ。奥には虫の声。
それもすぐさま展開し、抽象的な様々なシンセによる落下音の模写と、パーカッションのデュオに。
これらは全て一発録音なんだろうか。場面ごとに編集を施してると思うが・・・もし一発録りだったら、構成力は信じられない物がある。
コミカルなパーカッションや小物の転がる音。リバーブをたっぷり降りかけて、幻想と不安をあおる。
テープ・ループを元に、リアルタイムで何かを軋ませている。回転数を落とした喋りか?意味を排除し、唸りだけが金属質にふるえた。
だんだんテンポが速まり、ビートへ移る。三味線らしき弦をはじく音が一瞬登場し、かちこちと叩く音と金物パーカッション群の乱打へ移った。
リバーブを山ほど引き連れたノイズが中央へのそっと登場する。ひときわボリュームを上げて、ひと鳴き。
せわしないパーカッションの打ち鳴らしが執拗に続く。後ろにハーシュの断片を背負って。軽くパンしながら、リズミカルに。
空白。再登場。空白。
テープ・コラージュへ移った。音像の連続を避けるためか、めまぐるしく音が切り替わる。ストーリー性はあまり感じられない。
アイディアが赴くまま、次々にテープを繋いでいるがごとく。撮影会がどのような進行か不明だが、このめまぐるしさに似合ったのだろうか。
イベントの性質上、音へ耳を傾ける人は、残念ながら少なかったと推測するが・・・。
コラージュはみるみる短い断片を威勢良く繰り出す形に変わった。
音が搾り出され、小刻みなクラシックのコラージュに融ける。
静かな打音が無作為につながれ、コラージュのエコーの噴出にあおられた。
最後は静かに・・・崩れた。
(2006.8記)