Merzbow Works
V.A."Blank Field"(Alien 8 Recordings:2003)
企画盤に参加。スペインの生態学者でもある音響系ミュージシャン、フランシスコ・ロペスがキュレートした。彼は"静寂実験音響"の分野で評価されているらしい。本盤で初めて名前を知った。
クレジットによればカナダはモントリオールで、2002年の9月16〜23日に開催されたイベント"Cite de
ondes"がきっかけらしい。ライブ録音とあるから、この企画で演奏された音源か。編集とマスタリングはロペスが2003年に実施と記載。
参加ミュージシャンは、Manon
Anne Gillis,Oren
Ambarchi,Micheal Norham,オカダ・シュウイチロウ,Daniel
Menche,そしてメルツバウ。
どのミュージシャンも恥ずかしながら詳細不明。
各トラックは9〜14分程度と、どれも長めの尺だ。
スペイシーで抽象的な音楽が続く。特にエレキギターの爪弾きと、小さな電子ノイズが交錯するOren Ambarchiの演奏が気持ちよかった。
曲と曲が滑らかにつながり、統一感を持たせた仕上がりに。
全般的に盛り上がりもビートも無く、ただ淡々とたゆたう電子音。しかし深遠と緊張をもたらし、くつろぎまでには至らない。すっきりと気持ちを酩酊させる音楽だ。
ここではメルツバウのみ、詳述します。
5. (12:47)
タイトルは無し。前曲からクロスフェイドで始まる。不穏な高まりがじわじわと。ビートのうねりをうっすら感じた。鳥の鳴き声が電子変調され、幾度も鳴いては沈む。
低音でループをつくり、中央へ静かに立った。
おもむろにハーシュ。右に、左に、一本立ってまた一本。闇雲に絶叫せず、じわじわと迫った。鳥の声は執拗に続く。低音がぶん、ぶん、ぶんっと進攻。幅広い電子のカーテンが降りてきた。
唐突にランダムなメタル・パーカッション。サンプリングか。テンポはそのままに、みるみる音の表情が変わり、響きが歪んで濁ってく。霧雨の高音、無秩序な低音パーカッション、そしてそそり立つハーシュ。ひとつの世界観を作り上げた。
この音源も、何らかの"曲"を演奏していたのだろうか。時代から言って"Animal
Magnetism"あたりを演奏しててもおかしくない。
一筋、また一筋。ハーシュの奔流が中央で視界いっぱいに広がった。奥ではパーカッションの残骸が転がってゆく。フィルター・ノイズの比率が高まり、きりきりと空気を摩擦し粉砕した。
断続する太いハーシュと空白。最後はフィルター・ノイズだけが低音の影をまとって、静かに立ち尽くした。
ハーシュの文脈でありつつ力技とは違う。ストイックに見つめたひとときの時間。 (2006.12記)