Merzbow Works

merzbird (2004:Important)

Recorded at Bedroom April - May 2003
All Music by Masami Akita

 2002年にリリースされた"Merzbeat"の第二弾だそう。同じインポータント・レーベルからの発売。
 フリー・ビートが得意なメルツバウが珍しく、明確なビートを強調したもの。
 "Merzbeat"は異色作と位置づけてたのに、まさか続編でるとは。だからこそ「ノイズかくあるべし」と決めつけはいけない。

 アートワークはJenny Akitaとクレジットされた。メルツバウの関係者?
 日の丸のもじりとおぼしき表1や、漫画っぽいタッチのイラストを使った表4もさりながら、見開きジャケットの中がとても好き。
 粒子の粗いモノクロ写真の奥に立つ、秋田昌美。ジャケット右下には、イラストっぽい鳥が写っている。

 メルツバウの動物シリーズの一環。前作はアザラシに捧げられたが、本盤ではさまざまな鳥をテーマにしたようだ。
 なおオフィシャルHPでは発表当時に、"「白鷺の舞い」をテーマにした作品。"とコメントあった。

 作品の中にどこまでテーマが反映されているか、メルツバウにしか分からない。
 たとえばある一曲を聴くとき。タイトルが先か、作品に対しタイトルをつけたか。どっちが先か、メルツバウ以外の誰が分かるだろう?
 どちらが先で、どういう思いで作ってるか余人に計りがたい。

 ふっと思った。規則正しいビートって、鳥に似合っていそうだ。
 動物が常に持つビート、心臓や呼吸の鼓動のほかに。鳥は羽ばたくという規則正しいビートも必須だから。

 "Merzbeat"がビートの効いた作品を集めた盤ならば、ここではビートを"一要素"と扱ったように聴こえてならない。
 リズムをノイズと考え、ずらしや重ねて操る。リズムに縛られず、リズムを分解しつつビートを成立させた。

<全曲紹介>
1.Black Swan (9:55)

 ほんのりエッジがさび付いたリズム・パターンへ、ハーシュが速やかに乗っかった。
 曲構成はいたってシンプル。上モノのノイズが次第に膨れ、厚みを増す。ビートの力を借りずとも、スピード感溢れる仕上がりだろう。
 そう、ぼくはメルツバウにはビートの力を借りずとも、ノイズを組み立てられると信じてる。だからリズムを強調した本作に、ためらいが残るんだろう。

 しかし作品は面白い。たんなる構成一発で押さず、上モノがすっと身を引くひとときも。
 マックで波形操作をしてるのか、音の表情がみるみる変わるさまがスリリングだ。
 エッジをやすりで削って角を立ててゆく。吸い込まれそう。
 
 ダンスビートでも成立するが、むしろすり鉢で音をまとめる作業の道しるべに、ビートを使ってるようだ。
 つねに冒頭のパターンは残る。しかし主役はビートにない。
 さまざまな材料を次々提示、混ぜ合わせては表面比率を変える。

 吉祥寺のスタパでやったメルツバウの深夜ライブで、このリズムパターンを聴いた記憶も・・・あやふやですが。

2.Mandarin Duck (5:27)

 ヒスノイズに混ざって、70年代歌謡曲を連想させる、甘さを残したグルーヴは後ろへ置いた。
 "Mandarin Duck"とはオシドリ。ちょこちょこと水辺の草むらを歩く姿が脳に浮かぶ。

 冒頭のグルーヴは一分強で下がり、ヒップホップ調のリズム・パターンに。これは逆にノイズが載っても、ビートの色が強い。
 ライムを乗せたラップでも成立しそう。
 ビートは打ち込みかと思ったが、途中で雪崩れるフィルが連発される。もしかしたらリズム・パッドの指打ちかも。

 実際に秋田がドラムを叩いた可能性もある。が、もしそうならば、かなり音色を加工してる。シンセ・ドラムならたやすく、このテイストは出せるか。ちょっとつんのめり気味のパターンがコミカル。

3.Emu (19:18)

 ぶおんと膨れるシンセの音。絡み合ってリズムを作る。
 アプローチはテクノに近い。リズム・パターンというより、シンセのフレーズが擬似ビートとなった。

 すぐにジリジリと電子ノイズが加わった。息づくような震え。
 奥行きを廃し、ぐっと表面を音で埋め尽くす。
 音の変化はむしろゆっくり。同じパターンが続くと油断させ、いつの間にか配置順序も音色も変わった。

 5分にさしかかり、ハーシュな舞台の幕があく。ドラムが一瞬登場し、消えてしまった。
 あくまでパーカッションは一要素。メインはめくるめくノイズのきらめき。こういう曲、好き。
 さほど切迫感はない。ゆとりを持って、微笑むムード。
 実際のライブを見たら、ありえない光景だろう。メルツバウが演奏中にライブで微笑むシーンって、まずなさそう。

 パーカッションの比率が次第に高まった。ただしリズムはひたすら希薄。単なる打音こそが、音像の中で生息する。
 電子音はもはや風で渦巻き、全てを飲み込んで空虚なフィルターの響きへ変わった。
 
 13分半を過ぎたとき、唐突に世界は全てを捨て去る。新しい場面へ踏み出した。
 リズムの感触はそこまでと一緒。しかし電子ノイズはきれいに消え、低音のにじみだけが残る。

 軽やかに中央でひねりを入れる。登場したハーシュは、スクラッチ・ノイズのよう。
 それまでよりもさらに元気を出して、快活に時を過ごす。曲は唐突に収斂して、消えてしまう。

 ドラムは常に存続。ふっと自分の足を見て愕然とした。いつのまにか、リズムを取ってたよ。 

4.Victoria Growned Pigeon (7:11)

 一転して明確なバスドラのビート。短いサンプリングのループみたい。付点音符を弾かせて、聴き手をあおる。 
 "わっしょぉ、わっしょぉ"って幻聴が聴こえる複合リズムが面白いな。

 むくりと身体を起こした轟音は、早鐘を打つ鼓動を従えて中央で厳格に立った。

 背中から突き動かす。ビートの感触はガバ・テクノを連想した。
 あれよりもうちょい自由度もしくはスペースあるが。

 変貌する音はもちろん存在するが、濃密におっかぶさるビートに圧倒されて、むしろあっさりと時が過ぎた。

5.White Peafowl (5:47)

 Peafowlとはクジャク全般を指す英語らしい。馴染み深いpeacockって単語はオスのクジャク。Peahenがメスのクジャクと辞書にある。

 ノイズ・ループの合間を縫って、パルスがせわしなく上下し、リズムとなった。やがてリズムは散漫になり、鳥のさえずりを模した。

 上に乗ったノイズ群はしごくシンプル。同じパターンを執拗に繰り返す。
 曲の主役は、埋もれがちなさえずりノイズなんだろう。聴こえるバランスも絶妙で、コケティッシュな小品。 
 さえずりだって黙ってない。時にドスを効かせ存在をアピール。ふてぶてしいぞ。
 
 ラストはほぼアカペラで、さまざまなさえずりを聞かせた。

6.Brown Pelican (5:58)

 最後は濃密な雲を突き進む。シンセのつんのめる響きにビートを意識した。わずかに小さく鳴るハイハットもどき。
 リズム・ボックスの音をぐしゃっと加工したような、シンプルな曲だ。
 つかみ所がほとんどない。聴きやすいよ、たしかに。でもそれだけじゃない。

 規則正しいリズムだから、フロアでも成立するだろう。しかし微妙に4つで割りにくい。小節の頭を見つけづらいんだ。5/4+4/4+6/4かな?うー、自信ない。
 拍を数えてるうちに、あっというまにエンディングだ。なんてこった。

 曲は情け容赦なく、何の脈絡も無くカットアウトで終わる。
 この曲だけ延々と、CD一枚に伸ばしたやつを聞いて見たい。メルツバウとしてはとても異質だが、電子音楽として極上の作品だ。

 (2005.5記)

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