Merzbow Works
Merzbear (Important Records:2007)
All music by Masami Akita
Recorded and
mixed at Bedroom in Tokyo,November 2006
メルツバウの動物シリーズの一環は、熊がテーマ。本レーベル特有の、メルツバウにもじったタイトルをつけた。
ジャケットは二頭の黒い熊。白目のみにむき出しの牙。爪をふるい、敵意を感じるほど。裏ジャケには日本語の散文詩。強烈な動物愛護と人間不信のメッセージを突きつけた。ビーガンから一歩進んだ主張を織り込む。
収録曲はアルバム・タイトルを冠したpart.1〜4までのシンプルなもの。全てのメッセージを単刀直入に音楽へぶつけた。50分程度とコンパクトにまとめ、LPサイズでもぎりぎりはいるほど。あえて長尺を避けたようだ。
中ジャケの演奏風景ではパワーマックに加え、ミキサーやアナログシンセ、自作のノイズマシンやドラムセットが写る。ノイズマシンはばねを中央に配置した、ギター風にも操れる代物。07年のライブでも使用していた。
この時期のメルツバウはパワーマック一辺倒から足を踏み出し、またアナログ回帰の様相を呈す。ループを加工するメカニカルなアプローチに、偶発さと肉体性のアナログ要素を織り込むことで、より生々しさを探っているのか。
全体的にサイケな感触。機械と肉体の両要素を巧みにまとめ、激しいハーシュのうねりを作り出した爽快な作品。力任せでなく、飄々とノイズを操るムード作りが、いかにもメルツバウらしい。
メルツバウ初心者にもお薦め。
<全曲紹介>
1.Part.1 (8:20)
ループと思しき静かな唸りが幕開け。次第に混沌さが立ち上がり、吹き上がる。
低音の貫きが間をおかずばら撒かれ、不穏さを見せた。歪んだエレキギター風の轟きが音程を僅かに変えつつ膨らむ。速度を上げるフィルター・ノイズ。
複数のハーシュが平行で蠢き、あえて主役を立てない。
じわじわとフィルター・ノイズが生々しく動き始める。低音のうねりがリフのように奏で、ノリを産んだ。ビート楽器が皆無にもかかわらず、感触はとてもリズミカル。
メタル・パーカッションめいた音の、散発的な乱打が。
肉厚なアナログ・シンセが響く。腕を力なく振り上げるがごとく。
さらなる盛り上がりはなく、しゅうっと音が閉じた。
2.Part.2(9:55)
前曲のベースとは違う、シンプルな金属質のノイズのベースが2拍のパターンを執拗に刻む。パーカッションの乱打は音飾を変容させ、フィルター・ノイズに収斂し加速する。
同様の人力ノイズがシンセと絡み、厚い音像を作った。
ボトムのリフはいつまでも続き、主役は震え轟くハーシュが果てしなくうねる。いくつかの音源をじわじわと持ち出し、複雑な世界観を作った。
貪欲に音像を紡ぎながらも、基本となるトーンは変えない。重厚でパワフルな音の壁がざらついた表面を見せつけ、聳え立った。
3.Part.3(15:17)
さらにシンプルなパルスのループがバック・トラック。もはや主役は前面のフィルター・ノイズへ軸足が移って来た。リズムの断片が骨格だけ残し解体される。ときおり、ぷしゅうっと噴出すノイズが、アナログ・シンセと混ざった。
ループがいったん加速し、すぐさまスピードを落とす。変化を匂わせつつ、開放しない。太い電子音のパルスが矢継ぎ早に震えた。
背後のハーシュは空気を切り裂き続ける。だが、一気に前へ出ない。
音像全体が太く捩られ、加速へ。別のシンセが、ずいっと前へ。一度は全ての音像を蹴散らしたが、間もなく元のノイズらが復活。あわせて震え続けた。
やがて全体がハーシュに侵食され、軋みが続く。煌びやかなシンセが軽やかに踊った。
複数メンバーによる即興セッションを聴いてるかのよう。ベクトルは一つながら、いくつかのノイズが統制を取らず、ランダムに吹き出た。ソロを回すかのごとく。
12分を過ぎた辺りでループ部分を消し去り、豪腕な切り先が辺りを蹴散らす。残骸の平野の上で、隙間の多いハーシュが咆哮した。
地面から噴出すノイズの奔流が空気を埋め尽くし、うねりを纏って濃密に染める。
最後は力尽きたように、音を落とした。
4.Part.4 (16:04)
いきなりのフィルター・ノイズ。極低音のループを足場にした。音程低めなアナログ・シンセが露払い。空気をざらつかせ、鋭く吹き抜いた。うめき声めいたノイズが数音。
間をおかず強烈なノイズが隙間を潰し、さらに新たな奔流が上塗りされる。
音像全体が不規則に脈打ち、一丸となって世界を震わせた。脈動ではなく、揺らぎとして。
本盤のクライマックス。ループを下味に、上物でノイズを動かす方法論を前3曲で試行錯誤の後、本曲で豪快に炸裂させた。問答無用の肉体性を、もっとも感じさせる。
論理や整合性を脇に置き、上物のノイズは活き活きと野太く蠢く。ベースとなる音も次々に形を変え、安定を望まない。
時にメタル・パーカッションをぎざぎざに解体した音が放出され、頑健な低音はスピーカーを振動させた。
テクノっぽく低音シンセの4つ打ちめいた場面すら登場。ブラスト・ビートへ加速した。
一時も立ち止まらない。メルツバウはアイディアをつるべ打ちに音像を組み立て、猛烈に前へ前へ進む。この曲ではパワフルさがひときわ目立つ。
低音のふくらみはしゃにむに噴出す。高音のランダムな轟きは続いているが、奔出する低音のインパクトに息がつまるほど。
音のテンションが、まったくさがらない。いきなり低音の重石が消えた。高音がここぞとつんざき、そのまま終焉へ。 (2007.12記)