Merzbow Works

A Taste of...(Mego:2002)

Cooked at bedloom,Takinogawa 2000-2001
All music by Akita

 料理に見立てたメルツバウ。コンセプトは「レシピ付のCD」だ。
 ジャケットに「録音」でなく「料理」とクレジットされてておもしろい。
 MEGOからのリリースはこれが初めて。意外。

 「Cookie scene」02/12(vo.28)号のインタビューで、秋田昌美が語ってる。
 MEGOと交流が始まったのは、96年にウイーンやザルツブルグでやったメルツバウのライブから。

 いっぽうメルツバウもメゴのメンバーを呼ぶ。01年に横浜トリエンナーレでイベントの時だ。
 そのとき日本で数度のライブが実施され、北九州での食事中。
 MEGOのピタ(Peter Rehberg)からコンセプトを提案され、本CDとなった。
 
 紙ジャケ(デジパック?)のタイプも見かけたことあるが、ぼくが持ってるのは普通のプラスティック・ケースの盤タイプ。
 中には一枚/一曲のカードが入っており、それぞれ料理のイラスト(写真のデジタル加工?)が添えられた。
 オリジナルの絵は60年代後半の料理本からの引用だそう。

 別パッケージのCDではどうか知らないが、プラケ盤は具体的なレシピって特に記載ない。
 裏ジャケの曲表記で、食材名が羅列されてるくらい。
 どうせならとことんこだわって作っても面白かった。
 たとえば一音=一食材に喩えて作るとか。煮たり焼いたりの料理法をエフェクトに喩え、炒め物の料理だとしたらそのエフェクトを使うとか。

 実際にメルツバウの曲を聴いてると、まずは自由に製作して後付けでコンセプトをくっつけてるような気もする。
 音が面白けりゃ、どっちでもいいか。

 音としてのテーマはなんだろう。
 複数サンプルによる濃密な世界の構築とコラージュと解体、さらにノービートのドローン・・・かな?
 メルツバウ流にさまざまなアイディアが混在して、「これだ」と言い切れやしない。

<全曲紹介>

1.Sponge octopus
(3:59)

 ポップコーンがはじけるような音をループさせる。バックで唸るはレンジの火か。
 まずはじっくり炒めて下味をつけなきゃ。次第に火力が強まり、ときには激しくかき混ぜる。ところどころ焦げちゃってるようだ。
 
 うにょうにょっとペーストを入れ、一気に混ぜてみよう。
 深鍋に入れて煮た。突拍子もなく鳴る音は一体なんだ?
 
 エレクトロノイズが軽快に鳴り、リズミックに転がる。
 火からおろしてもう一度。
 いきいきとノイズが跳ねた。
 
 ざーっと上からソースをかけ手早く盛り付ける。隅っこもきれいにまとめて・・・。
 はい、できあがり。
 唐突なにカットアウトだが、終わり方に不自然さは無い。

2.Turban shell blues(15:25)
 
 前曲からメドレーっぽく始まった(曲間はある。)
 コラージュっぽい音作り。MEGOからのリリースを意識してかな。

 ループを前提にして浮遊感を出す。
 ときおりビートらしきものを提示するが、さほど昂揚なし。
 あまりに淡々と進み、そっけない。
 音像自体は数種類のノイズを重ねて、複雑な構成なんだが。

 3分半くらいでスクラッチ風の音が、ふわりふわりと舞う。
 安っぽい破裂音と語らって、重心軽くランダムなステップを踏んだ。
 
 いきなりバックの音が消える。スポットライトは中央へ集中。
 ハムノイズでじわりと、スモークのように下を這わす。
 あくまで隙間は多めに、ランダムにスクラッチ風な音を動かした。

 いつしかバックの音も、じわりじわりと壁を浸食し覆ってゆく。
 かすかに後ろで聴こえる、猫を模したノイズ。
 幾重にもハーシュが包み、膨らんだ。

 ドローンを生かし、ビートを散発的に打つ。あくまでアクセント。
 主はハーシュがまるでマントみたい。
 ずしりと両肩にかぶさって、前のめりな姿勢を強要する。
 
 小さ目の音で聴いてると、意外にまったりした。
 細かい音色の変化に耳を傾けるのもいいが、むしろ音像にたゆたうほうが気持ちいい。
 特にラスト数分の絨毯攻撃がいい。右チャンネルは低音パルス、左チャンネルはハーシュの静かなせせらぎ。
 くっきり別にミックスしてる。

 こうして感想を書いてても、ぼおっと聴いてるほうが馴染めた。
 15分程度の作品だ。この空気へ頭を突っ込むと、一秒一秒を濃密に感じた。

3.Tempara in mess garden(Frog vartaher 011101)(22:26)

 時の経過とともに、音の表情がくるくる変わる作品。

 まず、きゅきゅっと収斂する音は、油ではじける食材かな。
 あっちへコロコロ、こっちでぷつぷつ。賑やかにキュートに転がる。
 ハーシュの衣が周辺で細かくはじけ、隅から丸まる。

 複数の音をループさせてると思うが、それぞれの周期をバラバラにして、リズムらしきものは特に感じられない。
 パルスがいくつも並列する。

 ハーシュがいったん音像を塗りつぶし、別の場面へ切り替わった。

 こんどは少々、くっきりしたノイズへ。
 ループが明確になり、インダストリアル的な表情も見せた。
 しかし過激さは控えめ。普通のボリュームで聴いてる分には、って前提条件付だが。 
 個々の音を聴き分けられるほど、くっきりしたミックスだ。

 足元にぞわぞわと低音が蠢いてる。ボリュームでっかくしたら、凶暴に襲い掛かるだろうな。
 時間がたつほど、音の肌触りは金属っぽくなった。
 淡々と左チャンネルで、シンセっぽい一打ちがループする。

 崩れ落ちる重戦車が、じりじりと前へ進んでいくようだ。
 進行を止められない。
 ばらばらと破片を撒き散らしつつ。破壊力を前面に出さず、次第に近づく。

 中盤で切り裂くノイズも登場した。鋭く横断、無機質に立ち尽くす。
 視線がうつろに彷徨う。轟音で押しつぶさず、ストイックに内面へ沈むかのよう。

 12分を過ぎた頃。やっとノイズが解放された。
 賑やかに四方八方へ吹き飛び、溢れた。縁はあくまで丸っこい。
 明確なループが同時進行するのに、やはりダンサブルなイメージは希薄だ。

 16分直前で、唐突にカットアウト。
 生演奏っぽいドラムが繰り返される。リズムは6/4拍子ってとこか。
 しばし聴かせたあと、おもむろに粘っこくも空虚なノイズが覆いつくす。
 この瞬間がスリリングで好き。

 あとはエンディングまでじわじわと変化が続く。
 余韻をあいまいに。さまざまなサンプルがランダムに登場、一瞬だけ自己主張しては消えてしまう。

4.Sponge carp(7:12)

 軽やかな蒸気機関。いや、霧笛か。じわりじわり回転数が上がる。
 きれいな響きのノイズなのは、低音成分がさほどないせいか。

 くるくる混ぜ、鋭く材料を振り入れる。
 テンションは上がるふりだけ。速度はかなり上がるが、上辺だけせわしなく。胴はがっちり動かない。

 とにかくシェイク。ぐるぐる回れ。
 細切れループを、つぎつぎ叩きいれる。ハーシュっぽいが高音成分中心で、コミカルさが先にたつ。

 キュートな粒々が沸き、表面はどろっと溶けてきた。
 複数のパルスが乱立し、ビートは意識できない。ループの繰り返しこそあれ、小節感は皆無だ。

 聴きようによっては、軽快なエレクトロ・サウンドかもしれない。
 大きな展開はなく冒頭から、ひたすら材料が登場しては回転してく。
 ラストは複数の余韻がじわじわっと消え、静寂が戻る。

  (2003.7 記)

一覧へ

表紙へ