Merzbow Works

Andre Sider Af Sonic Youth (2008:SYR)

Sonic Youth
Kim Gordon - guitar, trumpet, voice
Thurston Moore - guitar
Jim O'Rourke - guitar, keyboard, tape measure
Lee Ranaldo - guitar, cracklebox, bells
Steve Shelley - drums, percussion

Additional musicians
Mats Gustafsson - winds
Merzbow - laptop

 混沌な一時間の記録。逆にメルツバウは目立たない。

 ソニック・ユースのライブにマッツ・グスタフスンとメルツバウが参加した音源。ソニック・ユースは"Dirty"(1992)を聴いたくらい。無知に近い。グスタフスンもフリー・ジャズ文脈でよく見る名前だし、何枚かは耳にしたが主軸として聴いては来なかった。
 従ってぼくはこの盤をきちんと、聴き取れていないと思う。メルツバウはあくまで素材としてバンド・アンサンブルに溶け込んでしまっているし。

 本盤は05年にデンマークで行われた伝統的なロック・フェス、ロスキルドでの演奏を収録した。この年は一週間で約9万7千人を動員。ブラック・サバスやブライアン・ウィルソン、フー・ファイターズやグリーンデイにデュラン・デュラン、スヌープ・ドッグと多様なミュージシャンが出演してる。ジャンルを問わぬイベントのようだ。

 ソニック・ユースの本盤は一時間ぶっ続けのトラックだが、出番がこれで全てか前半の曲はカットなのかは不明。さすがに約10年前だと当時のタイム・テーブルもネットに見つからず。買った当時に調べておけばよかった。

 本盤の発売元なSYRはSonic Youth Recordingsの略。メジャーとは別の体系で音楽を発表する自主レーベルのインディで初めてリリースは97年。本盤は8作目にあたる。毎回、別の言語をタイトルにつけるのが特徴だそうで、本盤は録音場所を踏まえてデンマーク語が使われた。
 未だこのレーベルは活動を続けてるのかな。本盤のあと、"SYR9: Simon Werner a Disparu" (2011)が発表された。

 全体はひたすらノイズがばらまかれる。混沌なインプロが一時間ぶっ続けのようだ。後半がメルツバウの出番かな。剛腕ハーシュが轟き、カットアウトで歓声が沸く。
 エレキギターのノイズではない気がする。

 当時はギターほかでソニック・ユースに参加してたジム・オルークが本盤のミックスも担当。すべてをフラットに埋め込んでしまい、地味で破綻の無い世界観にまとめた。

 前述のとおりぼくはソニック・ユースの音楽性をほとんど知らない。したがって本盤は今一つ楽しめない。ここでのいわゆる即興も、思いつくままの意味が強く、ほんとうの意味でのインプロビゼーションが持つスリルや魅力が希薄だ。いわゆるポスト・ロック的な淡々とした無秩序なインプロがひたすら続くためだ。

 メルツバウのノイズも音像の一要素に埋め込まれてしまった。これはもっとソニック・ユースに詳しい人こそ、楽しめる盤と思う。
 本盤ではメルツバウが単なる彩りゲストにとどめてしまい、音楽的なバトルの醍醐味にまで昇華していない、とぼくは思ってしまう。
 
 終盤9分余りの断片的な映像がYoutubeに残ってた。機材でテープを振り回すジム・オルークの姿が印象深い。ストロボがたかれ続け、なんとも好き放題なステージだった様子は伝わる。はっきりとは見えないが、メルツバウのラップトップ画面が見えるところも嬉しい。もっと酔って、明確に見せてくれ。どういうふうに波形操作してるか、興味あるじゃないか。
https://www.youtube.com/watch?v=qAXVF65iUM4

<全曲紹介>

1.Andre Sider Af Sonic Youth 57:32

 全曲と言っても一本勝負。いきなり演奏が始まる。サーストン・ムーアと思しきギターのかき鳴らしとランダムなキム・ゴードンの歌声。あとはドラムが無秩序に打ち鳴らす。
 いきなり歓声が高まるのはなぜだろう。メンバーの誰かがステージへ登場か。パンキッシュに盛り上がるさまは、頭ではノイジーでかっこいいと分かるのだが。いまいち燃えない。この辺は好みの世界。ご勘弁を。

 途中からグスタフスンが加わり、軋むサックスをばら撒く。やがてメルツバウも加わって轟音ノイズを奔出。それが本盤の基本的な構成だ。メリハリも超えた自由度の高さが魅力とは思うが、サウンド自体ものっぺりとまとまってしまい、なんとなく覇気がない。

 ソニック・ユースはテクニカルさでなく、気だるげな無秩序と激しい混沌を無造作に交錯させた。たぶんこれはライブで体験しないと魅力が半減だろう。
 グスタフスンの吹き鳴らしも欧州フリー・ジャズ直系の激しさを持ち、誰にも潤いや余裕がない。

 メルツバウの参加はたぶん後半から。ラップトップのみを演奏らしい。ハーシュノイズを生演奏の主にギターソロへ溶け込ませた。
 
 アルバム全体としては冒頭のソニック・ユース主体の混沌から、暴れるグスタフスン、そしてメルツバウにつなげる格好。うーん、もう少し聴きこんでみるか。どうもこの盤は、しっくりと自分の胸に魅力が落ちてこない。

   
(2017/5:記)

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