Merzbow Works
Aqua Necromancer(1998:Alien 8 Recordings)
All composed and performed by Masami Akita
MA
plays:tapes,noise electronics,Moog,EMS,Devices
Recorded & Mixed at ZSF
Produkt Studio,Tokyo April - May 1998
どこかこじんまりした印象の作品。
本作でメルツバウは数々のプログレからサンプリングした素材を使い、ノイズと混ぜ合わせたそう。
「この部分がXXXから取った素材だ」って断定できるといいんだけどね。残念ながらそこまで知識ない。
秋田昌美によれば、ル・オルメ、フォルミュラ・トゥレ、VGG、パトゥーなどからサンプリングしたという。マニアックなとこから持ってくるなぁ。
ノイズではあるが、そうとうポップな印象ある。ビートがくっきりしてるのと、高音強調のせい?
顕著なのが(3)。フロア意識の曲かと誤解するくらい。
本作は上記のサンプリング元を知ってたほうが、より楽しめるかも。
元ネタを知らないため普通に、コラージュ多用のノイズ作品として聴いちゃった。
後に秋田昌美はPCに特化した創作へ傾倒し、ループも重視するようになる。
本作はその先駆けや試行錯誤という位置づけも成立するだろう。
<全曲紹介>
1.Aqua Necromancer (7:33)
規則正しく軋む音がイントロ。すぐにぶわわっとフィルター・ノイズが覆い尽くす。
水の奔流を表現か。
そして再び軋みが・・・交互に音像が変化。ローター音みたいなのも加わった。
ノイズはピッチを変え、次第に高まる。
基調パターンは一定だが、微妙に音色が変わった。
ぐいぐい厚みが先鋭化し、書き割りのように虚しく立ち尽くす。
3分50秒あたり、後ろで鳴ってるロック・バンドの音がサンプリング?。
ドラム中心のサンプリング・ビートが、執拗に繰り返す。
表面をわずかに電子音やメタル・パーカッションで彩りながら。
最後はいくぶんきらびやかに。
2.Contrapuntti Indian (12:42)
1曲目から間をおかず、すぐさま曲が始まる。
冒頭からサンプリングっぽい音(回転数を上げてそう)の交錯。そこへホワイト・ノイズが侵食した。
ノイズ同士の対話やテープ・コラージュっぽいつくりが多い。
初期のメルツバウ作品でコラージュはやりつくしたが、サンプリングで興味が復活したか。
作品構造はシンプル。
右チャンネルで延々とループさせ、左チャンネルで重心軽くハーシュが飛び交う。
カット・アップやミックス・バランスの変化など、目先は頻繁に変わる。
しかしシンプルであるがゆえに暴力性を押さえており、ぼんやり聴いてたらすぐさま時間がたってしまう。
3.Soft Drums (9:10)
複数の鋭利な発信音。タイトルどおり、ぐしゃっとしたドラミングのぶちまけ。
上物はハーシュ・ノイズ。中央、左右が妙に広々したミックスだ。
ドラム音は上下をぶった切り、ひしゃげた打音でループされる。
テンポが速いので、ダンス・ミュージックって感じしない。せわしなさが面白い。
じわじわ上物が入れ替わるものの、基本リズムが変わらずもどかしい・・・と考えかけた4分ぐらい。
すべてをハーシュのカーテンが覆い尽くした。
のっぺりと波打ち、うごめく。
ときに金属鳥のさえずりを織り込み、一転しムードがなごむ。あくまでメルツバウ流に、ね。
そのままエンディングへ滑ってゆく。
ラストはほんのりコミカルな響きも取り混ぜた。
しかしこう前後半で、違う表情も戸惑う。
いっそ前半のドラム音を、徹底的に弄ったほうがすっきりしたのでは。
4.Contrapunnti Patto (17:19)
空虚に響くシンセ・・・いや、ピアノかな。
サンプリングをイントロに、ごっしゃがしゃと賑やかに踏み鳴らす。
脈打つパルスでビートを支える。うねりがポップだ。
ひっきりなしに出入りするビートは、もしかしたらサンプリングでは。
前のめりに引っ張るグルーヴは、当時のメルツバウだと珍しいパターンでは。
ぼんやり四拍子の感覚が残る。
フロアで踊る連中のざわめきをノイズで表現したかのよう。
単発的なノイズが、さっと閃いては消える。
6分半前後に、いったんドラム・サンプルのみ抽出。
パターンとリンクして左チャンネルで、鋭利に同期するフィルター・ノイズが気持ちいい。
ここからよりDJ要素が強くなる。フロアでも成立しそう。
ブレイクも取り入れ、ノイズがスクラッチみたいだ。
派手な炸裂も、直後のリズム復活で混沌を整理してしまう。
ビートとノイズが絡んだ良い曲。かっこいいな。
ただし最後まで集中力が続かない。メルツバウに求めるノイズとはちょっと違うんだが・・・。
エンディングは無表情なノイズが連綿と続いた。
5.Farsa Del Buen Vivir (3:53)
歪んだサンプリングをループさせ、ハーシュでぐさぐさ突き刺す趣向。
淡々と刻むループに違和感あるが、賑やかなノイズへ耳を傾けると悪くない。
ループは右チャンネルを定位置に、左チャンネルのノイズと渡り合う。
たまに居場所を入れ替えたりも。
唐突に右チャンネルのループへ左チャンネルが襲い掛かったりするミックスが面白かった。
ノイズ版トム&ジェリー。・・・何の脈絡もないが、ふっとそんなイメージが浮かんだ。
(2004.1記)