Merzbow Works
V.A."An Anthology of noise & electronic music/third a-chronelogy"(Sub Rosa/2004)
1954年から2004年までの電子音楽を編纂した2枚組。タイトルが示すとおり、本アンソロジーの三作目。メルツバウは本盤が初登場になる。
(2006年6月現在、4作目までリリース済)
むろんこのボリュームで長期間のノイズ音楽を概観できるのは困難であり、編者の恣意がはいってる。
しかし4枚目までのラインナップを見ると、かなりバラエティに富んだ顔ぶれだ。ぼくは本作しか聴いていないが、電子音楽好きには欠かせない良質なシリーズになりそう。
アカデミックなクラシック分野ではなく、あくまで大衆音楽路線のノイズを集めたようだ。
収録は派手なハーシュは少な目で、むしろスペイシーで静かなサウンドが多い。したがってBGMでゆったりと聴くかたちか。スピーカーへ対峙して、じっくり集中力をたもたせるにはなかなか辛い。
英文の詳細ライナー付。読み応えある。正直、まったく読んでいません。
収録者のバイオグラフィや収録曲への簡単な解説があるみたい。
経年順でなく、ランダムに並ぶ。盤としての一貫性を優先した。
ほとんどが既発曲のようだが、メルツバウは新録音を提供した。クレジットがなく、詳細は不明。
刺激が少ないのでパワー・ノイズ好きよりも、ミニマルや静寂音響系が好きな人ならば楽しめると思う。
ここではメルツバウの作品のみ、詳述します。
<各曲紹介>
Disc 1-11 "Birds and Warehouse"(11:30)
2004年の録音、とのみクレジット。詳細は記載無い。おそらくメルツバウの他作品と同様に、自宅で録音されたものだろう。動物愛護に傾倒した、鳥シリーズの一環としていいだろう。
泡立つ電子ノイズは餌をついばむ鳥たちか。実際の鳥の囀りそのものをサンプリングして、電子ノイズと混ぜた。野鳥とニワトリの両方が聴こえる。 ときおり炸裂する、ハーシュ・ノイズの地響き。もっともカットアップで、静寂さと行き来する。
ハーシュ・ノイズでありながら、どこか静かな音作り。この盤の他曲と、調和が取れていつつ、頭ひとつ抜き出た過激さを成立させたバランス感覚がさすが。
かなり細かいところまで、メルツバウは本アンソロジーの音楽性を確認のうえ、曲提供したのだろうか。
変調された鳴き声は低音を強調され、電子音の砂塵と混ざり合ってゆく。
夜明け前。テレビの放送が終り、画面は砂嵐が舞う。外でときの声を上げ、活動を開始する家禽たち。同時並行の混沌がノイズで表現したか。
奥底で通り過ぎる低音は、自動車のエンジン音みたいだ。
鈍く叩く音は、家人の足音か。早朝の活動が始まる瞬間が脳裏に映る。秋田昌美の頭には、こんなノイズが浮かんだのか。なんだかワクワクする。
7分を過ぎたところで、ループに明確なビート感が付与された。くつくつと朝食の味噌汁が沸き立つ、鍋の中かな。
そして軽快に舞ってゆく。
ループを多用して、同じ音像が執拗に繰り返される。じわじわと新たな響きに変貌するさまは、メルツバウのお家芸だ。
とはいえ本作ではあくまで淡々と、電子音が続くのみ。
すなわち、過激さを求めると物足りない。変化球のメルツバウ。 (2006.6記)