Merzbow Works
"Last of Analogue Session"(Important Records)
Masami Akita plays Self-built junk with comtact mics,various filters and ring modulators,various effects pedals ,EMS Synthi A synthesizers,EMS VCS3 Synthesizer,tapes,EXD,Drum machine and Oscillators,
唐突にリリースされた3枚組ボックスの限定盤。ラップトップに移行する直前、アナログ機材での未発表作品を集めたもの。録音クレジットがほとんど無く、詳細不明で残念。
黒い紙製のボックスに収められた3枚は、なんだか高級感が漂うデザイン。ペラペラの紙だけどね。
おまけでメルツバウの文字を縫った、中国製のワッペンが封入された。
とにかく根本的にクレジットが少ない。曲名も不確かだ。曲名に秋田がどれほど軸足を置いてるかは不明だが、ひとつのとっかかりとして曲名も知りたい。
録音クレジットもかなりあいまい。レーベル側の志向か、秋田の意思かは分からないが・・・。メルツバウとしては倉庫の奥にあるアウトテイクのリリース、程度な思い入れなのだろうか。
無造作に未発表作品を集めた趣。かなりバラエティに富んでおり、入門にいいかも。アナログ時代特有のパワフルさが詰まっており、痛快だ。
惜しむらくはまったく別々の作品を集めたゆえ、視点があいまいなところ。強烈な急進度を求めるなら、別の作品を手に取るべき。
ミッシング・リンクというのは大げさながら、アナログ時代の未発表曲を聴きたい人には堪えられない一品。もはや後戻りは想像しづらいから。
"Catapillar"(1997)
"1930"、"Pulse Demon"と同時期に製作された音源が元。今回のbox化にあたり、英FatCatのコンピ(未聴)に収録のDubトラックを追加した、と当時のオフィシャルHPでコメントあった。
ジャケットは秋田昌美による。イギリスのバンドCatapillarの1stアルバム"Catapillar"(1971)の絵を、アザラシとメタモルフォーゼさせた。
曲目はジャケットのどこにも書かれていない。
当時は「リズミックすぎる」と発売を見合わせたそう。のちにダンサブルな作品を、あっさりとリリースするメルツバウ。当時の心象風景が興味深い。
強烈なパワー・ノイズが続くが、緩急を利かせた構成だ。作りこまず、あっさりとノイズを叩き込んだ印象。
<全曲紹介>
1. (6:34)
しょっぱなからスピーカーを埋め尽くすハーシュが轟く。
右チャンネルで小刻みに震える揺らぎ、左チャンネルは吹き荒ぶフィルター・ノイズ。
時間をかけて融合する。中央にノイズをほとんど定位させず、左右から覆い被さって轟音がうねった。
高速ミニマルと捉えればリズミカルともいえる。しかしこの曲はしっくりとメルツバウ作品って印象で、耳に馴染む。
2006年の今聴いたから、感じたのかも。録音当時ならば、たしかに違和感を覚えたかもしれない。
ノービートではなく、くっきりとパルスが一定の脈動を定義するため、ある種類の整理は間違いなくある。
一面を真っ白に変える、鋭いフィルター・ノイズの快感がたまらない。
最後の最後、左チャンネルで極太の電子音が唸りを上げて身を捩じらす。
右チャンネルでは、かりかりと刻みが。
2. (5:43)
後のパワー・マックによるループ志向への流れがよく見える。中央での脈動はきっちりと継続した。
ぴんと張ったゴム風船の表面を撫でるような、びりびりゆらぐ響きがきれいだ。もちろん音色は電気仕掛けのハーシュ・ノイズ。
隙間を生かしながら、複数の音を立てて奥行き深い音像を作った。ダブ風のミックスが不安をあおる。
後半で強引に破裂する。ざらざらと錆び付いた表面がそびえた。粉が前面にスプレーされ、塗り替えてゆく。
しかし冒頭の脈動は、かすかに存在を主張し続けた。
3. (7:00)
前曲の脈動は継続した。ふるいの上でざらざらと転がされる、ビー玉大の鉄球が、押しつぶさんと左右に動く。
きめ細かな動きは、次第に早くなる。この曲まで行くと、リズミックと呼んでよさそう。
けれども「一定のパルスが継続する」だけであり、小節や盛り上がりとは無縁なビートだ。
空虚さを感じた。中央でときおり、ふとい電子音が裾をひらつかせて動く。しかし音世界を支配できない。
あくまで存在の主張にとどまり、軸を掴んだのは右チャンネルの脈動。
すり足でじわじわ近いた。ハーシュの混沌をパルスの厳格さへ溶け込ませるために。
ちょっと煮え切らない。ただしエンディング間近での、空虚なリバーブの響きは聴きもの。
4. (10:49)
まず、吹き荒れる風。左右でぐるぐる掘り進む。鈍く唸り、ジリジリジリ張りつめた。
奥底で響く、重厚な金属の唸り。表面を覆った。しかし左右のチャンネルから破綻はしない。中央はなんだか、ぽっかり開いたまま。なぜだろう。
左で瞬く、金属の目。ちらちらと埃が舞った。
視線が鋭く、いくつも飛び交う。
逆ではみっしりと低音のハムノイズで埋まった。もう左右の交流はなくなったか。てんでに自分の美学を構築した。
お、右でも一瞬、フィルター・ノイズ。左世界が気になったかな。
すっと姿勢を整えて、じわじわと中央へベクトルを向けた。まだ中央は開いたまま。しかし放射するハーシュは、なんだか中央へ向かってる。
いつしか折り合いついたか、地平線をくっきり見せて穏やかに。
枯葉を強く踏みしめ、前へ前へ歩く。規則正しい足並みに寂しさはない。
ぐっと寄り添い、右へ消え去った。
5. (12:01)
今度は中央でループを続ける。ほんのりこもったノイズ。
心臓部分を守るように立て続けに周囲で轟き、やがて覆い隠した。
コミカルな響きが瞬く。カットアップするハーシュ。リズムとは無縁のサウンドだが、よほどビートを感じた。
スピーディにノイズを繰り出す、爽やかな印象の作品。
いくつか音要素はあるが混沌とさせず、すっきりまとめた。
注がれる線の太いノイズに身を任せてたら、10分なんてあっというま。
たぶんさまざまな脈動にこだわった曲。手を変え品を変え、多彩な脈動が現れては消える。かなり音数を絞ったひとときも。
9分前後の不安をあおる響きが、なんだかツボだ。
足元も不安定に、周りから圧迫する。ぼくが昔、良く見た悪夢のBGMがこんな感じだったんだ。
それも次第に鋭角さを増し、まろびでる脈動の素材となる。
6. (14:48)
下から突き上げるようなリズムのループ。上で数本のハーシュが舞う。
ハーシュはチューブから絞られ、注ぎ落ちる。リズムはからっと変わって、テンポ一定で冷静に刻んだ。
左右に音像がくっきり分かれた。良く似ているが、微妙に表情が違う。
構成はシンプル。インダストリアル・テクノほども重たくない。今の耳で聴くと、ほんのり電気ノイズの入ったビート・テクノだ。
ときおりビートが寸断され、野太い音で畳み込む。個々の音色が、あっさりしつつも力強い。
途中でむくっとボリューム上げ、睥睨しては身を沼へ沈めてく。
ビートがせわしない。もっとゆったりしたら、別の凄みが出ただろう。
あくまでダンスを視野に入れたテンポが続く。メルツバウが聴衆を踊らせたかったかは別にして。ハーシュの比率が高まっても、常にビートのうねりはスピーカーの奥で伺えた。
高まるにつれハーシュは重奏し、密度を増す。10分あたりで豪猛に唸る金属音がきれい。
いったん全てのノイズが手仕舞いされ、咳き込むように中央で収斂する。ビートはついにハーシュへ飲み込まれたか。
熱く煮えたぎり、発光する。
音が細まり、発散して左右へ散った。
冒頭のノイズがいったん提示され、途切れる。しばしの余韻。
お茶を濁すかのように、ハーシュが遠慮がちに現れて・・・奥行き深くあたりを埋め尽くした。
唐突に途中で途切れてしまう。
"目玉屋"
(1998)
クレジットは何も無し。もしかしたら"Springharp"のクレジットが、3枚分共通なのかも。
もとは大阪のアルケミー・レーベル向に準備された音源という。"Tentacle"というコンピュータ製の作品をリリースし、本音源は保留となったそう。
曲名も何もクレジット無し。
白地にシルクハットをさかさまにしたようなオブジェのイラストは、目玉屋のロゴを持って、無表情にただ見つめる。
裏ジャケのネオンサインのようなイラストが、なんだかポップだ。
<全曲紹介>
1. (9:32)
賑やかなハーシュのちりばめから幕を開けた。多層構造でランダムに吼える。ときどき息継ぎのように、わずかゆらめいて。
どういう録音方式を取ったか不明だが、いくつかのノイズがまとまって綺麗に磨かれる瞬間が快感だ。
凶暴に吼えつづけ、特にドラマ性はない。一発勝負として楽しむべき作品かも。
ビートらしきものはなく同時並行でノイズが蠢く、メルツバウらしい快作。
シンプルなカタルシスを味わえた。泡立ち流れるノイズの清流をイメージした。水面がくるくる表情を変え、小さな船は川下へ進む。
そして唐突にカットアウト。
2. (24:29)
前曲とは別作品と思うが、冒頭の聴感は似ている。一気にクライマックスから。スケールは前曲より若干大きい。
唐突に音が途切れ、不安をあおるセンスに惹かれた。すぐさま復活するけれど。
濃密なハーシュノイズが絡み合う作品。シンセの太い音が音要素で混ぜられた。
中盤では音が整理され、高速釘打ちをベースにたゆたった。ほんのわずかな間のみ。
すぐに新たなハーシュが立ち上がり、空間を埋め尽くす。この曲でのテーマは、二つの世界を自在に行き来する硬いシンセだろうか。
電子音だけでなく、豪快にリバーブのかかったメタル・ノイズもミックスされているようだ。前へ突き進む強靭な意思を滲ませた。
ドラムの連打がハーシュ幕の奥で披露される。この時期にしては珍しい。ほんのわずかなひと時だが。
アイディアを強引に詰め込んだごとく、どこかせわしなさが漂う。
盛り上がっては沈み、また別の箇所が膨らんだ。全体像を見せず、各位置の発想が変化するに任せたか。
加速して飛び立つ。噴射口からきらめく破片を散らし。
メタル・パーカッションの散打と入れ替わっても、さほど違和感なく転換した。
エンディング近辺ではこれまでの音要素がみるみる現れ、めまぐるしく暴れた。
最後はあっけない一音。そしてこの一音が、次へ繋がる。
3. (20:13)
じりじりと世界が丸められ、しわくちゃになった。次第に加速し、らせん状に前を掘り進める。
力任せ一辺倒ではなく、潤滑油を飛び散らせて周辺を軋ませつつも、着実に掘削した。耳に音波の破片を引っかからせ、中高音をメインに空気を震わせる。
振動をさまざまな視点で描写した。低音要素はごく控えめ。地面から30センチほどぷかぷか浮かんでる。ひとときも立ち止まらず、しゅわしゅわ表面は動きっぱなし。
いったんカットアップがあっても基本は隙間を許さず、濃密なよじられたワイヤの束が隅々まで張り巡らされた。蠢動し、脈打つ。
金属質のハーシュがのたうった。
左右にパンさせる瞬間は、メルツバウにしてはかなり力技だ。全体をまるごと動かす。
ハーシュのとどろきはスピーカーをしゃにむに振動。ハードコアなノイズだが、どこか芯は明るい面持ちで迫った。
中盤のホワイト・ノイズの嵐も含め、腕力仕立てが目立つ。あえて暴力的な線を狙ったか。ノービート・ノーリズムだが、どこかうねりを常に意識する作品。
川の上で奔流に翻弄される木の葉のように、明らかな運動エネルギーは常に感じた。
最後はシンプルな軋み音に収斂する。ミリミリと表面を引き絞り、ハム音でざわめき・・・途切れた。
"Springharp" (1999)
All Music by Masami Akita
Recorded & Mixed at Bedroom
'98='99
Instruments: Moog,EMS Synti"A",EMS BIC3,Metals,Tapes,Noize
Peddals,etc.
Digitally Copy from Driginal DAE Tapes Oct 2002
もとはテキサスのレーベルからリリース予定が、ぽしゃったらしい。当初は含まれていたコンピュータ・サウンド部分を、今回リリースではカット。未発表のコラージュ作品を追加編集したという。
こまかな編集を幾度も施してるんだな、と実感した。
たしかにハーシュノイズ色は控えめ。くるくると音像が変わる。
ジャケットデザインも秋田自身。さまざまな鳥を溶け込ますデザインは、後のアニマル・ライツの傾倒を示唆してる。
初期メルツバウとリズミカルな部分と、ループを多用するラップトップ時代と。さまざまな要素が混ざり合い、めくるめくひとときを産んだ快作。こういうのこそ、リリースすればよかったのに。なぜそのテキサスのレーベルは没らせたのか。
収録総時間50分程度。比較的、あっさりした作品だ。
1.Monmon (7:42)
のっけから重低音響くハーシュ。しかし一瞬で消え、リズミカルなループをベースに電子音が蠢く。EMSかな、これは。
左右にくっきり分離させたノイズは、さほど豪腕さは無い。独自に左右でビートをねじらせ、中央をぽっかり開ける。隙間が多く、ほのぼのした空気すらも。
タイトルは日本語の「悶々」か。たしかに躊躇するさまのような、まとわりつくイメージはある。
使う音色はくるくる変わる。ノリは曲を通じて普遍だが、ふと気づいたら別の音にバトンタッチ。この発想や世界観は、すでにマックでループや波形編集を施す手法と同一だ。
次第に攻撃的な要素を強め、スピーカー中央へ迫ってきた。
濃密な轟音が騒ぎ立て、マシンガンのような鋭い打音がそこらで轟く。
奥へ、奥へ。ひとときも立ち止まらず、ぐいぐい前へ進むベクトル感が痛快だ。
6分20秒あたりでは、足元がぽっかり抜けた不安をあおる音像作りで、一気に気分を変える。
この浮遊感はなんなんだ。低音部分をぶった切ってるのかな?
そしてそのまま宙へノイズは消えた。
2.Bozzio(18:42)
軽快で高速4拍子を元に、やはり左右に別れたノイズから。左では高音がきーきー軋み、右では低音が同じテンポでボソボソ呟いた。勢力は左が強いな。
するっといったん世界がぬぐわれ、冒頭と同じパターンへ戻る構築度がかっこいい。
タイトルはドラマーのテリー・ボッジオに引っ掛けたタイトルか。ならばこのリズミカルなタッチはわからないでもない。
ときおりブレイクを挟むが、テンポは変わらず。タイトに刻むメルツバウは、この時期だととても新鮮なアプローチでは。
いつのまにか右でもハーシュが登場する。しかし主役はあくまでリズム。
ミックス・バランスや音色をさまざまに変えつつ、執拗にビートが提示される。
ダンサブルさとは少々方向性違うものの、あくまでドラムにこだわった。ただしたぶん、これは打ち込みかサンプリングだと思う。
中間部分では全てを拭い去り、骨格だけのビートのみに世界を任せた瞬間も幾度か登場。
7分50秒あたりからがこの曲の山場。装飾を削ぎとり、がりがりなリズムの骨組みが空虚に轟く。
しばしビートのみのシンプルな世界に慣れた瞬間、一気に押し寄せる怒涛の濃密なハーシュ。この盛り上がりは格別だ。
むろん、そのあとも世界は続く。余韻のようなリズムのざわめきを残して。
足元を鋭くざわめく微細な砂。ずぶずぶ足元まで一気に押し寄せた。
リズムはそれでも軽快に続く。軽やかに左右を飛び跳ねて。
目の前にざらつく金属質な障害物がいたって、関係ない。
あくまでマイペース。楽しくビートを同じように繰り返す。
エンディングでは賑やかなノイズ大会になった。ビートが塗りつぶされ、無拍子な世界に戻ったって、まだ耳にはあのビートが残ってる。
秩序無く轟くノイズの奥に、ついあのビートの断片を探してしまった。
オーラスでつんのめるように、唐突な世界の変更あり。
残骸だけが真っ白な風景の中、闇雲に転がった。
重なって、超高音の発振が微かに響いた。
3.Springharp(25:29)
ループでテンポを提示し、小刻みな打ち鳴らしがランダムにかぶる。右チャンネルでは、太いシンセのノイズ。ぐおぐおと身をよじった。ほんのりコミカルさが漂う。
左チャンネルでは重さを増し、垂れ下がる。ついに炸裂した。
つられて右チャンネルでも咆哮や倒壊が始まって、中央に侵食する。
いったんきれいにまとまって、大きな金属球となる。弾みながら左右を転がった。生命力を漂わすノイズは、表面がてかった。
どこかで聴いたことある、エレクトリック・ギターのサンプリングがテンポを大きく変えて現れる。
当初のノイズと混交し、流れる一筋に変わった。
ぽかっと空白の断続。エコーを効かせてシンセのノイズが現れた。
埋め尽くさず軽やかに脈動し、混沌の幕を開けた。
エレキギターが、ハーシュが飛び出す。行く筋も並行して、そそり立った。
間を生かした、当時のメルツバウにしては新鮮な音像だ。メロディらしきものが、伴奏無しでくっきり現れる。
やがてハーシュやビートの断片を後ろにつれて。リバーブをびんびんに効かせ、いっぽうで強引に音を痩せさせる。
削ぎ取られたリズムは、あちこち落ちつかなげに足踏み。しだいに太さを取り戻し、スピード上げて駈けた。
この曲ではなんだか迷いを感じた。さほど大きな音で聴いておらず、印象が冷静過ぎるかもしれない。轟音で聴いたら、別のカタルシスがあるだろう。
しかし小さな音量では、ノイズが瞬いては消える動きに物足りなさも。
リズムもハーシュもどれもが手探りのよう。現れて表情を変え、いつの間にか消えてしまう。
メルツバウの作品に習作はないのかもしれない。しかし本作品では試行錯誤の香りを感じてしまった。
強烈に耳へ叩き込まず、あくまで音の博覧会が続く。
最後はぐっとポップなビートが現れるも、電気ノイズの壁が立ちはだかった。
シンセらしきものが、メロディの断片を幽かに左チャンネルに刻みつける。
静かに、静かに、蠢きながらノイズの蟲は消えていった。コミカルなメロディを提示し、サイレンやハーシュを身にまとい。勢いよく、飛び立つ。 (2006.5記)