Merzbow Works

Amlux(Important:2002)

All music by Masami Akita
Recorded and mixed at Bedroom,Tokyo during 2000-2001

 本作は、これまた秋田昌美の自宅録音。
 この時期はコラボ作品が立て続けにリリースされ、単独名義の作品が妙に嬉しかった。そのころまとめて発表した作品と同一時期に作られた音源だ。
 発売枚数は1000枚限定。そのわりに、タワレコやユニオンでごろごろ転がってた(2002年6月頃)

 総収録時間は約48分。CDにしては短めかな。
 ジャケットのデザインはポップで、表紙の写真はライトアップされたビルを下から見上げた夜景。中央にひとつ明るく光るさまが目玉のよう。
 裏表紙はビルの工事現場の外観風景。これは昼下がりかな。
 何も説明ない。そっけなくも淡々としたジャケットが、音によく似合ってる。

 豪音一辺倒でなく、静かな響きを楽しむ瞬間もある。
 そのちらばる音色の隅々がとても心地よい。耳を優しくも厳しくもくすぐる。
 
 ノイズのループがテーマのひとつみたい。
 さまざまなタイプの繰り返しが、現れては消えてゆく。

 初期のテープ・コラージュへの原点回帰か、DJミックスのようなクラブ・サウンドへの回答か。
 ぼくが浮かんだ発想はそのくらい。真実はメルツバウのみが知っている。

(各曲感想)

1.Takemitsu(5:20)

 にじみ出る電子音に、金属の打音がかぶさる。
 サンプリング・ループだが、初期メルツバウを髣髴とさせるアレンジだ。
 そしておもむろに豪音ノイズが覆いつくした。

 組成は細かい粒子で、隙間無く降り注ぐ。ときおり向きを変える時、ぞぞぞっと身体が震える。その重たい動きが興味深い。

 ラストは再び打音。今度はずっと重たいシロモノだ。
 ランダムに轟く電子音が、ひたすら叩きつける風景へ彩りを添えた。

2.Looping Jane(15:40)

 淡々とうねりがループ。ときおりよじれる。 
 7/8拍子っぽいパターンはリアルタイムで処理してる模様。微妙にノリがずれて聴こえた。
 しばし同じ風景が続いたあと、じわっと地面から重たい霧が浮び上がった。
 常に低音が存在を主張し、不安を煽る。
 ときたま金属が、鐘のように響いた。

 4分ほど経過して動きあり。スピーカーより次々に泡立つ音が染み出す。
 うねりは依然として聴こえるが主役の交代だ。
 
 一瞬、ブレイク。逆回転ぽいノイズが空虚に漂う。
 これは元気がいいとき聴いたほうがよさそう。
 淡々と絶望的に繰り返す音像へ、吸い込まれそうになった。

 9分強でぐっと高まる音圧。
 灰色のヘリコプターが執拗に警戒する。飛び交うサーチライト。草むらに伏せ、見上げる。
 強い光がすぐそばを照らした。うねりはもしや自分の焦りか。

 最後の20秒は、静かなループのみがその場に残った。

3.Cow Cow(4:22)

 パンしながら見上げる視線。
 ここでは比較的速い繰り返しと、ドローンを組み立ててうねりを産んでいるようだ。

 いさぎよく電子音が次々に登場して展開する。シングル・カットにぴったりでは。
 聴きやすいし、楽しいし。

 後半ですぱすぱ小気味よく切り裂く、フィルター・ノイズが心地よい。
 あっというまに4分強を駆け抜けた。お薦め。

4.Luxurious Automobile(Krokodit Texas Mix)(22:23)

 重たいグルーヴのループがフェイドイン。こんどは怠惰にうねる。
 電子のすすり泣きがひたすら持続し、不安定にゆらいだ。
 身体をくるくる丸められ、細い道へ追いやられていくみたい。
 細かな飾りはさまざまに変化するものの、基調が何も変わらず進む。

 9分ほど経過したところでおもむろに、音像に変化あり。
 ぽこぽこ呟きや、鋭い風が吹き荒ぶ。
 低音部分をループさせる手法は前半を踏襲し、消音系にシフトした。
 
 数分経過で、カットアウト。ホワイト・ノイズを幕にして場面を切り替える。
 冒頭のループが再び現れた。
 だがいくぶんノイズ成分は賑やかに聴こえる。

 この作品では音量にも配慮。何箇所かでぐっと音量が落ち、メリハリをつけている。兇悪な轟音だけではない。

 15分あたりでまたもや表情を変えた。
 冒頭ループは相当力を無くし、ざらりとした肌触りの音が前面に出る。
 淡々と続くこの部分、聴いててかなり心地よい。

 けだるげなムードのまま淡々と続き、エンディング。
 音量と構成だけ言えば、チルアウトにぴったりかも。メルツバウらしく、不穏な空気は常に漂うが。

(2003/2/1記)

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