Merzbow Works

Amalgamelody (2015:Old Europa Cafe)

Recorded At - Opera's House,Munemi House
Mixed At - Munemi House By Masami Akita

Drone [Electrodrones], Sounds [Analogic Waves] - Maurizio Bianchi
Electronics [All Analogue] - Masami Akita

M.B. sounds recorded at Opera House in April 2015.
Merzbow sound materials recorded at Munemihouse Studio, Tokyo on May 2015.
Final mixed at Munemihouse Studio, Tokyo May 2015.

 イタリアのノイジシャンMaurizio Bianchiとの共演作。M.B.の作品はほとんど聴いたことないが、70年代後半から活動して膨大な作品がある。ノイズ界でも初期からのベテランだ。
 Merzbowとの共演歴は、2013年とあまり遡らないはず。まず"Merzbow Meets M.B."(2013)でコラボ的な競演が初と思う。
 ただし交流は1982年までぐっとさかのぼるようだ。"Amniocentesi / Envoise 30 05 82"のスプリット10"LPが2013年に発売された。本盤にはメール・アートとして82年に互いが作った音楽を収録してる。共演とは言わないか、こういうのは。
 
 さて本盤の主導権はメルツバウがわ。15年の4月にM.B.が素材を録音し、翌5月にメルツバウがダビングとミックスを施し作品を完成させた。
 虹を切り取ったような色合いのジャケットは、M.B.のデザインによる。

 M.B.の色合いがわからないけれど、うっすら教会音楽を連想させるドローンや静かな音符がM.B.、強靭なパワー・ハーシュがメルツバウだろう。一曲一本勝負でなく、10分程度な中ぐらいの尺で6曲を収録した。微妙に音楽を連想させるタイトルのため、M.B.の素材を大まかに曲イメージに施したのかも。
 なお各曲名のアルファベット2文字は冠詞でなく、Amalgamelodyを分割したもの。メルツバウが編集したってメッセージの表れか。

 アルバム・タイトルのアマルガムとは水銀の合金を指す。歯医者の詰め物とかに使われる。それにメロディ、を合成し造語した。トロリとろけたメロディアスなノイズってことか。確かに本盤を象徴したタイトルだ。
 うっすらとメロディアスで、崇高に漂うドローン風味のハーシュ。美しい。

<全曲紹介>

1.Am Symphony 10:48


 じりじりと沸き立つノイズの背後に、数音のふくよかなオルガン風の音色。単色のパワー・ノイズなはずが、うっすら感じさせるメロディが、不思議な奥行きと華やかな色合いを産んだ。
 そして正面では次々に吼える電子ノイズ。背後を塗りつぶさず、各種の音でフィルターをかけるかのよう。メロディは残響と骨格の断片のみだが、存在感は確かに残してる。

 やがて剛腕の激しいノイズが顔を出し、鋭く乾いた平べったい響きで暴れた。金属質の、尖ったエッジを閃かせて。
 いったん消えたはずの音色が、改めて現れた。

 この辺のドラマティックな展開と、オーケストレーションなノイズがいかにもメルツバウらしい。

2.Al Modulation 7:51

 猛然と吹きすさぶノイズ。密度濃く隙間なく吹き荒れた。シンセのメロディ断片が、背後でぷくぷくと浮かぶ。目の前のノイズに飛ばされず、優美に佇む。
 カリカリと回転が速くなった。切り裂くベクトル感と、シンセの夢幻なきらめき。この対照的な存在が、滑らかに一つの音像に溶けた。
 
 特にビート感は無いのだが、わずかなノイズの繰り返しっぽいタイミングが重なり、ポリリズム的な印象も受ける。
 素朴なシンセが断片的に音を載せ、色を描く。フィルター・ノイズは塗りつぶす。互いに個性の違う音が並列するバランス感覚が心地よい。

3.Ga Noise 13:59


 本盤の楽曲それぞれは全体のトーンが似通い、細かい構成が違う仕組み。ここでは細密なフィルターノイズのカーテンの向こうで、シンセが緩やかに動く。ランダムっぽい。(1)と(2)を合体みたいなコンセプトだ。
 なるたけ音量を上げたほうが、本曲をじっくり味わえる。

 空間を埋め尽くしたノイズは鋭さを抑え、濃密な霧のごとく。その漆黒のキャンパスへ次々に別のノイズが躍り出た。フィルター・ノイズの太い音はホースのように音を吸い上げ、すぐさま吐き出す。ゆっくりと、じんわりと、メロディを作るかのよう。

4.Me Wave 11:46

 隙間を作らぬコンセプトは同一ながら、最初はこじんまり。やがて明確に耳を切り裂く超高音と鈍い低音が現れた。音盤ゆえに音圧はしれてるが、ライブならばさぞかし各種の周波数で身体を震わされていそう。

 低音がにちにちと軋み、絞り上げた。高音はあまり極端に暴れないが、きっちりとざらついてる。背後には(1)で聴いたような奥深いメロディの断片が。もしかしてM.B.の音は全くの素材で、メルツバウは一から再構成してるのか。一つの曲へダビングかと思ったが・・・。

 4分過ぎで極端な高い周波数が落ち、見晴らしがよくなった。低音がぶわりと息苦しさを提示しつつ、穏やかな世界観が広がるひとときがたまらなく気持ちいい。ときおり顔を出す瞬間的なハーシュもアクセントに留まり、熱狂と酩酊がすべてを覆う。この式典や礼拝風のノイズ風景は、メルツバウならでは。轟音を突き抜け、崇高さを演出する。

5.Lo Frequency 12:42

 わずかな変化はある。だが一面の壁がそそり立ち、表面のわずかな違いを音で表現した。工業加工が施され、つるっとした壁ではない。ざらついて同じ個所は一つとしてない、肉感的な壁だ。
 ただし電気仕掛けは間違いない。密度が詰まりギラつく壁面は手がかりになる大きな起伏が無い。登れず、身動き取れない。

 高さも幅も見通せない。細かな音色が折り重なり、単一の材料ではないのかもしれない。ただ、無機質にそそり立つ壁だ。だが、一枚岩ではない。いくつもの要素が現れては消え、その要素すらも常に変貌し続ける。

 とにかくこのノイズは目前を分厚く覆い、前に進ませはしない。鋭く回転するノイズは、壁面へ穴を試みていたのか。びくとも、していないが。

6.Dy Sound 9:22

 すっとフェイドインで立ち上がり、いきなり音が完成された。(5)に通じる圧倒的なノイズ。前曲との違いは何だろう。音のミックスが濃さを増したか。ぎりぎり個々の音は聴き分けられるが、一体いくつの音が重なっているのか。
 わずかなメロディの断片と、吹き、浮かび、塗り、揺れ、軋むノイズ群。

 この盤で耳をつんざくハーシュは、かなり控えめだ。むしろドローン風に漂う時間経過を強調した。激しい乱暴さとは、微妙にずれている。これがM.B.の嗜好か。
 メルツバウは複数のノイズを絵画もしくは物語的に配する、抜群の構成力と演出を見せ、一時間強の本盤をシンプルながら多彩かつ複雑妙味なノイズ世界に仕立て上げた。
  
(2016/5:記)

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