Merzbow Works

Animal Magnetism (Alien8:2003)

All Music by Masami Akita
MA;Computer,guitar

 Alien8はメルツバウを何作もリリースしてる。
 メルツバウにとってはタイトルで示すがごとく、「動物シリーズ」の一環。
 ジャケットの表1は鶏の写真。表4はその裏焼き。もっともどっちがオリジナルの写真か、ぼくには分からない。

 タイトルもミュージシャンのクレジットもない。単なる写真のみ。
 このジャケを見て、ハーシュ・ノイズを想像する人はそういないだろう。

 ゲートフォールド式ジャケットを開くと、黒字に金でクレジットあり。
 録音クレジットも上記のみ。しごくあっさり。
 飾り文字を使ってクレジットされており、曲名はスペル間違ってそう。自信ないよ。
 CD本体は黒い紙で作られた封筒に、さらに入れられた厳重さだ。

 内容はPCを使ったサンプリング。詳細は下記するが、鶏の鳴き声を使用したノイズに、メルツバウの主張を感じた。
 ただし過激さは控えめ。混沌さが前面に出て、環境音楽を聴いてるよう。表面はあちこち尖って過激だけれど。

 これ、マスタリングがかなり平板。ボリュームによって、イメージが一転する。
 ボリュームを下げたら、退屈な電子音楽に鳴りかねない。ダイナミズムが少ないんだな。
 ところが音量を上げるほど、過激さが分かりやすく炸裂した。
 
<全曲紹介>

1.Animal Magnetism (21:18)

 ジリジリした電子の唸りで幕が開く。あたりを埋め尽くすように。
 次第にボリュームが上がり、低音がねっとり漂った。
 基本はサンプリングのループだが、左チャンネルの唸りがたぶんエレキギターだろう。
 
 ボリューム下げて聴いてると、さほどハーシュさはピンとこない。
 埋め尽くすノイズは、音量があがると圧迫感を増すが・・・。
 
 脈動するビートはあっても、前半はさほど性急さを感じない。
 奥行き深い電子音は、BGMとしても機能するはず。
 
 タイトルのゆえんは6分を経過したあたりから。
 唐突に鶏の鳴き声が挿入される。電子加工、ちょっとしてるかな?
 ノイズの砂利にとっぷり重たい霧がかかる中、ひたすら鳴く(サンプリングのようだ)鶏の声は、ノイズの一部としてごく自然に溶けた。

 せきたてられるビート。しかし前面には出ない。
 あくまで主体は混沌。重たく空気が揺れる。
 ときおり挿入されるハーシュ・ノイズすら、主役の座を奪うには至らない。

 咆哮はエレキギターへ変わった。
 一吠えをサンプリングし、執拗にリピート。
 
 11分を過ぎたあたりで、エレキギターのノイズをさらに追加した。
 オーケストラっぽくて、好きな瞬間。
 画面は時折転換し、違った角度からハーシュの表情を映す。
 
 再び登場する鶏の声は、たぶんサンプリングの波形加工。
 だがエレキギターらしき音の積み重ねをしばらく聴いたあとだと、まるで電気仕掛けの鶏みたい。

 終盤はエンジンっぽい唸りも登場した。
 が。この曲は最後まで、根本的に覇気がない。 
 ぼくが小さめの音で聴いてるから、そう感じてしまうかも。

 動物虐待への静かな怒りを示す、メルツバウ流の諦念を表した音楽・・・ってのは穿ちすぎだろうか。
 スピーカーへ対峙すると、いくつもの音が重ねられたメルツバウ流のサウンドとわかる。
 たまに現れる、きらびやかで重厚な瞬間が聴きもの。

2.Duiet Men (16:39)

 タイトルと関連してか否か、いきなり絞り上げる音から始まる。
 幾本もの鉄柱が立ち上がって、唸りながら回転した。
 若干、前のめりのパワーを感じる。
 
 野暮ったいノイズの蠢きをループさせ、上できらきらノイズが跳ね回る。
 かなり尖がったノイズが四方八方からやたらと飛び出し、近づくのもはばかれる。
 触ったとたんズタズタにされそう。

 エレキギターのかき鳴らしをサンプリングし、電子ノイズと混ぜてるみたい。
 てんぷら揚げてる油の中へマイクを突っ込んだと言えば、一番分かりやすいかも。

 ループを使ってるがゆえに、変則ながらも一定のビートは感じる。
 しかし根本はノービート、ノーテンポ。

 ここでも中盤に、鶏の鳴き声がせわしなく挿入された。
 スピーカーの前で盛大にとっちらかるノイズに幻惑されるけど。その奥で、鶏は声を上げてる。
 たぶん、悲鳴だ。

 一転、目の前のカーテンが取り払われた。
 鶏の声は電子加工され、四方八方で暴れる。 
 野太い叫び声、小鳥の鳴き声(シンセで作った音かな?)が加わり、しきりにわめく声は切ないほど。

 ほぼ全てがループで処理され、作り物っぽさが前面にたつ。
 動物というコントロールできぬものを、冷徹にコンピュータで構築することで逆に凄みが強調された。

 悲痛な叫びが延々と続く中盤は、かなり辛い。
 なにせハーシュ・ノイズが現れて、ほっとするくらいだもの。
 
 軽快な電子音が鳴き声を巻き込み、振り回す。強引だ。
 すっかりハーシュに埋め尽くされたあとでも、低音のパターンだけはしつこく居座る。
 あの鈍重なループは、なかなか辛く響く。

 エンディング間際で、またもやノイズが全て整理された。
 そして1曲目冒頭のような、静かなうねりへ。
 
 このまま終わるかと思い始めた頃、唐突な炸裂が一発。
 未練がましくうろついたあげくに・・・カットアウト。

 ひたすら内面へ沈み込むかのような音楽だ。

3.Super Sheep (4:37)

 てんぷら油ノイズと名付けたくなるサウンドへ、野太い低音のビートが積まれた。
 なぜか右チャンネルにその低音を位置させ、中途半端な感じを与える。
 中央に定位させたら迫力出るのに・・・と思いかけたとたん、中央へするっと移動したもんだから、最初に聴いたときは面白かった。

 低音ループの波形が変わり、見る見る音色が変わるさまは楽しい。

 タイトルとの関連付け度合いは分からない。毛を刈られるさまを表現してるのか。
 音楽から受けるイメージは、背中を伸ばして筋を通そうという意思。

 曲の時間をあえて短くし、構造は同一。音色の変化で移り変わりを強調する。
 エンディングはカットアウトした。

4.A Drarmigan (22:30)

 クラシックのオーケストラのLPを逆回転するような音がイントロだ。
 ちりちりとLPの針音が散発的に響く。

 一分強でいきなりブレイク。
 わずかためらったあと、場面は海中へ移動した。

 隙間を開けたサウンドで気持ちを落ち着かせ、おもむろにハーシュが炸裂する。
 しかしこのノイズもほどなく整理され、やっぱり冷徹なループへ落ち着いた。荒れていても、どこか管理のにおいがする。

 フィルターを開けたり締めたり、構成要素を増やしたり減らしたり。
 多少の音色変化はあるものの、延々と似たようなサウンドが続く部分はいまいち物足りない。
 すくなくともスピーカーから流れる音は、そうとう整理されたおとなしいシロモノ。
 
 途中でやけにシンフォニックな音色が挿入される。あれはシンセのサンプリングかな。
 じわりじわり音の構成要素は増えてゆく。しかし根本のところは淡々と。
 変わりゆくなかにも、メルツバウ流の主張があるはず。それをインタビューした記事ってないかな。

 14分経過前後でかなり、音色はハーシュっぽくなりはした。
 だけど宙を疾走はあまり変わってない。
 速度も抑え目。もっとスピード感あったら、印象はかなり違うはず。
 
 後半はざらつく音の壁がひたすら続く。
 きらびやかなパイプオルガンっぽい響きを、メルツバウが使うって新鮮だ。
 エンディング間際で変化あり。急にあれこれの要素が詰め込まれる。

 ここでも鶏の鳴き声ほかのサンプリングを使用してるみたい。
 またもや唐突にカットアウト。怒涛の展開だけに、放り出された感じする。

 この曲よりむしろ、3曲目を時間伸ばして欲しかった。

5.Dier 39 (8:59)

 低いノイズはエレキギターの音を波形編集だろうか。
 (4)での大曲(ってイメージ強い)のあとでは、アルバムを締める余韻代わり、チルアウト用に聴こえてしまった。

 スペイシーな世界を限られた音で構築し、ゆっくりと視点が移る。
 大きな宇宙船のボディを、外から眺めてるような気分。
 一方の側面にだけ熱を持たせないよう、回転している船体を。

 ノイズというより、音響系テクノみたい。
 6分半経過で登場する低音は、(2)でのパターンと同じだろうか。
 いきなり場面が変わり、むかしのSFを連想するミニマルな音楽へ。

 シンセ風の音もなんだかレトロ。もうすこし太かったら、ビンテージのアナログ・シンセっぽかったのに。
 単独の曲としてみると、完成度の高い電子音楽だ。
 短めな展開が残念。このアイディアでアルバム一枚を仕上げても、面白いものができたかも。

 アンプを通さぬギターの爪弾きらしき音が、ぱらぱらと五月雨で鳴る。

  (2004.8.記)

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