Merzbow Works
Kookaburra (2013:Hospital Hill) Masami Akita – handmade
instruments, laptop, effects
ストイックなメルツバウの演奏風景を、丸ごと封じ込めた。しかも映像まで残っている。
アナログ路線に向かったメルツバウは、自作ノイズマシンを主に演奏を行う。ラップトップを机の上に置くスタイルは変わらず。激しくノイズを出す場面もあるが、根本の動作は端正で穏やか。ノイズの炸裂性や暴力性、肉体的な熱狂とは無縁に、求道的なほどノイズと静かに向かいあってる。
メルツバウの快楽原則はあくまで耳のみ。激しく精妙に噴出する電子ノイズを軸に、アナログ・ノイズが産む幅広い振動に魅せられている。
CDゆえに音域は可聴域にとどまっているが。たぶん現場にいたら極低周波までまき散らされ、身体全体がノイズに包まれていたろう。
本盤の音源は、丸ごと映像も残っている。ここで配信を見ることが可能。あまりにも地味で、変化の少ない絵柄ながら。しかもモノクロ映像。黒ずくめのメルツバウが、淡々とノイズを繰り出す。
数台のマイクを切り替え、若干のアングル変化しながらも静かにカメラはメルツバウを映した。
音像自体も変化が少ないノイズなだけに、この映像を見ながら聴くと意外と楽しい。
動きにノイズが直結せず、逆にわずかな操作で新たなノイズに変貌とわかるから。
オーストラリアのオーロラ・フェスティバルに出演した12年5月11日、シドニーのRiverside Theatreでライブ演奏した。500枚限定の発売。
この二日後に同フェスでオラン・アンバーチと共演を実施する。そちらの音源は"Cat's Squirrel"と銘打ち、のちにリリースされた。
<全曲紹介>
1."Kookaburra" 57:46
約60分の一本勝負。
機材は自作ノイズマシンにラップトップ。机の上にミキサーやその他ツマミのついた装置が数個並ぶ。
ライブの絵面は非常に地味だ。メルツバウは方から自作ノイズマシンを下げ、柄のついたブラシみたいなものでゆっくりとこすりながら、ひたすらつまみをいじる。
たぶん周波数やバランスをいじってるのだろう。おもむろにラップトップへ手を伸ばし、何やら操作。画面が今一つ見えないが、ミキサーみたいな画面が映ったまま。たぶん、こちらでもフィルター処理やバランスを行っている。
自作楽器は太い棒に円盤、その上にバーが二本。ギター風のオブジェだが、表面を主にメルツバウはこする。コンタクトマイクがついており、その擦過音を抽出し極端に波長を変えてハーシュノイズを出してるのではないか。
円盤の隅には小さい丸い鉄板がぶら下がる。鋲付き。ブラブラ揺れている。あれもノイズを出すシズルめいた工夫か。
冒頭はシンプルなノイズが延々と続く。微細に、慎重に音が変わる。轟音かつヘッドホンで聴いたら、違いが分かるかもしれない。映像でも地味だ。慎重につまみをいじるメルツバウ。
片手はゆっくりとこすり続ける。ひとしきりつまみを調整した後、ラップトップで設定をいじる。
その繰り返し。時々、新たな音色が加わり、いつしか消えた。これがラップトップ側での制御か。
ハーシュが噴出し変化するけれど、実際の構成や基本構造は変わらない。本作では変貌よりもストイックに一つの音色をとことん追求した。
30分くらいたって、動きが激しくなる。棒をノイズマシンに叩きつけたり、激しくこすったり。
けれどもぱっと聴いて明確な音の違いが無い。緩やかでも激しくとも、ノイズの炸裂は一定。棒を叩く音も出るノイズに直結はしていない。それともスピーカーでなくヘッドフォンで奥底まで聴けば、違いや工夫がわかるのだろうか。
40分過ぎに発信機みたいなノイズも加わる。だがそれも、特段に特別な操作をしてるわけじゃ無い。
メルツバハ楽器から手を放し、机の上のつまみやエフェクターをいじってる。だが、それだけ。あまり動きが無いまま、新たなノイズが繰り出された。
やがてテーブルの前を離れステージの奥へ。明かりから外れると、何をやってるかさっぱりになる。再びテーブルに向かった秋田は、自作楽器を左手でかき鳴らしながら、右手はつまみを幾度か操作した。
ときおり激しく変化するノイズ。だが秋田の動きはほとんど変わらない。足でもエフェクターを操作してるの?それでも動きとノイズの変化はいまひとつ同期しない。
タイマー仕掛けとか、変な仕掛けをしてるのではなく、つまみでフィルターが大きく変化して、それでノイズが色合いを変更。だが映像を見ても、そのタイミングがつかめていないだけだろう。
うなりをあげ加速するノイズ。大きい流れはそのままに、微細な変化が常に起こってる。左手でエフェクタを押した瞬間、いきなりノイズが変わった。だがちょっとメルツバウが手を加えると、再びノイズの奔流に飲まれてしまう。
足元が映ると、やはりいくつかペダルあり。ワウ操作なのかも。
連続するノイズがフィード・バックのように轟き始めた。クライマックスに向け、メルツバウなりに物語性が高まっていく。軋む音とシンセのように丸い音。複数の音色が混ざり、賑やかさを増した。
右手は自作楽器をこすりつづけ、左手は忙しくあちこちのつまみやラップトップの操作を続ける。
強く、メルツバウはつまみを絞った。ノイズの激しさはそのままに、忙しく左手は動いていく。
ノイズはすっかり、ころころと角が一杯の音色に変化していた。しだいに音数が少なくなっていく。がちゃがちゃと弾ける音へ、轟音のフィルター・ノイズが載った。
テーブルからすっと離れるメルツバウ。ノイズマシンを両手で構え、ふとテーブルへ。ケーブルとエフェクタが絡み合うテーブルの上で、メルツバウの左手が操作をあちこちに加える。迷いはほぼ、無い。
するするとつまみをいくつか絞る。急激に音が消え、幕。潔くも滑らかな終焉だった。 (2016/9:記)