Merzbow Works
24 Hours - A Day Of Seals(Dirter
Promotions:2002)
All Music by Merzbow
Masami Akita - Powerbook,Gutars & EMS Synth"A"
Recorded & Mixed at Bedroom,Tokyo April-May 2002
イギリスのレーベルから一気に発売された、4枚組ボックスセット。
無論、すべて新曲。秋田昌美の旺盛な創作力に圧倒された。
本作は"Merzbeat"(2002)と対になり、コンセプトはアザラシ。
池袋サンシャインの国際水族館や品川水族館に生息する、かれらに捧げられた。
ジャケットには各種アザラシが何匹もコラージュされる。デザインもメルツバウ本人。
もっともアルバムのクレジットには、コンセプトの詳述はない。
聴き手に先入観与えるのを嫌ったか。
発売時の記念イベントとしてメルツバウ作のアクリル画展示も。場所は西新宿のレコード屋Los
Apson?にて。同時期にライブも行われた。
ライブの対バンはGore Beyond Necropsy、凶音、Hair
Stylistics。
あれはメルツバウの演奏前。ステージ前のスクリーンへ、アザラシをモチーフにしたCGがスライド投射されてたのを覚えてる。
のちのインタビューによれば、このときは「曲」を演奏したとのこと。もしかしたら本作からも演奏されたのか。ぼくはちっとも気付かず、あとでインタビュー読んですごいショックだった。
音楽面では本作でエレキギターやEMSを使った、ワイルドな音が復活して嬉しい。
しかしループを多用し、過激さは逆に控えめ。むしろテクノ的なアプローチを感じた作品だ。
同じ素材を複数の曲で使ってるようにも聴こえた。これが組曲っぽさを強調してるのかも。
偶然性のある作品作りからループを多用し構築を意識することで、メルツバウの音楽は聴きやすさを増した。
予定調和が仄見え、物足りないところもある。
が、これは過渡期だろう。またメルツバウは新たなステップへ進むはず。
そして一点。過渡期だからこそつまらない、なんていう気はさらさらない。
過激で兇悪で。なおかつすんなり耳へ飛びこむ音なんて、そうそうありません。
<各曲紹介>
Disc 1
1.Good Morning Azarashi(14:06)
重低音の唸りが延々とループ。それを通奏低音に、軽々と電子音が沸き立つ。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
しだいに数が増え、音は厚みを増した。
ノイズに音程はないが、聴いてて和音の幻想が浮かぶ。
低音は波形編集したノイズかもしれないが、エフェクターを思い切りかけて歪ませたギターにも聴こえた。
ごつっと歯ごたえがある。
「おはよう、アザラシ」
水しぶきを挙げて、輝く額がいくつも浮び上がるさまを表現したのか。
インダストリアル・テクノよろしく繰り返しが多いノイズで、あんがいポップだ。
7分前後での、唐突な吹き上がりがかっこいいったら。
みるみる表面は複雑になっても、低音をかき消すほどじゃない。
いったんオフになった低音が、ぐしゃっと他のノイズをかき分けすり潰す。
そして冒頭から強烈に存在を主張する"唸り"は、最後までひたすら足場を固めて立ち尽くす。
ひよひよひよっと閃く音で幕を下ろした。
14分もの時間をうまく使いこなした、ドラマティックな曲。
2.Mincle No Uta(9:19)
"Mincle"ってなんだろう。辞書引いても出てこなかった。
民謡っぽい音を加工してるような感じ。
三味線風のフレーズが、幾度も繰り返される。
前曲とはうってかわりシンプルなアイディアが幾重にも表示された。
リズムがクキクキ引っかかる。
ループ中心の音像だが、ポリリズムよろしくさまざまなテンポで絡み合い、ダンサブルとはほど遠い。
もっともメルツバウ自身、この音で聴き手を踊らせようと意識してないか。
ひとつのアイディアで押す曲なので、8分をすぎたあたりで唐突に噴出すハーシュが嬉しい。
もっともまたすぐに、ループへ戻って行くんだが。
3.Tetsu's Parade(6:28)
強烈なハーシュが吹荒れる、いかにもな感触。
スピーカーからベタっと轟音が吹き降ろす。
小さめな音で聴いてると、奥行きをあまり意識しない鉄板風味のノイズ。
中央に位置した音が、歌うように形を変える。
ホワイトノイズっぽいイメージで、メロディまでたどり着かない。
だがあんがい美味しい味わいだ。
後半部分で細かく沸き立つ音に、天ぷら鍋を連想したせいかな。
アザラシの対話を模したようでもあり、群れが川を遡る風景を表現したようでもあり。
4.Rising King Penguin(10:49)
ちょっと裏拍で引っかかるが、きっちり4/4拍子で割り切れる構成でスタート。
あんがい意外な出だしだ。もっともすぐにノーリズムの世界へいざなう。
ぴんとりりしく、硬質な風がそこここで吹く。
右手がビリビリと、左手はうねうねと。
両極端の音が並行し、中央で溶けた。
4分ほどでキラキラ輝く音は、シンセで作っているのか。
ループの存在を常に意識しつつ、ぱっと耳に残るのはキュートに汚れたノイズ。
中央のパルスは反り返り、幾度も鳴く。
混沌さももちろんある。しかし重心は、やはりループのほうに置かれてる。
メルツバウの作る音に耳馴染んだぼくは、もうちょっとランダム要素を強調して欲しい。
エンディング間際で聴こえる水音は、かなり涼しげ・・・てか、寒そう。
騒音ドリの鳴き声らしきものが、断片的に挿入された。
5.Dugong(10:33)
タイトルはジュゴンかな。
鈍い響きとキイキイ音。このコンビがまず揃ってループされる。
たぶん全部PCで作ったノイズだと思うが、こういうごっつい音は好き。
いくつかの音色が重ねられてはいるものの、あまり拡散せずとっつきやすい。
途中からはエレキギターらしき音が主役に変わる。
せわしなくバックでループが息継ぎ、表舞台は豪腕や細腕が暴れた。
中盤ではほぼノービートになり、降り注ぐ泡に埋もれる。
泡の隙間を縫って深く潜った。かき分けてもみるみる表面が埋め尽くされる。
きめ細かさがさらに加速。息も困難なくらい。
つるつる表面を泡が流れ、ジュゴン(?)は前へ進む。
遠くから眺めるのでなく、自分自身でかき分けるような力強さ。
最後でやっとゆったりと。
Disc1の中では(1)に次いで、この曲が好き。
Disc 2
1. Charcoal Gray Clouds(43:58)
40分以上と長丁場な作品のわりに、後述するようにドラマティックな展開で飽きない。
さらにループ部分もたんまり聴けて、物足りなさがないという。
スピーカーに向かって、集中して聴くにはもうちょい展開がいろいろ欲しい。
この小文を書いてるときはループを聴いてて、次の展開を待ってしまった。
ほんのりフェイドイン、前触れ無しで始まる。
この鈍い音はエレキギターのサンプリングかな?
ヒヨヒヨ言う電子音をお供にしたがえ、ぐりぐりとスピーカーをかき分けて姿をあらわす。
1分ほどで音の肌触りをエフェクタで変え、少し空虚な感じ。
ループは依然続き、ぐっと音がスペイシーになった。繰り返し感はあるが、ダンスビートっぽくはない。
壁越しにモーターの唸りを聞いてるかのよう。
すっとループが消えたのは3分くらい。広がりだけが残り、飛翔する。
爆音にしては弱い。空間が捻じ曲がるイメージ。
いや、これがメルツバウの意識する"濃灰色"の雲だろうか。
もこもこした空気は勢いよく後方へ飛ぶ。かすかに聴こえる風切り音。
複数のノイズが錯綜し、多層的な音像を生み出す。メルツバウの面目躍如だ。
普通の音量で聴いてるせいか、兇悪なイメージはあまりない。
むしろ隅々の隙間からノイズに頭を侵蝕され、ぼおっと・・・。
刺激的な音はミックスを控えめにし、微細粒子にピントをあてた。
シンセ・リボンのブレイク。
シンプルな低音のフレーズがループされ、重々しい雰囲気へ切り替わった。8分を越えたころ。
まるで宮殿のBGM。
じわじわと視点が前へ進み、足元は煙に隠れてよく見えない。
漆黒のマントを軽く揺らしつつ、男は前へ歩を進める。
かすかに聴こえるノイズ侍従のざわめき。
歯牙にもかけず前へ。前へ。
角を曲がり、奥へと歩んで行った。
淡々とした低音のループに、こまごま閃く高音部分。
ひたすら繰り返され、ときおりパンする音像を聴いてると、ついこんなイメージが浮かんだ。
しばらくこのテーマが続き、いったん脇へ押しやられる。
こんど登場してきたのは純粋ハーシュ。
左隅に低音ループを追いやり、くっきり両チャンネルへ分離されたホワイト・ノイズがかろやかに舞う。
依然として低音ループが存在しているがゆえに、どこか自由に飛べない。
すると、唐突にループが切り落とされた。
低音が唸り、音が収斂する。いくぶん粒子は粗いか。
唸る頻度がいつしか上がり、早まるスピード。
プロペラへと変化して、雲の粒子を鋭く切り裂いた。
さらに収斂。団子になって中央突破を図る。冒頭の音像へもどった。
鈍いギターは中盤の低音ループを経たあとで聴くと、さらに凄みが1割増し。
プロペラがまた登場。回転を次第に落とし、テンションをさげる。
複数の音がさまざまに飛び交い、もやもやした空気がスピーカーから漂った。
今度は豪雨か。
降りそそぐホワイトノイズ。鈍くうねる。
中央で不敵に蠢く低音。
この音像をじっくり膨らませ、育てていく。
いったんぐっとトーンダウン。
ヴヴッとひと噴き。持ち直すかと思わせて、じんわりなりを潜めてしまう。
ラストで連打されるパルスはマシンガンか。
エンディングはホワイトノイズが荒々しくうねるループ。そこへ別の電子ノイズが絡んでゆく。
唐突にカットアウト。
長丁場な作品にもかかわらず、あえてエンディングを構築しないメルツバウの判断が興味深い。
この一曲、ある独裁者の栄枯盛衰を描いたと見るのは読みすぎか。
シンプルにどんよりよどんだ色の雲を、さまざまな表面から描写した作品かもしれない。
2.Industrial Barbecue(11:54)
ふぁふぁとうねる電子音が鈍い響きを引き連れ、重厚に輝いた。
バネのように動き、じりじりと立ち位置をずらす。
ドラムマシンを変調させてるのかな。
4/4+4/3っぽいリズムを基調に、寂しく交錯するノイズは風の対話。
ループを多用してると思うが、ぱっと聴いたくらいでは音の構造がつかめない。
耳ざわりのいいノイズをいくつも積み重ね、きらめかす。
起承転結はもちろんない。
不定形な表面が見る見る変化した。
あるときは優しく。みるまにボコボコ泡立ち、不安を誘う。
10分以上ある曲だが、前曲の後では小品に感じてしまった。
スペイシーに噴出す奔流の先端を見極めようと、うろたえてる間に終わりが訪れた。
不穏に蠢き、触手を伸ばすような音でフェイドアウト。
Disc 3
1.Scarletstripped Clean Guitar(20:14)
小刻みなリズムボックスの連打から。四つ打ち・・・いや、八つ打ちか。
パルスみたいに軽やかに鳴る。
すぐさまギターの登場。かなり歪みつつもボディが軽い。中央部分を抜き取って骨抜きにしたみたい。
フレーズよりもアンプの唸りを強調してるように聴こえた。
フィルター・ノイズが鈴の音を代用し、クリスマス風に振り立てる。軽やかに。
中央のエレキギターは電動ノコギリの役で登場。
三連符の軽快なフィルター音は切り裂かれ、リズムもずたぼろにされた。
音像を破壊しつつも、過激さはさほどないのがおもしろい。
むしろじわじわと崩れるさまをループさせている。
そう、きっちりとループが存在し、潰された音色の奥で執拗に整然さをしぶとく保った。
音素材はギターで作ってる部分も多いと思う。けれどかなり音色が加工され、ハーシュノイズに変貌した。
8分半が経過したあたり。
それまで後ろへ控えたビートが急に前へ踊り出て、いきなり自己主張。
さらに全てが塗りつぶされ、ノービートのドローンへ塗り替えられる部分がスリリングで好き。
しばしの停滞。
ぐっと野太くギターノイズが吼え、力強い振動で中央突破を試みる。
いくつか派生ノイズが後ろで聴こえる。
しかし主役は中央の振動。高速モーターが回転し、スピーカーから逃れようとした。
性急な回転に耳が揺さぶられる。
たぶんこれもループさせていると思う。
ここまでシンプルに聴かせるアレンジは、メルツバウとして珍しい。
おもむろに別のノイズが登場した。
ところがいったんは吹き飛ばされる。メインの振動にまとわりついてはズリ落ち、空回り。
幾度もトライし、なんとかゲル状形態で覆ってゆくことができた。
回転は持続するが、かなり激しさは一段落。
とたんに。
別方面から豪快なギターリフ。
4/4っぽいリズムだが、最後の半拍が欠落してるように聴こえる。
唐突なカットアウトで幕を下ろした。
2. Bikal Sunshine(6:18)
前作から続くかのように、激しくギターが咆えた。
ハーシュノイズが素早く背後に回り、鋭さを補完。
ギターの短いフレーズをループさせ、時に音色を、テンポを変えて提示する。
強烈な軋みが嬉々として、スピーカーの前でポーズを変えるよう。
するりと音の主役が交代した。5/4拍子で軽快にステップを踏む。
次々に高い音が覆い被さり、表面が輝いた。
ブレイク。表面で激しく粒がはじける。
また鈍い唸りへ戻った。インダストリアル的な風景へすぐさま変化した。
カメラがあたりの風景をぐるりと眺め、そっとフェイドアウト。
3. Sleeping White Whale(18:48)
鈍い低音のループ。合間にキラキラ呟く高音を、鯨の鳴き声に喩えたか。
だがこれはメルツバウの海。平和な音像は一分しか続かなかった。
すぐに波が荒くなり、鳴き声が慌てて高まる。
頭に浮かんだイメージは氷山がいくつも転がる寒い海の深夜。
ぐうっと大きな身体を動かし、まっすぐ前へ進む。
その巨体が動いて起こった波に翻弄され、あたりにいた鯨たちが慌てふためく。
鯨たちの戸惑いは気にもせず、巨体をかるがると動かし、ぐっと深海へ潜った。
深く。深く。
低音が収斂し、ひとつの空間を生む。
ループかもしれないが、硬質に噴出すスピード感にビートはない。
一瞬閃くエレキギター。
次に登場したうねりは、ループとなり中心へ吸い込まれた。
もごもご口ごもるハーシュを繰り返し、いつしか風景をメカニカルにした。
もはや海から外世界へ。
再び現れたエレキギターのループも先を急ぐ。
いくつもの素材が重なり合い、10分程度立ったあたりでは妙にポップな感触も。ロックバンドの演奏を聴いてるようだ。
無論メロディなんて、どこを探してもない。
四つ打ちのテンポを高音部分で意識させ、せわしなく叩き込む。
フロアで聴いたら踊れそう。メルツバウの音楽聴いての感想っぽくないが。
でもぐいぐいノリは前のめりになり、ダンサブルさは増すばかり。
ちょっと拍の頭が掴みづらいが、たぶん7/4拍子。
奇数拍子にすることで、あからさまにポップ化するのを回避してる。・・・おそらく。
単純に秋田昌美の気持ちいいテンポや拍が、このリズムだって気もする。
エンディング間近で強引にビートをフェイドアウトさせ、混沌としたハーシュの奔流でしめた。
ループを多用しビートを構築する、この時代のメルツバウらしい作品だと思う。すごく好きな曲。
4.Untitled Pulse(7:19)
カットインでハムノイズが飛び出す。スクラッチノイズも聴こえるかな。
まずは淡々と続けて安心させ、おもむろに端っこから、ちりちりちりっと巻き上がった。
ついばむようにあちこちほころび、くるくる回転。
パルスが高速でさえずり、軽やかに身をひるがえす。
地面を泡立て、ホワイトノイズが噴出す。左にはハム音。中央にホワイトノイズ。右側にパルス。
ばらばらな要素が並列し、それぞれの分担で自己主張した。
それぞれがループされてるはずだが、もともとビート感がないためさほど繰り返しを意識させない。
中央部分にハーシュが低音を削ぎ落とし現れた。
いったんは全てを吹き飛ばす。
しかしピンで主役を張るには役不足だったか。
再び両サイドからノイズが登場。右チャンネルにハム音。左チャンネルが鈍く脈動する低音になった。
派手な展開は特になく、じりじりと音像が継続する。
メルツバウ流のインターミッションってとこか。
ほんのりリバーブさせつつ、フェイドアウトした。
Disc 4
1.Moon Jelly Fish(10:33)
低音のハムっぽい音が一瞬フレーズを弾いたあと、矢継ぎ早にハーシュノイズが噴出した。
がらがら場面展開したのち、一転して静寂へ。
身を太らせた芋虫が、ゴロゴロあちこち掘り進む。
左右にパンニング。中央にシンセの転がり。
空白を生かした音樹の中を、もぐもぐもぐもぐ掘っていく。
本来この曲はアザラシがモチーフのはず。メルツバウがイメージしたのは、深夜の海を一匹で泳ぐ姿かな。
静寂からぼくには芋虫を頭に浮かべてしまった。すみません。
進路はしょっちゅう妨げられるみたい。あちこち迂回しながらにじり寄る。
ときおりハーシュの波が身を浸すが、基本的には中央の蠢きがメインのサウンドとなり、しごくシンプルな響きだ。
音の空白が効果的。
エンディング間際で音の芯が太く鳴る。
もう迷わない。力強く前へ。
2.Walrus Band(24:27)
不穏な空気。
冒頭のサバスみたいに重たいギターリフのループがかっこいい。
歯の浮くすべらかなノイズが彩りを添え、鋭くつっこんだ。
ループが波打つように行き交い、聴いてていまいち落ち着かない。
いつのまにかギターのループは骨抜きにされ、皮のみだった。
次々にハーシュが吹きだし、目先を変える。
前半部分はかなり淡々と進む。上物は変化するが、基調ビートが同一だからだろう。
身を寄せ押し合う、アザラシたちの群れの表現か。
見渡す限り風景は同じ。柔軟に脈動する群が拡がる。
中央を急流が貫いた。ボートが川下へ下る。
滝。瀬。ときおりうねっても、ほとんどはまっすぐ進む。
スピードは常に一定。
左右の風景はどこか油断を許さない。粘っこく立ち並ぶ。
多少表情がは替わるものの、ずうっとこのまんま。メルツバウにしては珍しい構成だ。
15分くらいでホワイトノイズが吹き荒ぶ。
ここで強引に光景が替わった。
ループは別パターンに変わり、ぐっとテンポが落ちる。
鋭く張りつめた空気が高まった。
ぐうっと首をもたげ、あたりを見回す。空気がひやりと冷たい。
最終部分でぐにょっとねじれた。
色彩は替わらない。ただ空間が不安定になっただけ。
そしてラストは、再びザクザク刻むギターリフ・・・。組曲のようにゆったり音像が変化する。
刈り込んで短い作品に凝縮してはどうか。
もうちょいアップテンポだと良かったが・・・鈍く揺らぐビートは部屋で聴いてると単調に響いてしまう。
フロアなら印象替わるかもしれない。
3.Goma(12:04)
いっきなり痛快なノイズ。ギターでアンプを震わせ倒すような音。
剛速球で一本槍。前曲での停滞を吹き飛ばすかのごとく、思いっきりたっぷりとハーシュを聴かせた。
あれもメルツバウ、これもメルツバウ。
数分経って微妙に変化するが、小細工抜きの轟音は続く。嬉しいな。
一本、また一本。ぬっと顔を出したノイズがメインへ絡み、さらに強靭にした。
4分ほどでふたたびギターノイズの登場。ループがうねる。振れ幅の大きい脈動みたい。
あえて意味付けするのなら。メルツバウ流のファンファーレか。
中盤では一休み。引き続き低音が唸るものの、冒頭のインパクトに比べたら抑え目。
ドローンぽいループは、機械のモーター音をぼおっと聴いてるようだ。
荒れ狂う騒ぎは水面上へ。ときおり息継ぎで顔を出すが、あとはほとんど完治せず。
水面下をすいすい泳ぐ。
膜の向こうで騒いでるのは聴こえる。だがすぐ間近でキラキラ光る音のほうが面白いや。
光る音の真中へ身体をつっこんだ。
眩しく拡がり、吸い込まれる。
静寂。唸り。
空気が切り裂かれ、鋭く鳴った。
4.Child Of Dream Sea(10:18)
4枚組の最後を飾るのは、おごそかに低音が拡がる曲。
ロマンティックなタイトルもふさわしい・・・かな。
じっくりループで土台を作り、ハーシュの風で壁を塗る。
灰色の宮殿をカメラはゆっくり舐めてゆく。
一歩一歩、踏みしめつつ前へ。足元は固く、壁は緻密だ。
鷹揚かつ雄大。鋭く鳴るノイズにうろたえず、低音がじわじわループを積み重ね、次第にボリュームを上げた。
いったん視界は粒子に覆われる。盛大な泡立ち。
唸りが息を吹き返す。
すばやく睥睨し、視界を確保した。
一瞬きらめくシンセ。
盛り上がりを期待させ、すぐさまフェイドアウト。あっけない・・・。
(2003.5記)